【アキさん】蔵馬夢小説 | ナノ
蔵馬夢11


―――ルナが帰って来ない。

蔵馬は眉間に皺を寄せ、座って立てた膝を無意識に指でトントン叩いていた。
ベッドには手負いの妖怪を眠らせてある。
コレを放置して探しに行くわけにもいかない。
喜多嶋に捕まって根掘り葉掘り事情を問い詰められているだけなら良いが―――
どうせ後で記憶は操作させて貰うのだ。
ルナもそれは承知している筈だから、どうせなら、と喜多嶋の気が済む迄付き合ってやっている―――と、思いたい。
思いたいが、第六感とでも言うのか、背筋がぞわぞわする感覚は一向に止む気配を見せない。

「ッ・・・ぐ、・・・雪、菜・・・」

一瞬起きたのかとベッドに目をやるが、寝苦しそうにしているだけで、まだ覚醒には時間がかかりそうだった。

「・・・ルナ。」

つられた様に口に出してみる。
最初はただの厄介な拾い物だった。霊界が絡んできた事で拾った事を後悔もしかけたが、その懸念材料はルナ自らが払拭した。
彼女は、妙な力を持つ事以外は至って普通の・・・少しばかり寂しがりな少女だった。
家族を作ってやりたい―――普通なら考えられない感情の元、家に招き入れる事になった。
母さんとルナが笑い合う。そんな空間が愛おしく、気付けばルナの横はオレにとって居心地の良い場所となっていた。
最近は学校で避けられていると感じていたが、今日の喜多嶋の告白で納得した。
お人好しなんだか友達思いなんだか。寂しい癖に一所懸命オレを避けていた事なんて見え見えだったのに。
その行動をいじらしいと感じた事には我ながら驚いた。
オレはいつか、そう遠くない将来、南野家から消える存在だ。
ルナと母さんで幸せになってくれれば、と願っていた筈なのに―――
今、こんなにも苦しいのは何だ。たった数時間姿が見えないだけで沸き起こるこの焦燥感と虚無感は。

思考の海に沈みかけた時、ガバッとベッドの妖怪が体を起こした。

「・・・大した回復力だね。」

ルナが居ればもっと早く傷も体力も回復していただろうけれど。
そういえば左腕に怪我をしていたな。
彼女は人を癒せても自分は癒せないから、きちんと手当てをしていると良いのだが―――

「かなり深い傷だったので勝手に手当てさせてもらった。魔界の」
「あの女はなんだ。霊界のハンターじゃないのか。」

オレの言葉を遮って苛立たしげに聞いてくる。
ちょうど「オレにとってルナは何なのか」を考えようとしていた所だったんだけど。

「まぁ・・・ちょっとイレギュラーなハンター、かな。オレの事も霊界には黙っててくれてるし。」

人に危害を加えたり霊界に目をつけられない限り、彼女から霊界に情報が渡る事は無いよ。
と続けてから、当の本人に傷を負わせたのが目の前の彼だった事を思い出す。
―――ルナはどうするだろうか。
見た所色々訳有りの様子だし、事情次第では黙す事を選択するかもしれない。
そう思って「ユキナ」や「邪眼」について聞いてみたが、答えはつれないものだった。

「ゴチャゴチャとよく喋る野郎だ・・・手当てをしてなきゃ殺してるとこだぜ。」

言いながら窓を開けて今にも飛び出さんとする彼に思わず声をかける。

「また戦う気か・・・?ルナが戻るのを待って共に行った方がいい。彼女の戦力は並じゃない。」

・・・本当にそうだろうか。自分で言っておきながら、また不安が押し寄せてくる。
妖怪――飛影は、オレの忠告もお構いなしで去って行った。
これで自由に動ける。
とにかく早くルナの無事を確認したかった。
喜多嶋の家に電話をかけるべく1階に向かう。今日は母さんが留守で何かと助かった。
受話器を取ろうとしたら先に電話が鳴ったので、面倒な電話ではない事を願いつつ受話器を取る。

「喜多嶋の親からまだ帰ってねーって電話あってよ。」

クラスメイトの声が絶望的に響いた。

―――最悪のケースだ・・・・

即座に飛影の後を追った。



**********



―――頭が、ぐわんぐわんする。なんで私、こんな固くて冷たい所で寝てるの・・・・・

 ギャギャッ!ギンッ!!

遠くで剣戟みたいな音が―――って、あ!!

