【アキさん】蔵馬夢小説 | ナノ
蔵馬夢13



八つ手事件から一ヶ月程経った。
麻弥ちゃんの変化にクラスメイト達は最初の頃こそ訝っていたものの、本人も蔵馬も何事も無くケロッとしている事もあり、すぐに興味は別の話題へと移っていた。
若さだなぁとある意味感心しつつも、麻弥ちゃんの変化にはやはり申し訳無さと、何処か寂しさもある。
あれだけ「南野くん」攻勢に寂しさを感じていた癖に、無くなったら無くなったでまた寂しいとは、私もつくづく勝手な人間だ。
自嘲の笑みを浮かべると、頭にポンポン、と手が乗せられて、いつの間にか蔵馬が傍に来ていた事に気付く。
最近そんな事が少なからずあった。

――なんで気付くの。なんで涙が出そうになるの。なんで何処か安心するの――

何か言いたいけど、言いたい事はきっと支離滅裂で。いつも拳をギュっと握って俯くしか出来ないのだった。



そういえば、八つ手事件以来、度々感じていた、気配でも視線でもない違和感の正体が判明した。
朝起きた時、学校で授業を受けている時、休み時間、下校途中。
時間も場所も関係無くふっと湧いて出る違和感に逐一視線を向けていたら、犯人の方から姿を現したのだ―――とはいえ、授業中に窓の外から顔だけ上下逆さまに飛影が覗いていた時には蔵馬と二人して大慌てしたものだが。
蔵馬が鍵を開けた屋上で、簡単な話し合いがもたれた。

「いきなり生首晒すんじゃないわよ心臓に悪いッ!!」
「貴様こそ一々邪眼に反応するな気色の悪い!」
「何の事よ生首に気色悪い言われたくないわよーッ!!」
「二人共落ち着け。」

蔵馬の仲裁が無ければ軽く殴り合い程度には発展していたかもしれない。

「つまり、ルナが最近感じていた違和感は、飛影が邪眼で覗いていた、と。」
「それ、結構な頻度の覗きになるんだけど。」
「覗きじゃない!邪眼の遠視を感知するヤツなど聞いた事が無いから確認していただけだっ。」
「・・・一回お風呂入りかけに感じた事もあったんだけど。」
「・・・飛影・・・?」
「貴様らッ・・・!!纏めてあの世へ行きたいか・・・!!」

飛影の照れがリミットを越えたらしく、妖気をガンガン上げだしたので、真面目に話をする事にした。

「まぁ、お風呂の時は一瞬だった理由がこれで判明したわけだ。」
「・・・それ、服脱ぐ前?脱いだ後?」
「脱ごうとしてた時。」
「・・・ギリギリだな。」

なんで蔵馬が気にするの、と突っ込みかけたが、真面目な話モードに移行されてしまったので大人しく話を聞く。

「確かに遠視を感知するなんてオレも聞いた事が無い。ただ、ルナの感知能力はスバ抜けているという事実もある。」
「・・・気色の悪いヤツだ。」
「・・・覗きが趣味なんて陰湿なヤツだ。」
「貴様ッ・・・!」
「や、め、ろ。」

先に気色悪いなんて言ってきたの飛影じゃんかー!と抗議するが、何故か蔵馬によしよしどうどうと宥められる。――私は馬かっ!!

「視ていたのは、ルナと霊界の連携状況か?」
「・・・ああ。」

―――あ、違う。それだけじゃない。雪菜ちゃんの情報が出てるか否かだ―――
でもこれは約束した以上、蔵馬にも言うわけにはいかない。
さて、どうしたものか・・・。

「オレは貴様らの口約束を簡単に信じる程甘くない。」
「その気持ちはわからなくもないが・・・」
「いいんじゃない、気が済むまで視てれば。」
「ルナ?」

これは一度、蔵馬の居ない所で会う必要がある。
次に『視』られた時、何かサインでも送ろう。

「視てきたらウィンクしたげる。あ、あと、戦力が欲しい時はおいでおいでするから!」
「誰が行くか!」

全力で否定して飛影は跳び去って行った。

「・・・良かったのか、ルナ。見られてるなんて気分のいいものじゃないだろう。」
「飛影の性格上、今迄と同じ頻度で視てくると思う?」
「まぁ・・・無いか。」
「でしょ。視てきたら思いっきり嫌がらせしてやるからいいのよ。今迄原因不明だったのが邪眼だったってわかってスッキリしたし!」
「スッキリで片付けていいのか・・・?」

私が「視られる事」を承諾した事で、飛影には私の本意が伝わっただろう。
何か言いたいような腑に落ちないような蔵馬をよそに、次の「違和感」を待つ事にした。



それから更に一週間後―――

「遅くなっちゃったね。」
「蔵馬がべったり付き過ぎだろう・・・」
「そーかな?」

ちょうど放課後、飛影の邪眼を感じたので視線を向けて軽く頷いた後蔵馬には別で帰る旨を告げ、人気の無い公園の隅まで移動して待機していたのだ。
真上から降って来るとは思わなかったけど。
これまでにも幾度か視られてはいたのだが、とても一人で行動出来る状況でなかったり、私がジェスチャーで「ダメ」を出したり、飛影が自分で判断してすぐに視るのをやめたりで、気付けば一週間も経ってしまっていた。

「八つ手の件でちょっと過保護にしちゃったかしら。ま、いいじゃない、無事こうして会えたんだし。」
「・・・何か情報が出れば今回の要領で出向いてこい。無ければ首をふるだけでいい。」
「いや、呼んだら来てよ。」
「・・・行ったら怒っただろうが。」
「呼んでないのに来るからよっ!!」

思わず突っ込んでいる間に飛影は背を向けていて、アレ?となる。

「八つ手の供述とか霊界の情報とか聞きに来たんじゃないの?」
「貴様とコエンマが通信しているのは見ていた。元より霊界など当てにはしていない。」
「ああ、そういえば・・・あの時も覗かれ違和感あったっけ。」
「・・・・・・・・・。」

飛影が何か物凄く嫌そうな顔をしているが私の知ったことじゃない。

「じゃあ今後の連絡手段の確認ね。」
「・・・そうだ。もうそんなに頻繁に視る事もないだろうからな。」

言い捨てて去っていった飛影の背中に「残念。」とポソリ呟く。
蔵馬に続いて良い戦力拾ったと思ったのに。

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