【アキさん】蔵馬夢小説 | ナノ
蔵馬夢21



「蔵馬に会った!?」

これまた昨日以上にボロッボロになった幽助の治療をしながら彼の話を聞く。

「おう。3日経ったら必ず宝を返すってよ。あー昨日といい悪ぃなルナ、治療助かるぜ。」
「いや、それは良いんだけど・・・」

く・ら・ま・の・や・つ!!
ひよこの幽助には会えても私には会えないってか!!
って、怒るのはそこじゃなかった。

「あたしはワナだと思うけどね。」

ぼたんがそう思う理由と一緒に話し出す。
まぁ普通ならそうだろう。けど蔵馬は本気だ。
それを裏付けるように幽助が、蔵馬は仲間を抜けようとしていた、と言う。
恐らく、盗み出すのに手が欲しかったから組んだだけなのだろう。
・・・どうでもいいけどこの幽助ってのも不良の癖にお人好しだな。
蔵馬の事を「悪いヤツじゃねーような気がする」と評されて素直に嬉しかった。

―――そうだよ。他に手が無いから。愛してしまったから。どうしようもなくて。
   ・・・自分一人が犠牲になろうとしている。

絶対、許さない。
考えなさい、ルナ。蔵馬ならどこで確実に姿を現す?
敵方に疑われている可能性がある以上、まずは敵意が無い事を確実に示さなければ、鏡の儀式に挑めない。
なら―――現実をありのままに見せる。鏡を使う理由に疚しい事は一切無いのだから。

―――病院、か。

鏡を使う前に再度姿を現すのはリスクが高い。
なら、3日経った放課後、幽助を待ち伏せて病院に行き、そのまま鏡を使う。
ただの想像でしかない。が、不思議と確信が持てた。
蔵馬も対策は考えてくるだろう。
一番手っ取り早いのは私を拉致監禁する事。若しくはお得意の薬草で昏睡状態にさせる事。
何にしてもこの3日間は気が抜けない。

「ッ!!」
「ルナちゃん!?」

瞬時にベランダに移動して外に出る。
一瞬だが確実に蔵馬の気配がした。
ざっと上下左右を見渡すが、もう気配の痕跡すら見出せない。
敵に接触したなら、その後相手がどう出るか探る。基本中の基本だ。
思わず頭を抱えた。なんでそんな事にも頭がまわらなかったのよ私の馬鹿・・・!!

「なんだ!?ルナが消えたぞ!?」
「物凄いスピードで移動したんだよ!どうしたんだいルナちゃん!」

ベランダの物音に気付いたぼたんと幽助がやってくる。

「ちょっと、気配を感じたんだけどね・・・逃がしちゃったみたい。」

苦く言うと、ぼたんがそれ見た事か!と主張を始めた。

「きっと蔵馬だよ!やっぱりワナだったん」
「それは違うわ。」

暗い空、街の灯り。向かいのビルの屋上がよく見える。
たぶんあの辺だろうと睨み付け、ぼたんを遮ったまま続けた。

「自分が信用されてるか否か確かめに来たのよ・・・蔵馬の言ってる事は全て真実よ。」
「ルナちゃん・・・もしかして何か知ってるのかい・・・?」

ぼたんが訝しげに問いかけてくる。

「・・・ごめん。全ては言えない。けど一つだけ言える事がある。」

一度、目を瞑って蔵馬の屈託の無い笑い顔を思い浮かべる。
あんな顔をしている時は大抵、何かやらかした私を笑っている時だ。
―――幸せだった、時だ。
いい加減、私もこの感情に見えないふりなんてやめてしまおうか。

・・・蔵馬が居ない世界なんて、考えられない。

笑われても、結局は一緒に笑ってしまう程、蔵馬の隣は楽しかった。蔵馬が居るだけで、嬉しかった。幸せだった。
私は、蔵馬を―――

「蔵馬に、害は無いよ。」

目を開け、ぼたんと幽助に笑いかける。
きちんと笑顔は作れていただろうか。



**********



―――3日、経った。

今日、私は昼休みに学校を早退していた。
家に帰り、シャツとスパッツという動き易い服装に着替え、気分を落ち着かせる為に日課のスポーツドリンクを飲む。
この3日、起きてから登下校、寝ている時まで気を張っていたが、たまに飛影の邪眼の気配を一瞬感じる程度で、蔵馬に動きは無かった。
幽助が「仲間割れしていた」と言っていた以上、飛影と蔵馬が未だにつるんでいるとは考え辛い。
飛影は飛影で自分の事を考えているのだろう。
一通り自分の部屋を片付け、トンファー片手に家を出る。―――最初から「因幡ルナ」なんて存在しなかったという事にしやすいように。

病院に程近い並木道のベンチに腰掛け、ふぅ、と一つ、息を吐く。
病院に行くにはこの道を通るしかないし、並木をかき分けて少し行くと小さい広場もある。
我ながら絶好の位置取りだ。

