07.ひとりじゃないから
先輩は反省文を書けと言っていたけれど、右手首が痛くて今日はシャーペンが持てそうになかった。
学校ではどんな噂が立っているのだろう。
俺はただの一般生徒で、そんなやつが風紀委員長に水をぶっかけて更に殴った。
どんな言い訳だって通用しない。
虐めとか始まるんだろうか、もしそうなったら痛いのとか辛いのは嫌だし違う学校に転校しよう。
先輩は3年だし、卒業したらどうせ会えない。
友達もいないし、さらに学校がつまらなくなるのは確実だ。
考えがどこまでもネガティブになる。
でも、今日見た先輩の優しい笑顔は忘れられない。どう考えても、俺はまだ先輩を好きなままだった。
ベッドに寝転がっていると、携帯のバイブレーションの音がした。画面をみると知らない番号だ。
「もしもし」
『オレオレ!!』
「俺に息子はいません」
『ちげーよ!同じクラスの安斎だよ。オレオレ詐欺じゃねーよ』
「もしかして、親衛隊によるイジメのスタート」
『はいはい違います。アキ、自分のこと知らなさそうだなー、と思って。色々なツテで電話番号手に入れたんだよ』
「知らないって、なにが」
『自分がイケメンだってことはわかってる?』
「不細工だと思ったことはない」
『そうだよな〜。とりあえず、今お前の部屋の前に居るんだ。いれてくれ』
玄関を開けると本当に安斎が立っていた。もう夜なので、ジャージ姿だ。
しかも片手にはジュースやらお菓子やら入っているビニール袋を持っていた。
「差し入れ。二週間も停学だろ?」
「どうも」
安斎は遠慮なく部屋に上がりテーブルの周りに置いてある長座布団にあぐらをかいて座った。
「アキの部屋って意外と落ち着くな〜」
持ってきたお茶をごくごくと飲み、今にもそこに寝転がりそうな雰囲気だった。
初めてきた人の部屋で、そこまで寛げるお前の方がすごい。
そこから、安斎はダラダラと話しはじめた。
それは俺が思ってもいない情報だった。
「とにかく、アキはこの学校では寡黙な王子様!!って事で入学してからかなーり注目されてるの」
「王子様って……ここは日本だ。しかも注目されてるとか言われても、ランキングにすら入ったことない。もしかして一部の変わった趣味の生徒による人気」
「ちげーよ、お前入学式の日に掲示板に貼り出されたランキング表見て、めんどくさ、って言っただろ!?その発言が噂でまわって片瀬アキには投票してはいけないって暗黙のルールになったんだよ」
「それって安斎の妄想」
「お前、どこまでも信じない気だな」
まあ、いいけどー。と言って安斎はとうとうゴロンと寝転がった。
「とりあえず、停学が終わっても安心して学校来いよ。あと、風紀委員長の親衛隊も気にしなくていいから」
「え」
「風紀委員長から直接、隊長に連絡にあった」
「なんて」
先輩が一体なんて言い訳したんだ。
「俺のお気に入りに手を出すな」
「はあ!?」
なんだそれ、お気に入りって……俺が可哀想過ぎるし、そんな事で納得する訳ないだろうが。
先輩って本当にばかだったのか。
「安斎ってなんでそんなに親切なの」
「まー、俺面食いだから?イケメンとは仲良くしておきたいし」
「なんだそれ」
それから安斎は、明日休みだしここに泊まっちゃおうかなー、とか冗談か本気か分からないことを言い出していた。
先輩とはどうなるか分からない。
でも安斎がいたら、この先の学校生活が少し楽しくなりそうな気がした。
次の日の朝に先輩が部屋に来て、安齋と同じベッドに入ってる所を見られるなんて、この時の俺は想像すらしていなかった。
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