【アキさん】蔵馬夢小説 | ナノ
蔵馬夢2


「実はワシにもさっぱりわからんのだ。」

蹴り飛ばしたろかこのクソどチビ。



あやめに連れられ、でっかい門抜けてでっかい建物入って「こちらです。」と案内されたでっかい部屋には、うすらちっさいガキ一匹。
霊界の統治者だと名乗った、態度だけはでっかいそのチビが開口一番発した言葉は、半強制的に連行した統治者とやらにあるまじき一言だった。
事情を説明するというから大人しく仮死状態にまでなって付いてきたというのに、「わからん。」の一言ですっぱり終わらせるたぁどういう了見だ。

思わず、ス、と軽く目を細めてコエンマを見やった私に、彼は慌てて再度口を開いた。

・・・ほんとにお偉いさんかコイツ。

「あいや、詳細がさっぱりわからんというだけであって、皆目検討がつかんという意味ではなくてだな・・・」
「OK.今そちらが把握している全ての情報、そして私を呼んだ理由。講釈は良いから事実だけとっとと話して。」
「う、うむ・・・」

なんでこんなキョドってんだこの人。
目が泳いで誰か助っ人を求めているようにも見えるが、生憎このでっかい部屋には私と彼の二人だけだ。
扉の向こうにはまだ案内してきたあやめが居る・・・気はするけれど。

―――なんだろう、この感覚。これが気配≠チてヤツなのかしら。

確実にソコ≠ノ人・・・と言えるのかわかんないけど、とりあえず誰かが居ると感じる。
そしてそれは先程まで側に居た女性と同じだとも思う。

―――ほんっとなんなんだか・・・私ふつーの一般ぴーぽー、や、救急車じゃなくて人間ね。だった筈なんだけど。。。

と、そこまで考えた時にふと思い当たって付け足すように口を開いた。

「因みに私は何の情報も持ってないからね。ちょっとでも現状把握したいから大人しく死んだぐらいだし。」
「いやお主はまだ死んではおらん。恐らく、だが・・・」

最後の一言に、知らず片眉がぴくりと上がった。
それを目にしてまたコエンマが慌てて付け足す。

「霊界に来た事を言っておるのであれば大丈夫だ、お主の霊体は必ず無事肉体に戻すとワシが全責任を持って誓おう。」

間抜けな外見ながらも精一杯真剣に私の目を見て言い切った彼はしかし直ぐに目線を落として口元に手をあて、「しかしそうか、お主個人の意思は介在していないという事か・・・」などとわけのかわらん事をぶつぶつ呟いた。
その様子を半眼で見つめる私に今度は慌てる事もなく、ふぅ、と一つ息を吐き、机に両肘をついてこちらを真っ直ぐ見つめ、口を開いた。

「そういえば名前も聞いていなかったな。・・・わかるか?」

そういえば名乗られたのに名乗ってなかったな。これは失敬。

「因幡ルナ年齢不詳。つかわかんない。中学高校を卒業した覚えは確かにあるけどそっから先は近付くにつれてあやふや。」
「そうか・・・。」

もう一度手元に目を落とし、「とりあえず、」と切り出す。

「ここ、霊界は人間界を管理しておる所じゃ。突然人間界に現れた異物を放置しておくわけにもいかなんだのでな。」
「・・・いぶつ?」

何の事を言っているのか直ぐには理解ができず、眉間に皺を寄せてコエンマの言葉を反芻した。

「お主の事じゃ。自然に生まれてきたモノではなく、流されてきたモノでもない。いきなり・・・そうじゃな、降って湧いたとでもいうべきか。」

そんな人を亡霊みたいに。

「霊界と人間界の他に魔界という世界もある。そちらは広大過ぎて霊界はほんの一部しか把握しておらん上に、人間界と魔界の空間はよく歪んで双方のモノが行き交う事も少なからずある、のだが・・・」
「んじゃ私はそのマカイとやらの住人てワケ?・・・なんか響きが宜しくない世界だけど。」
「ああ、魔界は妖怪達の世界じゃ。普通の人間は空気を吸っただけで死ぬ。」
「あ、やっぱその魔界≠ネんだ・・・」

