【アキさん】蔵馬夢小説 | ナノ
蔵馬夢22



「ローズウィップ!」

蔵馬が薔薇を鞭に変える。
この、広場という範囲が決められた舞台では、短・中距離タイプの蔵馬が、短・長距離タイプの私にとっては苦手な相手となる。
けれど相手の思惑が読めるなら話は別だ。
案の定、蔵馬は右手のトンファーに鞭を絡ませてきた。
武器強化していなければ切れ落ちただろうトンファーだが、逆に鞭を千切ろうとしてもそこまでは力が足りず、数瞬、武器の引っ張り合いになる。
一瞬、全力でトンファーを引っ張った後手から離し、その反動と共に地を蹴って飛び蹴りを仕掛けた。
ギリギリで蔵馬が避ける。
鞭を使う暇を与えず次々に体術を繰り出すが、お互いに手の内を知り過ぎていて当たらない。
と、背後から何かが飛んでくる気配がして横に跳び、避けた。
さっき捕まえたトンファーを鞭で操って投げ返してきたらしい。

「・・・相変わらず、無駄に器用ね。」
「無駄に、は酷いな。」

苦笑しながら手にしたトンファーを背後の茂みに放り投げる。

「あれ、当たったら痛いんだよ。」
「その為の武器でしょうが。あっさり捨ててくれちゃって。」
「自分の武器で二度も殴られたくないだろう?」
「・・・八つ手の時の事、言ってる?」

思わず目を眇めた。

「ああ。・・・あの時どれだけオレが心配したか、知らないだろう。」
「ええ、知ったこっちゃないわね!ヴィスファランク!」

再び駆け出した私に蔵馬が鞭を振るうがトンファーで払いのけ、しつこく絡もうとしてくる鞭の先を強化した足で踏みつける。
強化してなければ足が真っ二つだ。
そのまままた別の呪を唱えながら蔵馬に突っ込む。
てっきり拳の強化をしたのだと思い込んでいたらしい蔵馬に一瞬の隙が生まれていた。

―――ここだ!

左手のトンファーを蔵馬の右肩目掛けて思いっきり振り下ろす。
が、蔵馬も咄嗟に雑草を剣に変えて防いでいた。
しかしこれで蔵馬は両手を塞がれ、私は右手が空いている状態となる。
唱えていた呪――対象者に触れなければ発動しないが、発動すれば痺れて動けなくなる雷の呪文――を開放すべく、蔵馬の左肩にトンッと右手を乗せた。
後ろから鞭が迫るが呪の方が早い。もらった!!

「モノ・ヴぉ、る・・・!?」

もう少しで発動、という所で急激に視界が歪み、足に力が入らなくなった。
トンファーも手から滑り落ち、その場にくずおれそうになった私を蔵馬が受け止める。
な、に・・・!?

「何とか間に合ったな。」

ふぅ、と一息吐いた蔵馬は剣も鞭も消してしまった。

「ど、ういう、事・・・!?」
「本気になったルナは用心深いからね。薬を盛るのも一苦労だったよ。」

薬なんて、それこそ一番警戒していた事だ。
戦闘中も花粉等を使う気配が無いかずっと注意していたし、ここ最近はずっと毎日ランダムでコンビニ弁当にしていた。
なら、一体どこに・・・?
眉間に皺を寄せまくる私に、蔵馬が苦笑して続ける。

「人は慣れきった習慣には頭を使わないって事さ。」

・・・あ・・・!!

「すぽーつ、どりんく・・・!?」
「ご名答。」

違う!習慣だからこそ、少しの異変でも気付いた筈!

「勿論、気付かれないように毎日少しずつ、ね。このタイミングで来るだろうと思っていたから、この日、この時間に効能が現れるように逆算して。3日もあれば、どんなに感知が優れた奴でも気付かない少量ずつで済んだし。」

・・・それで、毎日私と鉢合わせしないように家に帰ってたのか。
やられた・・・!

