13.フライング
「今の所俺たちが迷惑かけられているだけで、ほかの生徒への実害はないしな。様子をみるか」
「そうですね。会計と書記には困ったものですが、できるところまで二人で頑張りましょう。彼らも馬鹿じゃありません、リコールされる前に自分たちの行いに気付くと信じましょう」
俺も葉月と同じ意見だ。
まだ高校生とはいえ、会計と書記のことは仕事仲間としてよく知っているし、葉月が生徒会の仕事に戻ってきてくれた今説教しにいくことでもないと思う。
小学生の子供じゃないんだ。
俺はそこそこ二人の事は信じている。
「風紀委員長も忙しいところ悪かったな。体育祭まで忙しいとは思うが宜しく頼むよ」
蓮に目を合わせて少し微笑むと、蓮も珍しく笑って「了解」と言った。
二人きりの時はもちろんよく笑うが他に人がいる時に笑うのは珍しいことだと思う。
それだけ葉月には心にを許せる存在になっているんだろうか。
葉月と蓮が友達になってくれたら俺としては凄く嬉しい。
あ、でも俺が葉月にフラれたら気まずいかもしれないけどなぁ。
少し悲しい気持ちになってしまった。
蓮は風紀室に帰り、水無月と生徒会室に二人きりになる。
「会長と風紀委員長って意外と仲が良いんですね、二人が直接話してる所はあんまり見たことが無かったので」
「ああ、まぁな。あいつとは色々あってな、誤解されているだけで仲が悪いわけじゃない」
蓮との約束があるので、双子だという事は言えないが嘘はつきたくなかった。
葉月が席から立ち上がり、俺の席の前までやってきた。
「正直に言います、水無月と風紀委員長が笑って話している様子を見て少し妬きました」
葉月が俺の方へ屈んでくる。
「え」
「ごめんなさい、少しフライングします」
「あ」
葉月の指が俺のあごに触れ、顔の角度を上へと変えられた。
思い切り葉月と目が合い、しかも葉月の顔が近づいてくる。
……あ、いま、
くちびるに柔らかい感触がした。
目を閉じた葉月の睫毛が長い事を知った。
「待たせてごめん、体育祭までには答えを言うよ、凛」
葉月は柔らかく微笑んで、俺の名前を初めて呼んだのだ。
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