3.うまくいかない

戸惑っている間に、ユッキーが説明してくれたみたいだ。耳に会長様がどうだこうだと言っている声が聞こえる。

「ユッ…、あ、皆籐とはちょっとふざけていただけだ」

俺もなんとなく釈明をする。
あぶねえ、ユッキーって呼ぶところだった。
男子高校生としてそれは何となく恥ずかしい。
ユッキーも葉月の前では、りんりんとは言わずに会長様、と呼んでいる。
親衛隊の体裁とか色々あるんだろう。

葉月は黙り込んで俺を見ている。

やっぱり葉月の瞳はきれいだ。
ハーフらしく瞳の色が、グレーというか水色というか…とにかく綺麗なのだ。
肌の色も透き通るように綺麗だ。
ずっと見つめていたい。

「会長、とりあえずハメを外しすぎないように。それとこの書類を渡すのを忘れていたので」

葉月はいつもより少し冷たい声で、そう言ってからドアを閉めて去ってしまった。
しかも全部敬語だった。

今日の生徒会室みたいに少し心配そうな顔をして触れてきたあの顔とは全く違った。

葉月とはもちろん恋人ではない。
友達にすら満たしてない。
めんどくさい同僚って感じかもしれない。
あとは、手のかかる他人…?

「ああ〜」

両手で顔を塞ぎしゃがみこむ。

「凛…泣いてる?」

こういう時に、真剣な声で凛って呼ぶなよ。
本当に泣きそうになる。

「葉月って、俺の噂信じてるのかな」
「…いや〜、それは無いと思うけど。でも、実際は分かんないよね」
「へこむ、泣きたい」

ユッキーがしゃがんでる俺の背中をなでなでしてくれる。

「雅雪…」

「なに」

「俺、お前のこと好きになれば良かった」

「え、僕とキスできるの?悪いけど僕は嫌だよ」

「言ってみただけだよ。……でも、世の中の恋人って本当に奇跡みたいなもんだな」

好きになった人が、自分の事を好いてくれるなんて、奇跡以外のなにものでもない。

「確かにそうだけど割とありふれた奇跡だと思うよ。負よるなよ、りんりん」


俺が、葉月の事を悩んで悩んで悩みまくっているのはこの夜までだった。

あんな事態になるとは誰が予想できただろうか。


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