【アキさん】蔵馬夢小説 | ナノ
蔵馬夢17



コエンマとぼたんが来た2日後。
「完治したね。もう戦闘にも支障は無いだろう。ホレ、さっさと出てけ。」という、ばーちゃんの有難くも冷たいお言葉で南野家に帰る事になった。
因みに母さんには霊界の手によってまた記憶操作が行われたらしい。
申し訳無さと不甲斐無さで一杯だ。この事実は二度とやらかすまいという何よりの自戒になった。

南野家に帰りついたのは、蔵馬は帰っているけど母さんはまだ、というある意味ベストな時間帯だった。
思えば家族になってから蔵馬と一週間近くも顔を合わせなかったのは初めてで、妙な緊張感がある。
慣れた筈の玄関を開けようとして、扉一枚隔てた向こうに蔵馬が居る事に気付いた。
一瞬開けるのを躊躇うが、此処で突っ立っていても不審者にしかならない。
何よりこの数日、何故か会いたくて会いたくてたまらなかった人がすぐそこに居る。
躊躇う必要なんて無かった。抱えていた上着を抱き直して扉を開ける。

「ただいっ・・・!」

ま、と言い切る前に、私は蔵馬の腕の中だった。

「く、らま・・・?」

ぎゅ、と痛いほど抱き締められて戸惑う。

「・・・ルナだ。」

ほとんど聞き取れない音量で呟いた蔵馬は、大きく一度深呼吸してから漸く少しだけ体を離して「おかえり、ルナ」と微笑んでくれた。
・・・その微笑はどこか泣いているようにも見えて。
気付けば私も、蔵馬の背に腕をまわしていた。

「ただいま、蔵馬」



**********



「飛影が!?」

何やら感動の再会っぽいものを演じてしまってお互い我に返り、どこか気恥ずかしく離れた後。
蔵馬の部屋で情報交換会となっていた。

「ああ。飛影が居てくれなかったらオレの到着はもっと遅れていたし、死の泉とやらからルナを救い出す事も出来なかったよ。」
「邪眼で視られてたのか・・・全然気付かなかったな。」
「・・・それどころじゃなかったんだろう?」

蔵馬が少し、目を伏せる。

「ま、そーなんだけどね。にしても厄介な奴に借り作っちゃったなぁ。」

コエンマがさっさと雪菜ちゃんの情報持って来てくれたら簡単に返せるのに、と思いつつも今回の件でコエンマの仕事を増やしてしまったのは紛れも無く私自身だから何も言えない。

「厄介と言えば霊界だ。キナ臭い話は昔から聞くし、さっさと縁を切れたらいいんだが・・・。」
「コエンマはいい奴なんだけどねー。どこの世界でも組織ってのは大変だ。」

うーん、と両手を伸ばしてゴロンと横になる。

「あー帰ってきたって感じするー・・・で、母さん遅くない?」

いつもの時間は過ぎている。何かあったのかと心配する私をよそに、蔵馬が含み笑いをした。

「今日はデートだよ。」
「ああそう、デートか。そりゃ仕方無・・・でーと!?」

思わず飛び起きる。母さん彼氏居たの!?

「ほら、母さんの話に何回か出てただろ、パートで知り合ったとかいう畑中社長。今日はあの人と晩御飯食べてくるんだって。」
「はー・・・母さんやるじゃん。」

蔵馬がくすくす笑う。

「母さんは、食事に誘われただけで彼氏なんてとんでもないって慌ててたけどね。慌てっぷりが可愛かったよ。」

恋する女性は幾つになっても可憐だね、なんてド気障な事言ってるけど、蔵馬が言うと様になるから不思議だ。

「じゃあ私も恋したら可憐になる?」
「・・・元が元だからな・・・」

冗談半分で悪戯っぽく聞いてみたら予想通りの答えが返ってきた。
予想してたとはいえ、腹立つものは腹が立つ。ぶす、とふくれていると、蔵馬が軽く吹き出した。

「冗談だよ。ルナは恋してなくても輝いてる。」

そんな見え透いたご機嫌取り――と言おうとしたのに、蔵馬が本当に眩しそうに、どこか寂しそうに見てくるから。
私は複雑な気分で視線を逸らすしかなかった。



**********



霊界探偵代行に復帰した私は、相変わらず受験だ妖怪だと忙殺されていた。
そんな日々を過ごしていれば1年なんてあっという間だ。
結局高校は蔵馬の言った通り、二人揃って進学校と名高い盟王高校に内定となり、今日はそのお祝いと、畑中さんとの顔合わせも兼ねて外食に来ていた。
畑中さんとそのご子息、向かいに母さん、蔵馬、私と着席したところでまずは自己紹介に入る。

