06.反論さえも呑み込んで


ここに来ることになるとは思わなかった、しかも加害者として。
これまで表面上は静かに学生生活を送ってきたつもりだ。
問題に巻き込まれるつもりも、増してや起こすつもりも全くもって無かった。

風紀委員室には何人かの生徒が立っていて、多分俺を監視している。
俺の向かい合わせには葛城先輩が座っていた。
今からの尋問は葛城先輩がやるんだろうか。まだ昼も食べていないだろうに、申し訳なかった。


「委員長は、保健室だよ。少しだけ怪我してたから念の為」


やっぱり、もっと強く殴ればよかった。助走つけたら良かったのだろうか、人を殴ったことなんて経験がなくて分からなかった。


「片瀬、なんでこんな事したの?」

「ストレスが溜まってる所に、風紀委員長が目についたから……なんとなくです。これといって理由はありません。処分は何ですか、退学ですか」

「まさか」

「俺が起こしたのは暴力沙汰ですよ。普通の学校なら退学じゃ」

「退学にはならねーよ」


俺の声を遮ったのは、入口の戸を開けて入ってきた先輩だった。
周りの風紀委員が心配そうに顔の怪我を見ている。
頬が少し赤くなっているだけだったが、血が出ていたし口の中は切れているかもしれない。

先輩は別に呆れた顔はしていなかった。
いつもと同じ、でも学校じゃあまり見ることのない俺といる時の先輩、そのままだった。


「片瀬 アキ、1年A組だな。処分は2週間の停学だ。親にも連絡するからな」

「分かりました」


先輩はどこまでも風紀委員長だった。
何回もセックスをしたからといって甘くはない。
甘い言葉……なんて……。


「大丈夫!?」


葛城先輩の慌てた声がする。


「え……あ、コンタクトがズレただけです」


涙が1粒だけ流れていた。
それを拭うと、ぴりっと手が痛む。


「手を怪我してるぞ」


千尋先輩の手が伸びてきて、手首を掴まれる。


「いっ」


思わず声が出てしまった。
手首が痛いとは思ってはいたが、実際に掴まれるとじんじんと痛みが走った。
先輩が怪我してると言っていたのは手の甲についてる傷だけだと思うが、バレてしまっただろう。


「手首やったのか?アキ、バカだろ」

「……捻っただけです」


他の風紀がいる前で俺の名前を読んだことにびっくりした。
他人の振りをそのまま続けるつもりだと思っていたし、俺もそのつもりだった。
葛城先輩が救急箱をもってきて、千尋先輩が俺の手首に湿布を貼ったり包帯を巻いたりしている。包帯は綺麗に巻かれてとても器用なことがうかがえた。

被害者が加害者の手当をしてるこの状況が意味不明だ。
葛城先輩はどう思ってるんだろう。
もし、2人が付き合っていたら俺は完全なヒールだ。


「停学中は、反省文書けよ」


先輩はなぜか笑いながらそう言った。
そんな先輩の優しい笑顔を見たのは、初めてだった。

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