08.唇から伝染する


俺は別に悪いことをした訳じゃない、と思う。
なのにどうしてこんなに言い訳しなきゃいけない状況に陥っているのだろうか。

朝、眠りが浅くなって自分は今寝ているな、とわかった。
隣に何か暖かいものがあって俺はそれに擦り寄った。
あたたかくて、気持ちがいい。

もう1度深い眠りに入りそうだ。


「何をやっている」


眠りを妨げる声が聞こえた瞬間、俺は暖かい布団からひっぱり出された。


「なんだよ!?」

「それはこっちの台詞だ」


思わず抗議の声をあげると、俺の腕を引っ張っていた人物と目が合う。


「千尋先輩……、あ、おはよう、ございます?あれ?」

「謹慎中に男を連れ込むとはな」

「え?おとこ?」


まだ目が覚めなくて、先輩の言ってる事がわからない。
先輩の視線を追ってベッドを見ると


「安齋!?」

「……んー、あー、おはよう、アキ。昨日は楽しかったなあ」

「楽しかったのは否定しないが、今は一刻も早く目を覚ましてくれ」

「えー、あー、うん」


安齋は起き上がり目を擦っている。
そして、欠伸をしながら俺の方を見て、そのまま視線が隣に行き、口を大きく開けたまま一瞬固まった。


「ふ、風紀委員長……!?」

「おはよう」


先輩はニッコリと笑っているように見えるが、目が完全に笑っていない。


「え、あ……!!!わ、わたくしは、風紀委員長親衛隊 No.112の安齋と申します!」


安齋は急に立ち上がり、何故か敬礼をしながら言った。
No.112って親衛隊ってそんなにいるのか、すごいな。


「俺の親衛隊ねえ。……で?アキのなに」

「友人であります!」

「友達と同じベッドで寝るのか」

「いや、あの、それは」


なぜそこでシドロモドロになるんだよ。
余計に怪しいだろうが。


「この部屋、布団とか他にないし。床に寝るのも痛いだろ。昨日はベッドに寝転びながらゲームしてたらそのまま寝ちゃったんだ」


しかし、俺と先輩は付き合っている訳でもないし、こんな言い訳じみたことを言わなきゃいけないんだろう。

そ、それでは失礼します!!と安齋は無駄にでかい声を出し、最後にメールする、と俺に告げてドタバタ部屋から去っていった。
俺からも後で謝ろう。
なんか先輩いつもに増して怖いし、安齋はびびっている筈だ。


「なんか用?」

「その口の聞き方は相変わらずだな。まあいい。手首の湿布を変えにきてやったんだよ」

「あ……」


まさか先輩が、そんな事のために来てれるなんて思わなかった。
その位自分でも変えられるし、捻っただけだから放置したってその内治る。


「昨日はかわいかったのになあ」


先輩はニヒルに笑って、そのまま顔を近づけてきた。


「な、なに。……んーっ」


そのまま口付けをされた。
もしかしたら初めてかもしれないキス。
なんで今するんだろう。


「俺のこと好きなくせに、他の男に手を出すなよ」


首の後ろに手をまわされ、顔が再び近くなりキスをされる。
今度は深い。先輩の舌が入ってくるのがわかった。

先輩、さっきなんて言った?
もしかして、俺の気持ちはとっくにバレていたのだろうか。
普通に考えて、先輩が鈍い人だとはとても思わない。俺の気持ちがバレない方がおかしかったのだ。

それならこのキスの意味はなんだろう。

prev next

[back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -