【アキさん】蔵馬夢小説 | ナノ
蔵馬夢14



「早いもので、もう3年生・・・」
「何一人モノローグやってるのさ。」

クラス発表の紙の前でぼんやり突っ立っていたら思った事をそのまま口に出していたらしく、蔵馬に笑われてしまった。

「しかも秀とは3年間同じクラス・・・」
「1,2年はともかく、3年は学力別だからね。仕方無いだろ。」

今日は始業式だけなので、校門を出ても人の波が凄い。
これは暫く「秀」呼びだな。

「学力・・・ああ、受験。」

一応前世もどきで一通り学校は卒業済みなので、中学の勉強は非常に楽だった。
ただ、高校に上がると一気に難しくなった印象が記憶にあるので、不安はある。

「・・・ルナ、まだ寝惚けてる?」
「うーん・・・桜に惚けてる。」

春だねぇ、なんて少し離れた所の桜並木を眺めてぼんやり呟くと、「縁側で緑茶でも飲んでそうだな」なんて蔵馬の呆れた声が返ってきた。

「すぐに進路指導だぞ。ある程度高校の事も考えておかないと。」
「秀は考えてんのー?」
「・・・まぁ考えなくても、推薦されそうな所の目星は付いてるけどね。」
「ふーん・・・秀が行く所は勉強大変そうだなー・・・」
「何言ってるんだ女子主席。ルナも十中八九同じ所推薦されるよ。」
「げ。」

げ、じゃない。と冷静に突っ込みを入れた蔵馬は溜息を吐きながら、

「あんまりボケてるといざという時、小事が大事になるぞ。」

と最早お決まりになった小言を言い始めた。

「特に春先は『歪み』が出来やすいのはもうわかってるだろう。うっかりやらかしましたじゃ済まない事も、」
「わかってるわかってる、ところで秀、背、伸びたね。」
「話を逸らすな。」
「逸らしてないよー最近組み手がやりにくくなったと思ったらこの所為か、と。」

改めて隣の蔵馬を見上げてみる。頭一つ分、とまではいかないけれど、それも時間の問題だろう。
1年の時は秀の方が低いくらいだったのにねーと続ける私に、ス、と周囲に視線を走らせた蔵馬はまばらになってきた人波を確認して、それでも少し声を落としながら言う。

「本来あるべき形に戻るだけだろ、オレ達にとっては。オレは男でルナは女なんだから。」
「男と女、かぁ・・・」
「・・・何?」

ちょっぴししみじみと呟いた私に訝しんだ蔵馬が問いかけてくる。

「いや・・・隣見たら秀が居て、周りには男女問わずそこそこ友達とかも居て、非日常的な事も多いけどわちゃくちゃやって、てのが何のかの言ってもやっぱ楽しいからさ。」

ぐーっと伸びをして頭の後ろで両手を組む。

「段々性別がはっきりしてきて、子供の時間も終わっていくのかなー・・・なんて。」

それは蔵馬とも距離が出来ていく事に繋がるのかもしれない、とか思っちゃったら寂しいじゃない。
苦笑した私に、蔵馬はどこか複雑な顔をした後、口を開きかけて―――

―――ピピッピピッ

「・・・子供の前に日常が終わったな。」
「コエンマの野郎ッ・・・」

蔵馬の複雑な表情の意味を考える事も無く、霊界通信機を取り出すのだった。



**********



「あ゙ーーーつっかれたー!!」

既に日は暮れているが、誰も居ない山の中なのをいい事に思いっきり叫ぶ。
空間の歪みが発生したのが町から離れた山中という事を聞いた時点でゲンナリしていたのだが、走って到着してもっとゲンナリした。

「あの程度の低級妖怪、放っといたらいいじゃん・・・」

正直、妖怪の捕獲より道中の方が万倍疲れた。
コエンマ曰く、町に下りてきたら大変だから今の内に、との事だったが、そんなに害のある妖怪にも見えなかったし。
あやめも去った今、此処に留まる理由は何も無い。
行きはまだ明るかったから使えなかったけど帰りは飛んで帰ってやる、と文字通り飛翔呪文を唱えかけた時、バサバサッと複数の羽音が聞こえた。



