【アキさん】蔵馬夢小説 | ナノ
蔵馬夢10


「南野くーん!」

今日も今日とて麻弥ちゃんは元気だ。
麻弥ちゃんと私が「お友達」になってから半年ぐらい経った。
流石にもう麻弥ちゃんが蔵馬を好きな事は周知である。・・・当の本人を除いて。
ほら、やっぱり無自覚無頓着なのは蔵馬の方じゃん、と思いつつ教科書を片付ける。

―――少し、寂しさのようなものは感じるけれども。

居場所を取られたと泣く幼児でもあるまいに。
正直、戸惑う感情を持て余してはいた。
麻弥ちゃんの特別な感情に気付いていない蔵馬に安堵した後、そんな自分に驚いてみたり。
クラスで麻弥ちゃんが近付きやすいように、私からはあまり蔵馬に接触を持たなくなった癖に、以前と変わらず話しかけてくる蔵馬に喜んでみたり。
学校では見せない「蔵馬」を知っているという事実に優越感を感じていると気付いた日にはもう、全力で麻弥ちゃんに土下座したくなった。
二人がくっついたらこんなわけのわからない感情ともおさらば出来るのだろうか。
それとも、今とはまた違う感情が湧いてきて振り回されるのだろうか。

―――ああもぅ知るかッ!

今はそれどころでは無いのだ。
意識の隅を、蔵馬とは違う妖気が過ぎる。
少し離れた所に一つ、校内に一つ。
本当にそれどころじゃない。
気持ちを切り替えるべく、自分の頭をゴツンと一発殴っておいた。





実はここ一週間程で急激に嫌な気配が町を覆っている。
蔵馬曰く「瘴気」というのだとか。
ナニカが襲ってくるでもなし、霊界から情報が下りて来るでもなし、で手を拱いていたのだが―――

蔵馬が麻弥ちゃんと離れて一人になったのを見計らい、ス、と静かに近付いて小声で囁く。

「秀、妖気が動いた。ちょっと強そうだから先に帰って鞄置いてから追うね。」

教科書を片付けていた手をピクリと反応させ、蔵馬も小声で返してくる。

「オレも行くよ。」
「ううん、場所は断定出来ないけど、校内にも弱いのが入り込んでる。そっちの対処お願いしたいんだ。」
「・・・わかった。くれぐれも深追いするなよ。」
「まっかせなさい。」

私が全能力を解放して闘ったら、今の妖力が中途半端な蔵馬なんて相手にならない。
体術だけならたぶん互角くらいだけれど―――ともあれ、互いの力量を正確に把握しているからこその役割分担だ。
近付いた時と同じように静かに離れてクラスメイトの波に紛れる。
鞄を持って適当に挨拶しながら教室を出た後は家まで猛ダッシュした。





「・・・すばしっこい妖怪だな。」

家から妖気を追尾しようとしたのだが、中々ヒットしない。
感知してから動く、ではイタチごっこか―――思い始めた矢先。

 ヒュンッ

殺気を感じたのが先か、体が飛び退ったのが先か。
鋭い剣筋に、慌ててトンファーを引っこ抜く。

 キィ、ンッ――ヒュッ!ガ、――ッ!

黒い妖怪。第一印象はそれだったが、まじまじ相手を観察している余裕が無い。
これは―――ッ

 ガギッ、ィィィン――!

武器の強化をしないと、トンファーが悲鳴を上げている。
けど呪を唱える隙が無いっ!

 ギギャッ!ギィンッ!

耳障りな音を立てて左のトンファーが切り折られた。
咄嗟に手を離したから腕に赤い線が走っただけで済んだが、判断を誤っていればトンファーごと腕をバッサリだ。
額から嫌な汗が流れる。

―――と、何を思ったか、黒い妖怪は構える私に目もくれず、民家の屋根を飛び越えて行ってしまった。

ほ、―――なんて一息ついてる場合じゃない。
左腕からジワジワと縦に血が滲んで今更ジンジン痛みを訴えてきているが、あの妖怪は最初から血の匂いがしていた。
手負いか、それとも―――人を食ったか。
どちらにしても放っておけるわけがない。まだ、追える。

―――永久と無限をたゆたいし すべての心の源よ
    我に従い力となれ―――

「アストラル・ヴァイン」

今度こそ、武器の強化呪文を唱えつつ、妖怪の去っていった方へ足を蹴り出した。
これで右だけだが、トンファーは打撃武器から切れる武器になる。
まだ明るい住宅街、派手な術は使えないけど、そうそう遅れをとってもいられない。

―――見つけた。

「待ちなさいッ!!」
「っ!?チッ・・・!」

 キィィィンッ

「なにっ!?」

先程と同じ要領で武器破壊を狙ってきたようだが、そうは問屋がおろさない。
今度はこっちが剣ごと腕を持ってってやるッ!
攻守逆転をいい事に、人気の無い所まで誘導して術で仕留めよう。
即座に戦術を決めてトンファーを握り直した時―――唐突に妖気と霊気を感じた。
いや、元々あった所に私達が飛び込んだ、と言った方が正しいか―――って、蔵馬と麻弥ちゃん!??
思わず私が動揺した隙に、真っ黒妖怪は何故か今度は迷い無く蔵馬の方へ突っ込んでいった。

―――え、なんで!?

「秀ッ!!」

間一髪、麻弥ちゃんを横抱きに斬撃を避けた蔵馬だったが、誰かを庇いながら闘わせてくれる相手じゃない。
黒い妖怪が自分を狙っている事、そして私の左腕の傷を認めたらしい蔵馬は、自分が闘う事を選んだ。

「ルナ!喜多嶋を頼む!」
「気をつけて!」

超スピードで斬撃を交わしながら去って行く二人に私が出来たのは、麻弥ちゃんを背後に庇いながらその一言を叫ぶ事だけだった。
直ぐにでも加勢に行きたいところだが、一般人の麻弥ちゃんをここで一人にしていくわけにもいかない。
さて、どう説明したものか―――と、瞬間、気を緩めたのがいけなかった。
真後ろに脆弱な妖気を感じて一瞬で振り返ったが、既に麻弥ちゃんは妖怪に憑かれた人間の腕の中だった。

「ッ!!」

思わず舌打ちが出る。妖怪は取り憑いた人間の背後に隠れるように密着していて、迂闊に攻撃も出来ない。

「へへへラッキィィ。八つ手様にいい土産だぜ。」
「・・・八つ手って誰。」

隙あらば、と身構えてはいるが、実質人質が二人だ。
黒い妖怪と闘っていた時以上に嫌な汗が流れる。

「八つ手様を知らねぇ?妙なハンターだな・・・まぁいい、さっさとその武器寄越しな。」
「・・・断ったら?」
「へへっ。土産は生きてなくたっていいんだぜぇ。」

と、麻弥ちゃんの首を持ち上げる。

「わかったから離せ!解!」

せめてもとトンファーにかけていた呪を解き、投げてわたす。

「最初っから大人しくそうしてりゃいいんだ、よっ!と。」

ゴッと後頭部に衝撃が走り、自身の武器で殴られた事を認識しつつも、急速に意識がブラックアウトしていく。

―――ごめん、蔵馬―――

麻弥ちゃんを守るどころか自分の身すら守れないなんて。
罪悪感に包まれながら私の意識は完全に闇に落ちた。

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