02.たったひとつの約束もない


昼休みの食堂はざわついている。
私立の金持ち学校だから食堂はとても広く座れないなんて事はないが、役員の席が良く見える場所に座りたい生徒が多くそこだけは毎日戦争のようだ。


「アキ!こっちこいよ!」


座る場所を確保するべく、ひとりで食堂をうろついているとよく知った声に呼ばれた。


「安斎」

「ここ座れよ」


隣の席をすすめてきたのは、同じクラスの隣の席のやつだった。


「いいのか?」

「ああ!一緒に見ようぜ、風紀委員長〜」


安斎が風紀委員長である五十嵐 千尋の親衛隊に入っているのは、クラス内では有名な話だった。
確かにこの席は必ず役員が席につくために通るところだ。


「もうすぐ来ると思うんだ、風紀委員長」

「よく知ってるな」

「さっき、親衛隊のグループラインで連絡きたんだー!急いで席確保したところにお前が通ったんだ」

「俺?」

「うん、お前って生徒会とか風紀って興味無さそうじゃん、だから隣にきても騒がなくていいと思ってさ」

どうやら安斎は静かに風紀委員長を観察したいらしい。
昨日の夜その風紀委員長様とセックスをしたと言ったらこいつはどんな顔をするだろう。


「あ、きた!」


食堂が一気にざわついた。
野太い声が騒ぎ出す。先輩はこの声が不愉快だとは思わないのだろうか。
爽やかに笑って手を降っている。
そこにいるのは強くて優しい風紀委員長。
すらりとした高い身長に、程よくついた筋肉。
少し長めの黒い髪が歩くとサラサラと揺れている。

しかし、俺は風紀委員長よりも隣を歩いている人の方が気になっていた。


「付き合ってるのかな、あの2人」


正しく俺がおもっていたことを、安斎が言った。


「さあ」

「副委員長だもんな〜……、見た目的にもお似合いだし、2人に突っ込んで聞けるやつ誰もいないし。アキ、副委員長と仲良かったよな、聞いてみろよ」

「部活が一緒なだけだ。仲良くない」


部活といっても、音楽室でただピアノを弾きあうだけで活動も気まぐれだ。部員の殆どはピアノを本気でやっていてピアニストを目指す連中ばかりだ。
俺と副委員長の葛城先輩だけは、暇つぶしに弾いている。


「おい、アキ!先輩たちこっちに来るぞ」


顔をあげると確かに俺に向かって歩いてきているのが分かった。
葛城先輩と目が合っている。


「片瀬、これ」


渡されたのはピアノの楽譜だった。


「なんですか」

「無名の作家だけど、とてもいい曲なんだ。弾いてみて」


そう言って、足早に去っていた。
一般生徒の俺と仲良くしているのを、周りに見られても良くないと気を使ってくれているんだと思う。

楽譜をみると、確かに聞いたこともない作家名だった。
ピアノを弾くことは趣味なので今度練習してみよう、と素直に思った。


「やば!!!すげえ!!!めっちゃ格好良かった!風紀委員長!!!!」


興奮したように顔を真っ赤にしている安斎。基本的に安斎の感心は風紀委員長だけで副委員長には興味無いらしい。

食堂でこんなに近くに千尋先輩を見たのは初めてだった。

目は1度も合わなかった。
早く先輩に見つめられながら抱かれたい。
昨日セックスしたのに、俺はもうこんな事を考えている。

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