おかるとふぁんたずぃー。
なんか真実味感じないなぁ、現実離れし過ぎてて。
もし今「お前は妖怪ぢゃ」とか言われても「あ、そう」で流せてしまいそうだ。

「後で調べさせて貰うが、見た所妖怪ではなかろう。」

普通の人間、というわけでもなさそうだが・・・なんて続いた呟きは聞かなかった事にする。
なんでもいいから私の居場所に帰して。って、その居場所≠ェわからんって話をしてるんだよね。
・・・眠くなってきた。

欠伸が出そうな私を他所にコエンマは小難しい顔で続ける。

「そもそも空間が歪んだ形跡も無いのだ、過去に類を見ないケースなのでな・・・如何とも明言は出来んのじゃが・・・」

結局何もわからんって事じゃないか。

やっぱり突っ込みついでに一発蹴り入れとこうと片足に重心を乗せた時、ドンドンドン!とお世辞にもノックとは言えない派手な打音が部屋に響いた。
私が入ってきた扉じゃない、部屋の側面奥にある扉だ。
私とコエンマが目をやると同時にその扉は開き、水色ポニーテールの女の子が飛び込んでくる。

「コエンマ様ぁ!!」
「ぼたん、相変わらずお前は・・・もう少し大人しく行動出来」
「閻魔大王様がその女の子をお通ししろって!!!」
「なにィッ!!!??」

掴みかかる勢いでコエンマの言葉を遮った女の子に、それまで悠長に腰掛けていたコエンマも掴みかかる勢いで飛び上がった。

・・・エンマ?
舌でも引っこ抜かれんのかしら。

「何を考えとるんだ親父は!何か確証でも得たのか!?」
「あたいに聞かないで下さいよぅ!!」

コエンマに詰め寄られたぼたんというらしい女の子が、ひーん、と半泣きでおろおろしている。
・・・ん?

「コエンマのコ≠チて子供のコ=H閻魔の子供、って事?」
「それがどぉした!!!」
「私にまで怒鳴るな!!」

単に安直だと思っただけだ!と続けてから、ふ、と一つ息を落として女の子の方に向き直る。

「あー・・・ぼたんちゃん?」
「ッ、はいな!!」

びし!と敬礼でもしそうな勢いで姿勢を正した彼女に、いやそんな緊張せんでも、と突っ込みたいのを押し止めて口を開く。

「閻魔サマってーのはどこに居るの?その扉の奥?私呼ばれてるのよね?」

言外に、とっとと行っていいか、といううんざりした響きを多分に込めて言った私に、コエンマとぼたんが顔を見合わせた。

「あ、ぇえと、あたいが案内する、けど・・・」

私とコエンマをおろおろ見やるぼたんには構わず、ぼたんが飛び出してきた扉にさっさと向かう。
背後から少し焦ったコエンマの声が飛んできた。

「ルナ!わかっておるのか、閻魔大王がどういう存在なのか・・・!」
「アンタの親父でしょー舌の収集がご趣味な。」
「ンな趣味無いわいっ!!」

あ、そーなんだ。じゃあ少なくとも舌抜かれる心配はないのか。

「それは結構。じゃぼたん、案内してくれるならとっとと行きましょ。ガキ相手にしてても埒あかないわー。」
「なッ・・・ガキじゃと!?ワシはこれでも千は悠に生きとるっ!!」
「でもここではガキに違いないんでしょー?悔しかったらデコのお子様マーク引っぺがしてからくるのね。」
「っっ・・・!!!」

背後でおでこを押さえるコエンマが目に見えるようで、くす、と笑みをこぼす。

先刻、閻魔とはなんたる、と聞いてきた彼の口調はその存在を誇示するようなものではなく、寧ろ、「怖いんだぞ、危ないんだぞ」と注意喚起をするようで。
更に少し、笑みが深まる。
出会ったばかりの正体不明不審人物を気にかけるとは、とんだお人好し統治者も居たものだ。
本来ならば緊張するべき場面なのだろうが、彼のお陰か気負いは無い。
心中で軽く彼に感謝し、しかし実の息子であるコエンマですら畏怖している様子の、なんと言っても天下の閻魔大王サマだ。童話でしか知らないけど。
ふんどし締め直してかからねばな、と、色んな意味で顔を引き攣らせたぼたんの後に続く。
沸いてきた欠伸を噛み殺しながら。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -