【アキさん】蔵馬夢小説 | ナノ
蔵馬夢15



夢魔。同族では生殖機能を持たない為、人を孕ませ、或いは種を奪って繁殖する、所謂強姦魔。

―――ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!

脳内では警鐘がガンガン鳴り響いているのに、体が全くと言っていい程反応しない。
一般人よりは耐性があるのだろう、完全には幻術に落ちていないのが幸なのか不幸なのか。

『キキッ』
『待っていたよ・・・』

夢魔の鳴き声と幻聴が同時に聞こえて頭がおかしくなりそうだ。
さっきあやめに引き渡した妖怪は撒き餌だった可能性もある。
やっぱり蔵馬についてきて貰うべきだったかも―――

なんて考えてしまったのがたぶんいけなかった。
目の前の幻が一瞬で蔵馬に変わる。

「ッ・・・!!」
『ルナ・・・』

―――そんな甘い声で囁くな!顔近付けてくるな!

精一杯顔を背けて逃れようとジタバタする。

―――相手はグロテスクな妖怪!しっかりしろルナ!

両手を握り込んでこれでもかと手の平に爪を食い込ませる。
血は滲んだだろうが、蔵馬の幻が消えて夢魔本体が露わになった。
至近距離でより一層気持ち悪いが、この機を逃す手は無いっ!

「エルメキア・フレイムッ!!」

精神攻撃には精神攻撃!呪を唱える時間は無いと判断してとりあえず威力が落ちてもそこそこ効きそうな呪文を目の前目掛けてぶっ放したが、相手も油断していたのか『ギァッ!』と反っくり返って私の上から転がり落ちてくれた。
今の内に幻術返しを、と呪を唱えようとしたのだが。

 ブォワワンブォワワン―――

もう2匹居たのを失念していた。
頭痛がして再び蔵馬の幻が浮かび上がる。
集中力がもたない。術を発動させられるだけの精神力が集まらない。
先程よりきつく幻術をかけられたのか、夢の中のようにフワフワしている。
優しく笑んだ蔵馬が私の衣服に手をかけた。そして丁寧に肌蹴させていく。
だが現実の音を拾った私の耳にはビリビリと布の裂ける音が響いていた。

―――やだな。

そりゃ前世もどきで経験済みとはいえ、この体は・・・いや、そんなのは瑣末な事だ。
とにかく嫌悪感と屈辱感が半端無い。
油断さえしなければ楽勝のこんな妖怪如きに。

「・・・んッ」

いつの間に下着まで取られていたのか胸を直接揉みしだかれ、強制的に火をつけられていた体は簡単に悲鳴をあげる。

―――やだよぅ・・・

『小事が大事になる――』昼間の蔵馬の言葉がよみがえって涙が溢れてきた。

―――ごめん、ごめんなさい。油断した私が悪い。きちんと忠告に耳を貸さなかった私が悪い。でも・・・

涙なのか幻術なのか最早わからない。ぼやけた視界には蔵馬じゃない蔵馬と、時々夢魔。
スルッと脇腹を撫でられてまた声が出る。

「ヤ、だ・・・イヤダ・・・」

思えばいつも蔵馬が助けてくれていた。嫌味や小言も多いけど、影ながらサポートして、見守ってくれていた。
今日、同伴を断ったのは自分なのに。

―――なんで今、蔵馬は居ないの。

『ルナ・・・』

お前じゃない!蔵馬は居ないのになんで蔵馬が出てくるのッ!

涙が溢れて止まらない。
太腿を撫で摩られ、息が上がる。
確認しなくても下が濡れそぼっているのは自覚していた。
ぐちょぐちょしてキモチワルイ。
ソコに蔵馬の腕が伸びる。

「やだッ・・・ぁ、ッ」

幻は優しく摩っているが、またしても耳に届くのは布が引き裂かれる音。

―――イヤダ、イヤダ、イヤダ・・・!!

グチュ、と「ナニカ」がしとどに濡れたソコに押し付けられる。―――限界、だった。



「ッ!!『かあさま』――――――ッ!!!」

 づどぉおおおおおおおおおおおおおおおおんんんん!!!!!



とある町外れの山中で。闇より暗い火柱が立ち上った。



**********



 づどぉおおおおおおおおおおおおおおおおんんんん!!!!!

