【アキさん】蔵馬夢小説 | ナノ
蔵馬夢16



「・・・貴女は?」

蔵馬が問う。

「その馬鹿娘の保護者みたいなもんだ。」

一見ただ立っているだけのように見えるが、感嘆する程に隙が無い。

「・・・幻海師範、ですか。」

蔵馬の言葉に、ス、と幻海が目を細める。

「そうかい、あんたがルナの同居人の。」

今度は蔵馬が目を細める番だった。

「何かあった時には頼むとその馬鹿娘が土下座してきたのはいつだったか・・・聞いてやる謂れなんざ無いんだけどね。」

言いながら幻海が蔵馬に近付いていく。

「あの規模の時空の歪みだ、直ぐに霊界関係者も下りてくるだろう。さっさとそいつ置いて失せな。」

霊界から蔵馬を隠すような意味合いにもとれる言を発した幻海に、蔵馬は少なからず驚いた。
今、ルナと離れるのは全身を引き裂かれるような痛みを伴う、が―――

「・・・貴女の保護下に置かれる方がルナの為のようだ。」

霊界にばれて一生会えなくなる事を思えば、大した痛みではない。
何より蔵馬には外傷を治す術はあっても、今のルナを的確に処置できる術は無い。
短いやりとりの中にも幻海の人格を感じ取った蔵馬は、名残惜しむように再度ルナを抱いている腕に一瞬力を込めた後、そっと幻海に彼女を託した。



**********



「んぅ・・・」

ベッドの感触がいつもと違う。ていうか硬い。ベッドじゃなくて布団?
とりあえず寝返りをうとうとして異様に体が重だるい事に気付いた。

「気付いたんならいつまでも寝惚けてんじゃないよ、この馬鹿娘が!」

 べしっ!

「・・・いたい。」

思いっきりデコをしばかれた気がする。不平を口に出したつもりが、掠れてほとんど音になっていなかった。
ていうかなんでばーちゃん家?
ようやっと目を開けて・・・枕元にお客が2名。
「えほっげほっ、あー、あー」と喉の調子を整えてから口を開く。

「ぼたんじゃーん久しぶりー隣はコエンマのお兄さん?」
「本人じゃ!!」
「ああやっぱり。気配が一緒だもんね。見栄張って人間界に具現化してらーあっは笑える。」
「・・・幻海。何も問題なぞ見当たらんように思うのだが。」

相変わらずの沸点の低さで口元をひくひくさせているコエンマと、曖昧な笑顔を浮かべるぼたん。
その向かいに座っていた幻海ばーちゃんが一つ、息を吐く。

「あたしが診てなかったら植物人間になっててもおかしかなかったね。」

・・・しょくぶつ。蔵馬に会いたいな、と何故か無性に唐突に思った、瞬間。


『化け蝙蝠――』『ヤバイ、いやだ!』『夢魔が蔵馬に――』『ルナ・・・』『――エルメキアっ』『服が――』『2匹を失念――』『――触るなッ・・・』『フリーズ・ブリッド!』『やだッごめんなさい――』『――小事が大事に』『布が裂け――』『蔵馬、くらまッ――』

『ッ、かあさま―――!!』


―――思い出した。

「ッ・・・!」

思わず額を押さえるように片手で顔を覆う。

「ルナちゃん!大丈夫かい!?」

ぼたんが慌ててもう片方の手を握ってくれた。
手の平に瘡蓋の気配がするのはあの時自分で握り込んで付けた傷だろう。
・・・なるほど。霊界の統治者がわざわざ人の身を借りてまで来るわけだ。
それほどの事件を私は起こした。

「・・・思い出したか。」

少し声を落としたコエンマが言う。

「『アレ』からどれだけ経った?」
「3日半、といったところか。」

フーーー、と大きく息を吐く。それは・・・

「お腹すいた。」

腹も減るだろう。「あ!あたいお粥作ってくるよ!」なんてバタバタ部屋を出て行ったぼたんは相変わらず騒々しくも良い子だ。

「・・・それで霊界の対応なのじゃがな、」

私の切実な身体の問題を華麗に無視する事にしたらしいコエンマに待ったをかける。

「あの場所はどうなってんの?正直『かあさま』に助け求めた後の記憶が完全に無いんだけど。」
「昨日見に行ったが、さながら死の泉とでもいったところだね。周囲にも草一つ生えとらんし生気の類が微塵も感じられん。普通の人間なら近付く事も出来まいよ。」

