10.息も止まるくらいに




「……疲れた」


ベッドにうつ伏せて、枕に顔をうずめる。
手首の痛みがどうでも良くなるくらい気持ちがよかった。若さってすごい。
人には言えないところがヒリヒリとしている。小さい声でうなっていると、先輩に髪をサラサラとなでられる。


「良いことには何事にもリスクが必要だ」

「……先輩は、余裕そうに見えるんだけど。ずるいと思う」

「今日はゴムしたし、ナマでやりたいこところを我慢しただろ」

「それが普通だ。マナーだよマナー」

「まあまあ」


下着だけ履いてベッドに腰かけていた先輩は、屈んで俺の後頭部にキスをする。


「アキも、学校で大人しくするんだぞ。そうしてもらわないと俺が葛城に怒られる」

「あ……」


そう言えば、葛城先輩との仲を聞くのを忘れていた。ここまでしておいて、葛城先輩と何かある訳では無いと思うけど。


「先輩と葛城先輩ってどういう関係なんですか」

「嫉妬なんて、アキも可愛いこと言えるんだな」

「はぐらかさないでください」

「はぐらかすも何も、俺とあいつはただの気の合う友人だよ。葛城はお前のこと気に入っててな、今回はかなり追求されたんだ。俺の可愛い後輩に何してくれたんだ、ってな。流石にセックスする関係だ、なんて言えなかったけどな」

「ふーん」


結局のところ、千尋先輩は葛城先輩には逆らえないのかもしれない。
とても優しそうにみてるけど、芯はしっかりとした真っ直ぐな人だ。


「反省文……」


停学が2週間あるとは言え、早めにやらないと嫌になりそうだった。


「書いておいた」

「はあ!?」

「だから、書いておいた。原稿用紙5枚分」

「いやいや……」


先輩の顔を見ると冗談を言っているようには見えない。


「被害者が変わりに書いてどうするんだよ。しかも字も違うし」

「平気だろ」


先輩はもうこの話題には興味がないらしく、そこら辺に散らばっている服を身につけていく。


「飯、食うだろ」


そう言い残してさっさと部屋を出ていった。何か買ってきてくれるつもりらしい。
昨日からの出来事が信じられない。
先輩に水をぶっかけた次の日に、こんなことになるなんて。
顔を手のひらで覆う。
どうしよう、先輩が振り向いてくれた事が嬉しくてしょうがない。
一人になると口がニヤ、と笑ってしまうのが抑えられなかった。

足をバタバタさせていると、部屋のチャイムが鳴るのが聞こえた。先輩が戻ってくるのには早すぎるから、誰か来たのだろう。


「はい!」


聞こえるか分からないが、精一杯の声で返事をして、よたよたと起き上がりジャージを着る。
朝からセックスして盛り上がった自分がいけないが、思わず先輩を恨みそうになる。

今開けます、と言いながら玄関の鍵をあけて戸をおした。


「……葛城先輩」

「おはよう。大丈夫って聞こうと思ったけど…………はあ」


葛城先輩は俺を見て大きくため息をついた。
とりあえず玄関から中に入って座ってもらう。


「コレ、あいつだよね?」


葛城先輩が俺の鎖骨あたりを指差す。
そこは自分からは見えなかった。テーブルの上に置いてあるスマホを手に取り、カメラ内側にして鎖骨のあたりを見る。


「あ……」


予想はついていたけど今まで先輩が俺に跡をつけたことがなかったし、確信はもてなかった。
俺の鎖骨にあるのはどこからどう見てもキスマークだった。
思わず顔が赤くなってしまう。葛城先輩の前では気持ちを隠すことができない。
千尋先輩といる時の方が冷静な自分でいられる気がした。


「同意の上、だよね?」


少し心配そうな顔をして聞いてくる先輩に、俺は赤い顔をなるべく見られないように、こくこくと頷く事しかできなかった。

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