「ッ!?」
「なん、だ・・・!?」

山に入った途端、激しい地響きと轟音が飛影と蔵馬の二人を襲った。
見上げれば黒い火柱。

「飛影!?何が起こった!?」

完全に足を止めてしまった飛影を振り返って蔵馬が尋ねるが、飛影は答えない。
ただ俯き突っ立って・・・いや、微かにだが震えているようだった。

「・・・なんなんだあの女は・・・」

飛影の呟きに蔵馬がピクリと反応する。

―――まさか「あの力」を使ったのか・・・!?

気にはなるが今はルナの安否が最優先だ。
もう一度蔵馬が口を開こうとしたところで、飛影が自分を落ち着かせるように大きく一度深呼吸し、パチンと邪眼を閉じた。

「アイツは無事だ。行くぞ。」

もう道案内は必要無いとばかりに駆け出した飛影に蔵馬も続く。

―――黒い火柱の発生源へ。



**********



「・・・これを、ルナが・・・?」

辿り着くと、直径100m以上はあろうかというクレーター状の大穴があり、その中心部にポツンとボロボロになったルナが、流れ込み始めた地下水に浸って仰向けに倒れていた。
とにかくルナを、と穴に入ろうとした蔵馬だったが、どういうわけか足が動かない。
体全体が意思に反して穴に入る事を拒絶している。
少し向こうでは飛影も無表情ながら戸惑っていた。

―――原初的恐怖。

蔵馬の脳裏にそんな言葉が浮かんだ。
植物でルナを引っ張りあげようとしても、穴のエリアに入った途端、植物はあっさり枯れてしまう。
本人の覚醒を待つには地下水の流れ込みが速い。
既にルナの全身は水没しており、このままでは溺死してしまう。
蔵馬が倒れ込んででも穴に入ろうかと身構えた時、ルナが黒い雷のようなもので包まれて宙に浮いた。飛影の邪眼だ。

「・・・ぐ、げぼっ、ごほっ」

飲んだ水は吐き出せたようだが覚醒の気配は無い上、体を締め付ける雷に苦しそうな表情をしている。
思わず飛影の方を見るが、こちらも苦しそうな様子で何も言えない。
やがて、ゆっくりとではあるが蔵馬の元までルナを運んだ飛影は、肩で息をしながらその場に方膝をついてしまった。

「すまない飛影。恩に着る。」
「・・・お前にもその女にも貸しだ。」
「ああ。」

無理矢理呼吸を整えた飛影は、それだけ言い捨てるとあっさり去って行った。
恐らく近付いてくる人間を警戒したのだろう。まだ距離はあるが、かなり霊力の高い人間だ。
だが蔵馬はルナを自分の上着で包み、しゃがみこんで抱いたまま動く事が出来なかった。
ルナの格好を見れば何があったのか一目瞭然だ。
憶測でしかないが、「あの力」を使ったのも意図しての事ではないだろう。
それだけ追い詰められたという事だ。

・・・何故、無理矢理にでも付いてこなかったのか。何故、もっと早く辿り着かなかったのか。

―――どんなヤツが、ルナをこんな目に合わせたのか。

そこで初めて、蔵馬は自分が極端に冷えた妖気を発している事に気付いた。
飛影がさっさと行ってしまったのも、今の己と関わりたくないというのもあったかもしれないと何処か冷静な部分が考える。
今、目の前に犯人が居たら、蔵馬は己を制御出来る自信が無かったのだから。
ルナが全てを消し去ったのは良かったのか悪かったのか。
まだ苦しそうなルナの頬を撫でる。

『段々性別がはっきりしてきて、子供の時間も終わっていくのかなー』

昼間の明るいルナがよみがえった。

「・・・お前はもう、十分オンナだよ・・・」

いつから、なんてわからない。ただ、気付いたらルナは「家族」から「異性」になっていた。
当然家族愛の方が強いと思い込んで特に態度を変える事もなかったのだが。
今、蔵馬は軽い混乱状態に陥っていた。一瞬脳裏を「誰にも渡さない」という言葉が過ぎったのだ。
その言葉通りなら、それはもう家族愛を超えている。或いは拭い去れない盗賊の本能か。ただ、今は。
気を失っても涙を流すルナが痛々しく、どこか美しく、愛おしかった。
親指で涙を拭ってやり、そのまま片手を頬に添える。
己の欲求に逆らう事無く、蔵馬は冷えたルナの唇にキスを落としていた。
まだ悪夢を見ているのであろうルナが少しでも楽になりますように。
それは懇願にも似た口付けだった。
一度、ぎゅ、とルナを抱き締めた蔵馬がようやく立ち上がった時。

「その娘を寄越しな。」

先刻から近付いてきていた霊気の主である老婆が、敵意も露わに蔵馬の背後から声をかけた。

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