あんたならどうかはわからんがね、と幻海ばーちゃんが教えてくれた。

「それは・・・どうもご迷惑をおかけしまして・・・」
「どういう状況でそうなったのか説明してくれんか。これは霊界にとっても特別に重大な案件ゆえにな。」

一応私って霊界の管轄下だもんね。普段自由過ぎる事やってる所為で忘れがちだけど。

「どうせ夢魔の類に油断してパニクって我を忘れたってとこだろうさ。」
「凄いばーちゃんご明察!」
「感心するところではないわこの馬鹿娘が!そんな低級妖怪如きでこんな大事を起こしおって!」
「だって最初はただの蝙蝠だったんだよーぅ・・・」
「奴等の常套手段だろうが!」
「そこまでは知らなかったの!」
「あー・・・少し、良いか。」

ギンッと二人分の視線がいって一瞬冷や汗を流したコエンマだが、一つ咳払いをして気を取り直したようだ。

「実はルナの最初の油断に関しては霊界側にも責任はあろうと思っておる。」
「だよね!最初あやめに渡した妖怪が本命だと思って帰る気満々だったもん!」

 ごいんんんん―――

「痛ったぁいばーちゃん痛いーっ!」
「その程度で油断する奴があるか!」

グーで頭殴られた!まだ床に臥せってるのに!
「んんっ!」とまた自分の存在を忘れられないようにコエンマが咳払いをして続ける。

「じゃが『あの存在』の力を使った事に関してはどうにも弁解の余地が見当たらんでな・・・どうじゃ?ルナ。」

―――「弁解」。

そうコエンマは言った。
本人は口を滑らせた事に気付いていないようだが、私ははっきりと悟ってしまった。
霊界の中に私の存在を疎ましく思う勢力がある事を。
この事件を切欠に私を霊界から、いや、世界から抹消しようとしているのかもしれない。
確かに、いつ世界そのものを消し去ってしまうかもしれない「力」を持ったモノなんて危険物以外のなにものでもない。
気持ちはわかるが―――

「どうだろ・・・とにかく『助けて!』って思って『かあさま』って叫んだだけだから・・・『力』の発動は感じたけど、『かあさま』の呪文を使ったわけでもないし・・・」

私だって好きで「力」を持ったわけでもないし、何より私自身、この地に根付き過ぎてしまった。
大人しく消されたくないと思う程度には。

「術を使ったわけではない、無意識であの規模、それも余程追い詰められなければ――何より『あの存在』に愛されし者。・・・ふむ、まぁ何とかなる、か・・・。」

何やらごにょごにょ呟いているコエンマには悪いが、もう少し、彼の庇護を受けさせて貰おう。

「今回の件に関してまだ断言は出来んが、咎めは免れよう。じゃが次は無いと思え。」
「・・・次に似たような事やらかしたら?」

コエンマが少し眉間に皺を寄せる。

「恐らく・・・拘束具を付けて貰う事になるじゃろう。」
「拘束具・・・って、手錠みたいな・・・?」
「いや、妖気や霊気といった特殊な力を封じる魔具で、指輪やカフスなど種類は幾通りかあるが、どれも小さなものじゃ。」

もっともお主にどこまで効くかはわからんがな、と苦笑したコエンマになんとなく、今回既にそれを付けさせられそうになっていたような気がした。

ちょうど話にも一段落がついたところで「お粥出来たよー!」とぼたんが入ってくる。
少し力を貸して貰って起き上がり、卵粥を頂いてようやく人心地ついた。

「ありがとねーぼたん。なんか生き返ったわ。」
「お安い御用さね!しっかり食べて、早く元気になっとくれよぅ。」
「で、またキリキリ働けと?」
「まさか!そんなコエンマ様みたいな事言うわけないさね!」
「わかってるわかってる、冗談だよ。」
「もうっルナちゃんったら!」

キャッキャ楽しくお喋りしていたのにコエンマが「阿呆な事言うとらんで帰るぞぼたん!キリキリ働いて貰おうではないか。」とぼたんの首根っこ引っつかんで帰ってしまった。
暫し、静寂が部屋を支配する。

「・・・ねぇ、おばーちゃん。」
「なんだ。」
「面倒かけてごめんね。助けてくれてありがとう。」
「・・・悪いと思うならさっさと動けるようになるこった。それと、治療したのは確かにあたしだが、死の泉から助け出したのはあたしじゃない。あたしでもあの泉に入るのは不可能だからな。どうやったのかはこいつの持ち主にでも聞くこったね。」

と、どこから取り出したのやら、男物の上着を放り投げてきた。

「これ・・・」

―――蔵馬のだ。

「・・・来て、くれたんだ・・・」
「もう一匹妖怪が居たが、そいつはあたしが着く前に逃げた。あんたの同居人も霊界人が下りてくる前に失せさせた。これで文句無いかい。」
「ありが、とう・・・」

ぎゅう・・・と上着を抱き締める。
相変わらず花の匂い―――蔵馬の匂いのする上着を。

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