◎ 祭りの時間 沖田
水槽の中で優雅に泳ぐ金魚たちを見つめ続けて、何分が経過しただろうか。
「ねぇ、まだ掬わないの?」
「だって、タイミングが掴めないの!」
せっかくのお祭りだもの。お祭りらしいことをしたかった。
選んだのは、金魚すくい。実を言うと金魚すくいをやるのは、数年ぶりで。得意だった記憶もない。
だから今こうして、その瞬間を定めるのに相当の時間がかかってる。
「そういう総司くんは、得意なの?」
「そうだね、君はだいぶタイミング逃してると思うよ。」
総司くんは案外器用だから。絶対こういうの得意そう。きっとさっきからニヤニヤしてるのは、半分私を馬鹿にしているに違いない。
「じゃあ教えてよぉ…」
いいよ、そう言うと、総司くんが私の背後に被さった。後ろから手首を掴まれる。柔らかな髪の毛が、私の頬をくすぐった。
「ポイはこうやって構えて……」
総司くんの声が、耳元を掠める。いつもより奥まで届く。
なんだか五感の全てを総司くんに囚われたみたいで。
「金魚がきたら………」
掴まれた手首が、大きく引っ張られた。ぴしゃり、と水面が揺れる。
気付いたら手元のボールには、金魚が泳いでいた。
「ほら、とれた。」
その時の私は、もはやそれどころじゃなかった。
心臓は早く鼓動を刻み続けていた。
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