18.窮地
何故こんなことになったのか……。
今にも地面に倒れてしまいそうな体を、壁についた手でなんとか支える。
遠くには生徒達の歓声が聞こえる。
体育祭は最後の種目のリレーが終わり、もう幕を閉じなければならない。
俺は運動不足気味ではあったがそれなりに活躍出来たと思う。
クラスの生徒達も喜んでいた。
手を洗うために水道へ来たが、グラウンド近くはたくさんの生徒が使っているので少し離れた所にきた、それがいけなかったのかもしれない。
「くそっ、なんのためにこんな事を……」
俺は目の前にいるやつを睨んだ。
「だって……お前が俺のことを好きじゃないっていうから!!!!」
そう言って目に涙をためながら、言い放ったのは転入生だ。
なぜ、俺はこいつから手渡された飲み物を飲んでしまったのだろう。
体に思うように力が入らない俺より、辛そうな表情をこいつはしているかもしれない。
「こんな事した所で俺の気持ちが変わるわけないだ、ろ」
やばい、喋るのも辛くなってきた。
なんていうか眠い。
体が強制的に眠りに入ろうとしているのかもしれない。
それを耐えるために歯をくいしばる。
「俺だってそんなこと分かってるよ。でも自分の思い通りにならないことは産まれて初めてで、どうしていいか分かんないんだ!!」
なんでお前が泣くんだ。泣きたいのはこっちだ。転入生がこちらを涙目で睨みながら迫ってくる。
おいおい何をする気だよ。
今何かされても俺に抵抗できる力はゼロだ。
胸ぐらを掴まれて、そのまま地面に倒される。背中はコンクリートで痛い。
誰か通りかかってくれ、と願うがこの水道を使いにくるやつは殆どいないだろう。
転入生は俺の上に馬乗りになる。
「な、にする気だ」
「そんなの俺だって分かんねえよ」
転入生の涙が俺の頬に落ち、ぐっと転入生の顔が近づいてくる。
顔が近い、と思った瞬間には口にふにゃっとした生暖かい感触があり、キスされている事がわかった。
「……っ、んん、やめ、ろ……」
好きじゃない人とのキスは気持ち悪いだけだ。
手には力が入らないし、段々と眠気が強くなってくるのを実感していた。
このまま寝たら……と思うと、やばい気がする。こいつ、どこまでする気だ?
「て、め……後で覚えてろよ……」
鎖骨のあたりに唇が落とされるのがわかった。
ジャージの下から手を入れられ、肌をまさぐられる。
ありえねえ、なにやってんだこいつ。
そんなに泣いて、興奮しているようにも見えない。
遠くで俺を呼ぶ声が聞こえる気がした。
「お前、誰かきそうだ、やめろ……」
俺の眠気はそこで限界を迎えた。
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