**********



―――ルナが帰って来ない。

「またか・・・」

自室の椅子に座っていた蔵馬は時計を見やった後、一つ息を吐いて立ち上がった。

「オレはルナの保護者じゃないんだが・・・」

ひとりごちつつも結局は窓から飛び出して昼間覗き見した山中のポイントを目指すのだ。甘いな、と自嘲する。
ついて行くと言ったのに「この程度一人で大丈夫よ〜」なんて暢気に断ったのはルナだ。
そしてこの時間までには戻ると言った癖に帰ってこないのもルナだ。
―――正直、振り回されていないと言えば嘘になる気はする。
それを不快に思わない自分が一番不思議なのだが、それはそれとして。

「説教と修行と・・・メニューはどうしようかな。」

仕置きはしっかりせねばなるまい。
つらつら考え事をしながら疾っていると、覚えのある妖気が近付いてきた。

「蔵馬!」
「飛影・・・!?」

何故、と思う間も無く飛影が捲くし立てる。

「急げ!馬鹿女が馬鹿やりやがった!」

瞬間、顔が強張ったのを自覚した。よく見れば飛影の邪眼が開いている。
主語が役割を果たしていないがそれで伝わるのだから良いだろう。
「馬鹿」と言われるからには何かやらかしたのだ、文句は言わせない。
やはり昼間、もっときっちり説教しておくべきだった。

「状況は?」

スピードを一気に上げて飛影と並ぶ。
飛影は数瞬、目を泳がせて口ごもった後、

「即刻命に関わるわけじゃあない。」

とだけボソリと呟き、後は口を開く気配を見せなかった。

命には関わらない、が、緊急の助けを要する・・・

ルナの力はほぼ精神力に頼っている。
発動したら威力は強大だが、その分発動しなかった時のリスクも大きい。
故に、体術の方を重点的に鍛えさせていたのだが、相手から精神攻撃を受けてしまえば一発でアウトだ。
単独での戦闘には不向きな性質だと言える。

―――雑魚だと思ってオレも油断したか。

やはり一人で行かせるべきでは無かった。後悔の念が込み上げて来る。
受けるダメージは外傷だけとは限らないのだから。



**********



―――こんな日も暮れた山の中に、鳥?あ、梟かな?

聞こえた羽音に思わず上空を見上げる。
黒い影がヒュッと視界の隅を過ぎった、と同時に右腕にピリッとした痛みが走り、その影が妖気を纏った蝙蝠である事にようやく気付く。

―――いっけない、もう帰り支度と思って完全に気抜いてた・・・!

蔵馬にバレたら折檻ものだ、なんて冷や汗をかきつつ身構える。
相手は化け蝙蝠が・・・3匹。
妖気を隠して潜んでいたとしか思えない。流石に3匹も近付いてきたら嫌でも気付く。
・・・ん?ただの化け蝙蝠がわざわざ妖気隠すなんて高等技術使う・・・?

 ヒュオッ―――

「お、っとぉ!」

考えている間にも化け蝙蝠の攻勢は激しくなっていく一方なので、とりあえず始末してから、と呪を紡ぐ。

「フリーズ・ブリッド!」

1匹命中!凍って動けなくなった化け蝙蝠を背に残る2匹を―――って、え?
確かに氷塊に閉じ込めた筈の化け蝙蝠が何事も無かったかのようにスルリと抜け出してきた。
驚きで生まれた隙にブォン、と衝撃波だか超音波だかよくわからないナニカをまともにくらってしまう。
途端、地面が揺れて平衡感覚が無くなり、気付けば背中は草木のベッドだった。
起き上がろうにも平衡感覚は取り戻せないし体が馬鹿みたいに重い。
今更ジクジク痛んできた右腕から何かが体中に広がっていく感覚に、この傷を受けた時から既に相手の術、恐らくは幻術の類にかかり始めていたのだと気付いたが後の祭りだ。
甘い香りと共に化け蝙蝠達が人型もどきの異形に姿を変えていく。

―――コイツら蝙蝠なんかじゃない。

一気に広がる蠱惑的な空気と幻術特有の脳の痺れ。
そして異形の筈の本体が霞んで普通の人間が見えたかと思えばまた異形が見える不安定な視界。
強制的に体を疼かせてくる嫌な感覚。

 夢魔だ―――

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