「初めまして、畑中です。」

どこか緊張しながら挨拶をしてくれた畑中さんは、お世辞にも格好良いとは言えない極々普通のおじさんだったが、柔和な雰囲気から優しい人柄を感じさせる人だった。

「初めまして、いつも母がお世話になっています、南野秀一です。」
「初めまして、本当は姪っ子ですけど志保利母さんは本当の母だと思っています、因幡ルナです。」

二人揃ってぺこりとお辞儀する。

「盟王高校の内定が出たんだってね、おめでとう。・・・ほら、秀一もきちんと挨拶しないか。」
「「秀一??」」

思わず蔵馬とハモってしまった視線の先には、私達より少しだけ年下に見える男の子。

「・・・初めまして、畑中秀一です。」

母さんは「あら、言ってなかったかしら?」と相変わらずほわほわしている。
どうやら母さんと畑中秀一君は一度会った事があるらしかった。

「凄い偶然・・・だけど呼び方に悩んじゃうね。秀は秀だから・・・秀君、でいいかな?」

おずおずしている様が年相応で可愛らしい。蔵馬は全く可愛くないからね。
思わず微笑んで話しかけると、はにかみながら「はい、ルナさん。」と答えてくれた。可愛い!

「こんな可愛い子が弟になるなんて嬉しいーっ!」

思わず内心を口に出してしまって隣の蔵馬に背中を抓られる。が―――

「いやっルナちゃん、それはまだ早計というかだね、」
「そうよルナ、今日はただ正式にお付き合いする事になった報告を、」
「志保利さん、それは僕からって話・・・」
「あ、あらあらごめんなさい・・・」

大人二人は勝手に慌てだして、こちらの様子には気付いていないようだった。
・・・相変わらず抜け目の無い狐め。くそぅ背中痛い・・・。
畑中さんが顔を赤くしながらゴホンと咳払いをする。

「では改めて・・・秀一君、ルナちゃん。見ての通り僕は一度結婚をしているし子供も居る。自分でも大した取り柄の無いただのおじさんだと思っているけど、志保利さんはそれで良いと言ってくれた。僕はただ、真剣に真っ直ぐに志保利さんを愛している。彼女を傷付けるものは例え自分でも許せない。胸を張れるものといったらこの彼女への想いぐらいなんだけれど・・・交際を認めて貰えるだろうか・・・?」

―――ああ、やっぱり良い人だ。

少なからず緊張した面持ちながらも、真っ直ぐ真摯にこちらを見つめてくる視線が、いっそ清々しい。
蔵馬と顔を見合わせてどちらからともなく微笑みあった。
蔵馬が口を開く。

「母をそこまで愛して下さって有難うございます。今後も僕達共々、母を宜しくお願い致します。」

蔵馬の言に合わせて、私もぺこりと会釈する。

「良い人に見初めて貰って良かったね、母さん。」

言いながら母さんの方を見ると、畑中さん以上に顔を真っ赤にして俯いていた。
・・・蔵馬が可憐だと言った事を本当の意味で理解する。本当に母さんが可愛らしい。
畑中さんは肩の荷が下りたように目を瞑って、ふーーー、と大きく息を吐いた後、「ありがとう。こちらこそ宜しくね。」と微笑んでくれた。
良いタイミングで料理が運ばれてきたので、食事をしながら和やかに歓談となる。
私は母さんと畑中さんと秀君を見て嬉しくなり、ぼんやりと幸せな未来を思い描いていた。
いずれこの二人は再婚するのだろう。そうしたら父さんと弟が出来る。
家はどうなるのかわからないけれど、父さん、と呼びかけたらちゃんと答えてくれるだろうか。きっと最初は慣れないに違いない。
秀、と呼んで二人が振り向いたら面白いな。秀君を思いっきり抱き締めてあげたい。照れて暴れるだろうけど離してやるもんか。
・・・楽しいな。蔵馬もそんな未来を思い描いて幸せな気分になってたら良い。
そう思って隣の蔵馬を見上げたら、何か楽しい時に度々浮かべる、寂しそうな眩しそうな微笑で母さん達の会話を聞いていた。

―――なんでそんな、その幸せの中に自分は居ないとでも言いたげな顔をするの。

確かに、妖力が回復したら出て行くつもりだった、てのは聞いた。
でも、母さんを「母」として愛したんでしょう?
出て行くつもり「だった」って事は過去に思ってた話って事でしょう?

―――ある日突然蔵馬が居なくなったら。

ふ、と過ぎった考えに、自分の顔が強張ったのを感じた。
思わず泣きそうになったのをなんとか微笑で取り繕う。
蔵馬もいつの間にか普通の笑顔になっていたけれど、私はその後の料理に味を感じなかった。
ただ、得体の知れない、根拠も無い不安に胸が一杯で、どうしようもなかった。

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