「ッッ!痛ったぁぁ・・・っ!!」

一気に記憶がフラッシュバックしてその勢いのまま起き上がろうとしたら、後頭部に激痛が走って再び倒れ込んでしまった。
視界がグラグラ揺れている。

「思いっきり殴りやがってあのグジョグジョ妖怪ッ・・・!」

後頭部に手をやるとヌルッとした感触がしたから出血しているのだろう。
まぁ幸い意識は取り戻せたので命に別状は無い。と、信じる。
それより麻弥ちゃんだ。
すぐ横に寝っ転がされていたので、手を翳して回復の呪を唱え、反応する所が無いか調べる。

―――聖なる癒しのその御手よ 母なる大地のその息吹―――

うん、大丈夫、擦り傷くらいだね。それも治ったし、良かった良かった。
と一安心していたら、『貴様ァーーー!!』って蔵馬の大声が聞こえてきて思わずビクッと体が跳ねた。ら、頭にも響いた・・・。

「痛ぁいぉぉぉう・・・」

もしかしなくても、八つ手様?とやらと闘ってるのかしら。
加勢したいけど、未だに平衡感覚は戻らないし、今の状態じゃあ術を発動出来て1発だ。
ま、その1発を一撃必殺にすれば済む話なんだけど。捕まってただ助けを待ってるだけのオヒメサマってガラでもないしね。
とにかく標的の見える所まで行かないと、とズーリズリ匍匐前進・・・したら頭に響いたので、何とかその辺の機械っぽいものとかを頼りつつそろそろ歩く。
廊下に出、ようとしたら見えた。
こちらに背を向けたでっかい妖怪に、何故か共闘してる蔵馬と黒い妖怪。
まぁ・・・蔵馬が闘ってるんだから、コッチのでかいのが本命なんでしょう。ってわけで―――

―――大地の底に眠り在る 凍える魂持ちたる覇王―――

「っ!?」

あ。蔵馬が気付いた。相変わらず耳の良いことで。

―――汝の蒼き力もて 我等の行く手を遮るものに―――

わざと攻撃の手数を増やして私の居る方から妖怪の気を逸らせてくれてる。有難い。
意識が朦朧としてきそうなのを歯を食いしばって耐える。
今、集中力を切らせば術は発動しないし、恐らく2度目は無い。ただの人質に成り下がってしまう。

―――我と汝が力もて 滅びと報いを与えんことを―――

「飛影!下がれ!!」
よし、流石。退るタイミングもバッチリ。ちゃんと避けてね、いくよー。

「ダイナスト・ブラスッ・・・!!」

でっかい妖怪の足元に黄色い五芒星が現れ、バチバチッと雷を撒き散らしながら中央の妖怪の頭上に集約されてズドンッと落ちる。
建物全体が揺れる程の衝撃の後には、黒い炭の塊がこんもり山を作っているだけだった。
安心したのと術の反動とで壁についていた手が離れ、ふら〜っと体が傾ぐ。

「ルナッ!!」

間一髪、蔵馬が受け止めてくれた。
そしてそのまま何故かぎゅーーーっと抱きしめられる。

「・・・くらま?」
「・・・・・心配、したんだ・・・」

蔵馬のこんな消え入りそうな声、初めて聞いた。

「・・・ごめんね。」

私も蔵馬の背中に手を伸ばしてポンポン、とあやす様に叩く。
はぁーーー、と長い息を吐き出した蔵馬は、改めて私と向き合った。

「ルナ、怪我は?」
「痛い。」
「・・・うん、何処が痛い?」

軽く米神に手を当てた蔵馬に、
「頭の後ろ。トンファーで思いっきり殴られたんだよ!こんな痛いと思わなかった・・・もう突っ込みには使わない・・・。」
と答えたら、呆れたような何か言いたいような、とっても複雑な顔をされた。
それでも手早く応急処置をしてくれて、左腕は既に血が固まっていたので家に帰ってから、という事になった。

「麻弥ちゃんの怪我は擦り傷だけだったからさっき治しといた。あとは記憶だけど・・・」
「ああ、家に送りながらやるよ。飛影!悪いけどルナに肩を貸してやってくれないか。」

それまですっかり存在を忘れていた真っ黒妖怪改め飛影は、私が作った黒炭の山を、じ、と見つめていた。
何か物言いたげに私を見た後、つい、と視線を逸らして何事かを逡巡し、再びこちらを見て口を開く。

「何故オレが」
「飛影くん、左腕がいたい。」
「・・・くんは止めろ。」
「じゃあ肩貸してよ飛影。まだ頭がぐぉんぐぉんするのだよ。」
「・・・チッ」

舌打ちしながら肩を貸される経験もそう無いだろうな、と思いつつ飛影に掴まり、蔵馬と、彼におぶわれた麻弥ちゃんと共に、廃墟を後にした。

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