【アキさん】蔵馬夢小説 | ナノ
蔵馬夢12



『氷女、じゃと?』
「うん、そう。一人行方不明なのが居るんだって。八つ手が食ったとか霊界に捕まってるとか、なんか情報無い?」
『氷女は保護指定妖怪じゃ。霊界が不当に捕まえる事も無ければ、八つ手の供述にもそんなものは無かった筈じゃが・・・』

ほむーんコエンマの役立たずーと通信機越しに唇を尖らせていると、コエンマの胡乱げな視線と声がふってきた。

『おぬし、何処でそのような情報を・・・?』
「私だって無為に妖怪達と追いかけっこしてるわけじゃなーいの。こっちはこっちで情報網が出来てるんですー。」

八つ手の情報も、霊界は遅いなんてもんじゃなかったし。と今度はこっちが半眼で見やると、コエンマは『それは、その・・・』と視線を彷徨わせだした。
その隙にプチッと通信機を切ってやる。先日のお返しだ。

しかし霊界にここまで情報が無いとはね・・・。
私がこんな事をコエンマに聞いている理由は二日前の夜、麻弥ちゃんを無事家に送り届けたところまで遡る。



**********



蔵馬は、麻弥ちゃんとその家族の記憶を改竄すべく、喜多嶋家へ不法侵入していった。
残された飛影と私は向かいのコンクリート塀の上で、飛影は仁王立ち、私は座って電柱に凭れる形で蔵馬を待つ。

「・・・で、何か私に言いたい事があるんじゃないの、飛影。」
「・・・何故だ。」
「ずっと何か言いたそうな顔してるし、そもそも用事も無いのにここまで付き合う程お人好しにも見えないしね。」

ニ、と笑ってやると、飛影は舌を打ちながらそっぽを向いた。
もう少し踏み込まないと駄目かな、なんて思った時、ボソ、とぎりぎり聞き取れるくらいの音量で飛影が口を開く。

「・・・氷女を探している。雪菜という名だ。聞いた事は無いか。」
「うーん・・・ごめん、心当たり無い。誰?彼女ちゃん?」
「殺すぞ。」
「なんでよ。」

鋭い三白眼で睨まれ、わけもわからず突っ込んだ。

「心当たりが無いなら貴様に用は無い。」

飛影がくるりと踵を返したので、あさっての方を向きながら独り言のように呟いてみる。

「霊界に聞いてみたら何かわかるかもしんないけど〜・・・」

ピタッと飛影が動きを止めた。・・・ちょっと面白い。

「今すぐは何も無くても、調べさせたら何か出てくるかもしんないしな〜・・・」
「・・・貴様の要請に霊界が答えるとでも言うのか。」
「答える答える。ほら、コエンマとの直通通信機。」

振り向いた飛影にニッコニコ通信機をぶら下げながら答えると、今度は飛影の眉間に皺が寄った。

「・・・何者だ貴様。」
「ん〜・・・ちょっとイレギュラーなハンター、かな?正規の霊界探偵でもないし、融通はききまくりよん。」

さぁどーするっ!と不適な笑みを浮かべてみせると、飛影は根負けしたように視線を逸らせ、ボソリと呟いた。

「・・・妹だ。」
「それはまた。」
「オレと雪菜の関係を口外した時、貴様の命は終わると思え。」
「・・・私に負けず劣らずの事情持ちっぽいね。」

返事の変わりに飛影がふい、とそっぽを向く。

「いいよ、飛影の事は伏せて協力したげる。蔵馬に協力してくれたしね。」
「ヤツには協力したわけじゃない、敵が同じだっただけだ。」
「素直じゃないんだから・・・じゃあなんで八つ手?と闘ってたのよ。」
「・・・八つ手が氷女を食ったと吹聴していた。」
「え゛っ。」