「ず、るい・・・」
「手加減無用、だったんだろう?」

段々目も霞んでくる。

「心配しなくても丸1日程度眠り続けるだけだよ。・・・起きたら全て、終わってる。」

イヤだ!!そんなの絶対容認出来ない!!許さない!!

そう思うのに最早口を開く事も出来ず、抗えない睡魔に身を委ねるしかなかった。

「・・・お休み、オレの愛しい眠り姫。・・・次は、霊界で会おう・・・。」



**********



「おう、終わったか蔵馬・・・って、ルナ!?」
「心配無い、眠ってるだけさ。」

蔵馬がルナを抱えて並木道に戻ると、幽助は言われたベンチでタバコを吹かしているところだった。
心配そうにペチペチルナの頬を叩く幽助に少し不快を感じた蔵馬は一歩、幽助から離れる。

「彼女を家に置いてきたいんだけど・・・もう少しだけ待てるか?」
「その前に、おめーとルナの関係を聞きてーんだけどよ。」
「ルナは・・・オレの同居人で、家族だ。もう3年程一緒に暮らしてる。」
「家族ぅ!?おめー妖怪だよな?で、ルナは霊界探偵代行やってたんだよな??」
「・・・その辺の事も含めて、連れて行きたいと言った先で説明するよ。今は、とりあえず早くルナを布団で寝かせてやりたいんだ・・・。」

ルナを優しく見つめる蔵馬に、「家族」という言葉以上のものを感じ取った幽助はバツが悪そうに頭をガシガシかき、口を開いた。

「あーもうわかったからさっさと行って来い。こうなりゃどんだけ待たされても一緒だ。」
「・・・逃げるとは、思わないのか?」
「逃げるなら一々断りに来ねーだろ。何よりオレはルナを信じてるし、おめーらの間の絆みてーなもんも感じちまったからな。」
「・・・恩にきる。出来る限り急ぐよ。」

言い終えた時には既に蔵馬は幽助の視界から消えていた。



眠っているとはいえ、一応ルナと共に家に帰るのは本当に久々だ。
どこか感慨深いものを感じつつ、2階への階段を上がる。
規則正しい寝息を立てているルナの寝顔は穏やかなものだった。夢すら見てはいないのだろう。
思わず微笑み、ルナの部屋のドアを開けた。

「・・・これは、また。」

思わず苦笑が零れる。
ルナはズボラではないが几帳面な方でもない。
無駄なものを一切置かない自分と違って、一応――などと言ったら鉄拳が飛んできそうだが――女の子らしくぬいぐるみや可愛いものも好きで、それなりに物も置いてある部屋だったのだが―――

「自殺前の部屋だな。」

思わずそう零してしまう程、物は少なく、きっちり整理整頓されていた。
ルナの覚悟に胸を痛めつつ、彼女をベッドに横たえる。

―――いつからだったのだろうか。

顔にかかった髪を避けてやりながら、そういえば初めて一緒に寝た日もこうして髪を避けてやったな、なんて思い出す。
始めは厄介な拾い物だった。
それがいつの間にやら命に代えても守りたいお姫様。とんでもない昇格をしたものだ。

―――『蔵馬。愛してるわ。』

嬉しかった。
嘘が下手で、今にも泣き出しそうな感情を必死で押し殺した、それでも真摯で真っ直ぐな眼差し。
もしかしたら最初から、あの脆くも強気な瞳に惹かれていたのかもしれない。
頬を撫で、自然と唇にキスしようとして寸前で思い止まる。
眠り姫は王子様のキスで目を覚ます、なんて信じてるわけじゃないし、自分も王子様なんてガラじゃない。
けれど、彼女の意識が無い時にキスするのは2度目だ。流石に気が引ける。
次に唇を合わせる時はお互いに意識のある時がいい。―――それが例え、死後の世界だったとしても。

―――『愛してる』

最期にこの上ない幸せをくれたルナに、感謝と、それ以上に有り余る思慕を込めて髪の一房にキスを落とし、蔵馬は幽助の元へと戻っていった。

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