【アキさん】蔵馬夢小説 | ナノ
蔵馬夢18



入試も終わり、正式に盟王高校入学が決まって中学の卒業式も終了し、のんびり春休みを満喫し始めたある日。

 トゥルルルルットゥルルルルッ

蔵馬と二人、リビングでどーでもいいテレビを見ていたら電話がなった。

「秀一、ルナー!悪いけど電話出てくれないかしらーっ」

昼ご飯の準備をしていた母さんが台所から叫んでくる。
全く行く気も無く、うでれーんとソファで伸びている私に、半眼で溜息を吐いた蔵馬がやれやれと立ち上がった。

「はい、南野です。」

畑中さんかなー。
あの顔合わせ以来、何かと暇を見つけては私達とも交流を持つようにしてくれている。
本当にマメで誠実な人だ。

「はい、そうです。・・・ありがとうございます。」

・・・違うみたい。誰だ?

「・・・は?新入生総代、ですか・・・2人で??」

盟王高校かー!!しかも2人とか言ってる!!

「私はやだよ面倒くさい!やるなら秀1人って言っといて、新入生総代なんて!」

電話中の蔵馬に叫ぶと、「オレだってやだよ」な視線が返ってきた。

「申し訳ありませんが・・・」

2人纏めて断る事にしたらしい蔵馬が言葉を続けようとした時。

「まぁ!新入生総代ですって?盟王高校からなのね、代わって貰えるかしら秀一。」

・・・母さんが目を輝かせて台所から出てきた。

「あ、すみません、母に代わりますので少しお待ち下さい。」

言って保留にする蔵馬。

「・・・母さん、オレ達に総代やって欲しいの?」
「勿論よ、光栄な事だし、きっと素敵な思い出になるわ。」

と、軽い興奮状態だった母さんがふと気付いて表情を曇らせる。

「あ、でも、あなた達が嫌なら・・・」

・・・正直に言おう。私も蔵馬も母さんのこの表情には滅法弱い。
ダブル総代が決定した瞬間だった・・・。



**********



「あ゙ー肩こった!」

無事、総代という任務を果たして入学式も終了し、蔵馬と共に体育館から出ようとした。ら。

「因幡さん!総代の因幡さんでしょ?容姿端麗頭脳明晰なんて本当に居るんだね!」

これから同級生になる男子に声をかけられた。

「・・・容姿端麗?」

思わず蔵馬を見る。

「・・・普通だと思うけど。」

だよねー。ちょっと腹立たない事もないけど、私もそれが事実だと思う。
「総代」というだけで、頭脳どころか容姿まで格上げされてしまうのか。恐ろしい。

「ま、これから長い付き合いになるんだから雑な扱いするなよ。オレは先に行ってるから。」

・・・蔵馬ってたまに抜けてる。

「南野くーん!」
「キャー!カッコイイ!」
「容姿端麗頭脳明晰なんてスゴーイ!」

こっちの「容姿端麗」は事実だ。先に行けると本気で思っていたのか愚か者め。
これが嫌だから総代なんて引き受けたくなかったんだ!!
同じ事を思っているであろう蔵馬の引き攣った笑顔を横目に、声をかけてきた男子と挨拶を交わす。

「それじゃあまた、明日から宜しく・・・」
「因幡さん!」

・・・待て。ここで延々足止めとか本気カンベンっ!!

どう切り抜けようか、蔵馬の方で何か上手い策出してくれないかしら、等と考えをめぐらせていたら、不意に蔵馬が片手を挙げた。

「母さん!」

・・・上手い策を出せ、とは思った。
思ったが、切り札出しやがるとは思わなかった・・・よっぽど耐えかねたんだな。

「ごめんね、母さんの体調があんまり良くないみたいなんだ。また明日から宜しくね。」

蔵馬の必殺スマイルにやられた女子達が放心している。
その隙に女子の輪を抜け出した蔵馬はこちらにも救いの手を差し伸べてくれた。

「ほら、行くよルナ。」

・・・ありがたい。少なくともこの場においては、ありがたい。
が、明日からの学校生活の事を、自分から言い出した癖にわかっているのか。

「・・・なんで因幡さんと南野が?」
「従兄弟でもうずっと一緒に母さんと住んでるの。そういうわけだからごめんね、明日から宜しく!」

言って私も男子の輪から抜け出す。

「・・・秀ちゃん。女生徒様方の視線が痛いよぅ。」
「我慢しろ。オレだって視線が鬱陶しい。」

皆に背を向けたのを良い事に笑顔の仮面を放り投げて小声で会話する。
手を振ってくれている母さんの、本当に嬉しそうな笑顔が眩しかった・・・。



**********



「ちょっと母さん、大丈夫?」

高校入学直後の一騒動も落ち着いてきたある日の晩。
愛飲しているスポーツドリンクを冷蔵庫から出してふと夕食を作っている母さんを見たら、やたらと顔が青白い。

「・・・ちょっと、疲れてるのかしらね・・・調子悪そうに見える?」
「物凄く。続きやっとくから部屋で休んでてよ、尋常じゃない顔色してるよ。病院行こっか?」
「やぁね、大袈裟よ。大人しくしておくから・・・悪いけれど後お願いするわね、ルナ。」
「任せて、秀にも手伝わせるから!何か栄養のあるものも作るね。」

適当でいいわよ、と力無く微笑んだ母さんが台所を出て行った。
私は2階に向かって声を張り上げる。

「秀ーっ!晩御飯作るの手伝ってー!」

直ぐにガチャリと2階の部屋の扉が開いて蔵馬が顔を覗かせた。

「どうかしたのか?」
「母さんの体調が良くないみたいで・・・様子見てからこっち手伝ってくれる?」

私は外傷治癒専門で、病気は全くの門外漢だ。
寧ろ蔵馬の専門分野に近い。
蔵馬は少し険しい顔をしながら下りてきた。

「ここのところ確かに調子悪そうにしてたけど・・・母さんの『大丈夫』に騙されたかな。」
「ね。なんなら何か精力のつくような薬草でも料理に混ぜ込むからさ。とにかく診て来てよ。」

頷いて母さんの部屋に入っていく蔵馬。
とりあえずやりかけだったじゃがいもの短冊切りを済ませ、ベーコンを冷蔵庫から取り出そうとした時。

「ルナ!救急車だ!!」
「ぇっ・・・」
「母さんの呼吸がおかしい!」

あの憎ったらしい程いつでも冷静沈着な蔵馬が慌てている。
緊張の糸を張り巡らせるには十分過ぎる光景だった。
即行で受話器に飛びつく。

「救急です!住所は―――」

暫くして到着した救急車に、母さん共々蔵馬と私も乗り込む。
横たえられて人工呼吸器を取り付けられ、応急診療を受けている母さんの顔は真っ白で、寒くも無いのに体が震えてきた。
そんな私の手を蔵馬が握る。
見上げると、少し苦いながらも蔵馬の笑顔があって、少しだけ落ち着いた。
しかしそれも、病院のカンファレンスルームで母さんの余命が1ヶ月前後と聞かされるまでの事だった―――

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