一つ、私の頬を冷や汗が流れる。

「その事実関係の確認は・・・?」
「する前にどこぞの誰かが炭屑にしてくれたからな。」
「あ、やっぱり?」

あははっと笑って誤魔化せ作戦を実行したが、相手が悪かった。
こちらを見下ろす半眼に変化は無い。

「・・・スイマセン。霊界での八つ手の供述内容も確認しておきます・・・」
「そうしろ。」

フンッと鼻を鳴らして今度こそ飛影は夜闇に消えていった。
霊界に調べさせるのはいいけど、どーやって私と連絡取り合うつもりなんだろ、と今更な事実に首を傾げていると、いつの間にか蔵馬が隣に来ていた。

「終わったの?」
「ああ、問題無い。それより飛影と何話してたんだ?」

よ、と私を横抱きにしながら聞いてくる蔵馬。

「世間話。・・・いいよ蔵馬、肩貸してくれるだけで。」

ふわ、と私に負荷をかけないようそろりと地面に降り立った蔵馬がそのまま歩き出そうとするのでストップをかけたのだが・・・

「正直に言わないと家までこのままだ。」

それは流石に恥ずかしい!せめておんぶにして下さい、という懇願を瞳に乗せてウルウルしてみたが、こちらもまた相手が悪かった。
何も見えない聞こえないとでも言い出しそうな涼しい顔でスタスタ歩いていく。

「なんでそんな気にすんのさー蔵馬の悪口なんて言ってないよー?」

蔵馬がふと何かに気付いたような顔をした。

「・・・なんでだろうね。何か物凄く気になったんだ。」
「妖怪仲間として?」
「いや、ルナが・・・」

言いかけて止める。・・・私が、何だ?
言葉の続きを拒否するように軽く頭を振った蔵馬は、

「そんなにオレに聞かれたくない話?」

と私の顔を覗き込んできた。顔近い!近い!もうちょっと自分が美少年な事を自覚してくれっ!

「探し物してるんだって、飛影。」

これはもう無難な所だけ喋って許して貰うしかない。

「それはまぁ、邪眼の手術を受けるくらいだからな。」
「邪眼?手術??」

許して貰う筈がうっかり蔵馬の話に興味をそそられ、気付けば家まで横抱きのまま連れ帰られてしまっていたのだった。



**********



流石に昨日は熱も出て丸一日唸りながら寝込んでしまったお陰でコエンマへの連絡が遅れたが―――っと、そう言えば探しとけって言うの忘れた。
もう一度ピピッと通信機を鳴らす。

『ぬぁんじゃ唐突に切ったかと思えばまたすぐ呼び出しおって!!』

わめくなチビッ子。元々無い統治者の威厳が更にマイナスになってるぞ。

「さっきの氷女の話。霊界でも情報収集しといて欲しいのよ。名前は雪菜ちゃんね。」
『・・・何故そこまで拘る?』

流石に今度は本気で探るような疑わしげな視線を寄越したコエンマだが、ここで怯んだら「何か疚しい事があります」と言ってるようなものだ。

「個人的だけど大切な用事が出来たの。行方不明な事を真剣に心配する程度にはね。頷かないなら今ここで通信機ぶっ壊して霊界探偵代行やめるから。」

言って、バチバチッと右手に軽く雷を纏わせる。

『ああわかった!わかったから通信機は壊すな!』

高いんじゃぞそれ・・・等とぶつくさぼやくコエンマを尻目に、こちらはしてやったりだ。

「じゃ、よろしくね〜」

と今度もまた返事を聞かずにプチッと切ってやる。
書類の山の中でヒステリーをおこすチビッ子が目に見えるようで、思わずクスリと笑んだ―――
そして前触れも無く部屋の天井の隅に、つい、と視線をやる。
実はコエンマと話し始めてすぐ何かの気配を感じてはいたのだが、横目で見ても何も居ないしで内心首を傾げていたのだ。
気配――とは厳密には違う気もするし、視線のようなはっきりしたものでもない。
変わらぬ天井の隅を眺めながら眉間に皺を寄せて首を傾げていると、突然違和感が消えた。
―――なんだったんだ?
原因のわからぬモヤモヤ感はあれど、悪意や敵意を感じる事も無かったので、一先ずは様子見とする事にした。

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