19.なまえ


誰かのすすり泣く声が聞こえる。
どうしたんだろう、そんなに泣くな、と言ってやりたいが目が開かず指先も動かない。

それ以外に厳しい叱責の声も聞こえた。
ああ、この声はよく知っている声だ。
俺の好きな低い綺麗な声。
最近では甘い言葉をはいて俺を惑わせ、しかもこの間はその唇で俺の口を塞いだ。
そういえば体育祭までに返事をだすと、言っていたがあれはどうなったんだろうか。
返事がないということはこのまま生徒会の仲間としてやっていきたいと言う事なのだろうか。
キスまでしておいて、俺で弄ぶつもりなのか。

だんだん、周りの声がはっきり聞こえてくる。
ここは、どこなんだろう。


「あたまがいたい」


あ、声が出た。


「水無月、」
「りんりん!!!大丈夫???」

目を開くと葉月とユッキーが心配そうな顔でこちらを覗き込んでいる。


「あれ?」


何がどうなったんだっけ。
体育祭が終わって……そうだ、


「あいつは!?」


がばっ、と上体を起こして辺りを見回す。
頭が少しクラっとしたが、そこまで気分は悪くないし問題ないだろう。
どうやらここは保健室のようだ。
俺はベッドに寝かされていて、隣に葉月とユッキーが立っていた。

その後ろに、あいつが座っていたのが見えた。下を向いていて表情は見えないが、泣いているのだろうか。

隣には蓮がいる。厳しい顔をしていて、何処か顔色も悪い。目があってもこちらを睨んでいる。

俺は視線を転入生に戻した。


「名前は?」

「え」

転入生の顔が上がった、泣き腫らした目をしていて、美少年が台無しだ。

「聞くの遅くなって悪いな、名前なんていうんだ?」

「楓……」

「かえで、か。いい名前だな」

「あの、その……、ご、ごめんなさい!!!」


転入生改め楓は、座っていた椅子から降り、床に土下座した。手はふるふると震えている。

俺はベッドから降りた。
立ち上がった時、足ががくっとなったが隣から葉月が支えてくれて転ばずにすんだ。

楓の前に行き座り、そっと頭を撫でる。


「いいよ、許す」


「りんりん!?何言ってんの!?」


ユッキーが、俺の腕を掴んで揺らす。
葉月は何も言わなかった。
夢うつつの時に、楓を叱っていたのは葉月の声だったし意外にも、葉月の中ではすっきりしているのかもしれない。




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