この世界に放り出され、気紛れとはいえ『お母さま』の加護を受け、そして南野家の一員となった。

―――楽しかったなぁ。

その時は全然楽しくなかった事でも、思い返してみれば楽しかったと思えるのだから不思議だ。
うっかりやらかしてロストバージンしかけた事もあったっけ、とクスリ、笑む。
思えば、いつからかはわからないけれど、あの時には既に私は蔵馬が―――

「・・・。」

思考の海に浸っていた私の第六感が反応する。―――来た。
ベンチから立ち上がって両手にトンファーを持ち、仁王立ちして2人が来るのを待つ。
そう長い時間ではなかった。

「ルナ!?おめーなんで」
「・・・ルナ。」
「え?なんだ??蔵馬と知り合いだったのか!?」

・・・実に久しぶりにその声で名前を呼んで貰えた。
その事に歓喜が湧き上がるが、ぐっと抑え、まずは私と蔵馬の間で困惑している幽助の方を向く。

「黙ってて悪かったわ幽助。蔵馬とはちょっとした仲でね・・・少し彼、借りていくわよ。」
「借りてく、って・・・」
「あなたの不利になる事は誓ってしないわ。ただちょっと蔵馬を半殺しにするだけよ。」

にっこり笑って言った私に幽助は唖然とし、蔵馬は思いっきり苦笑いしている。

―――その苦笑いですら愛おしいと思うなんて、重症ね。

内心で自嘲した後、今度は蔵馬の方を向いた。

「蔵馬。」

くぃっと顎で広場の方向を示す。
頷いた蔵馬は幽助の方を向き、

「すぐ戻るから、そこのベンチででも待ってて貰えるかい?」

などとのたまった。

「・・・舐められたもんね。それとも早々に降参宣言かしら?」
「舐めてもいないし、降参するつもりも無いさ。じゃ、行こうか。」
「え、あ、おいっ!!」

幽助の声は無視して、彼には付いて来れないだろうスピードで移動する。
広場が見えた所でお互いの間合いを計って飛び退った。

「よくもここんとこ避けに避けまくってくれたもんね。」
「会ったら即刻こうなっただろう?」
「当たり前よッ!この私に何の相談も無くっ・・・!!」

思わず涙が出そうになったのを必死で振り払う。

「とにかく鏡を渡しなさい。人はいつかは死ぬものよ。」
「断る。」
「ッ、妖怪のあんたにはわかんないかもしんないけどね!人ってのは寿命が短いからこそ、」
「渡したらお前が使う気だろう?」
「なっ・・・!!」

んで、とは辛うじて言わなかったが、見開いた目と反応で見抜かれただろう。

「そんなわけ、ないでしょっ・・・私はただ、盗まれたものを」
「取り戻すつもりなら『返せ』と言う筈だ。ルナは『渡せ』と言った。それは霊界の意思が介在しない、ルナ個人の行動だという意味だ。」

薄々予想はしていたけどね、と微笑んで言われてしまえばぐぅの音も出ない。
元々蔵馬相手に頭脳戦や悪足掻きが通じる筈などなかったのだ。
なら―――

「・・・それなら話は早いじゃない。私は元々存在しなかった人間。私が使えば南野家は元に戻るだけでしょう。」
「オレだって元々南野の家に居るべきではなかった存在だ。」
「生まれといて何言ってんのよ!途中参加の私の方が居なくなるには適してるでしょうが!そんな単純な計算も出来ないの!?」
「・・・そうだな。単純な計算も意味が無い程、オレはルナと母さんで幸せになって欲しいと思ったんだ。」
「なんっ・・・私だってあんたと母さんで幸せになって欲しいから!部屋まで片付けて来たんじゃないっ!」

段々涙声になってきた。いけない。予想はしてたけどこの後は戦闘になる。余計な感傷は隙を生んでしまう。
それでなくても相手は警戒してもし足りない蔵馬だ。一つ、大きく深呼吸して気を落ち着ける。

「・・・話し合いはここまでね。あんたを瀕死にしてでも鏡は私が使う。」
「相変わらず物騒だな・・・」

トンファーを構えた私に、苦笑しながらも蔵馬は首の後ろから薔薇を取り出した。
・・・髪、いつの間にそんなにのびたんだろうね。
無用な感傷で再び泣きそうになるのを必死で耐え、すぐに呪を唱えてトンファーを強化する。

「・・・お前とだけは戦いたくなかったけど・・・ここは、オレも絶対に退けない。」
「蔵馬。闘り合う前に一つだけ言っておく事があるの。」
「手加減無用、か?」
「馬鹿ね、そんなの今更でしょう。」

ス、と目を閉じて呼吸を整え、真っ直ぐ彼の人の瞳を見つめた。

「・・・蔵馬。愛してるわ。」

軽く目を見開いた蔵馬は、一瞬、我を忘れるほど綺麗な笑顔で答える。

「・・・オレもだよ。」

2人同時に地を蹴った。

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