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祭りの時間 土方
「本当に、こんなんでいいのか?」
土方さんが、心配そうにこちらを見る。私は買ってもらったわたあめを頬張りながら、笑顔で頷いた。
今日のお祭りの為に、3ヶ月前から土方さんには念を押していた。できれば仕事早めに上がってきてね、と。だけど案の定長引いて、大遅刻。だから土方さんはスーツのまんまで、私が浴衣。まあできれば、だったからいいんだけど。結局、そんな仕事一筋の土方さんに惚れた私の負けだ。
遅れたお詫びに何でも買ってやる、と土方さんは言った。それで私がリクエストしたのが、わたあめってこと。
「いいの、これで十分。というか、こうして仕事終わってすぐ来てくれるだけで、嬉しい。」
太鼓の音が、遠くに聞こえる。
私たちは人混みを離れ、神社の裏の木陰にいるからだ。ここでは虫の音が聞こえるくらい、静寂に包まれている。
「ったく、お前はよ……。」
大きな木にもたれ、ぺろぺろとわたあめをなめる私を、土方さんは見つめていた。
その表情は慈愛に満ち溢れていて。私愛されているんだなぁ、そう感じたら照れ臭くなって、目の前のわたあめを千切った。
「土方さんも、食べる?」
小さく千切ったわたあめを、土方さんに差し出す。しばらくそれを見た後、土方さんの体が動いた。
「………っ、甘ぇ。」
そのわたあめは、見事に私の指ごと頂かれた。土方さんの体温がダイレクトに伝わって、触れられた指先がじんじんする。
顔を真っ赤にする私を、土方さんは笑った。だめだ、心臓が張り裂けそう。
「んな顔すんじゃねーよ。」
「だって、こんなことされたら誰だって……。」
ちげぇよ、土方さんの声が耳元でした。
「俺が、もたねぇんだよ。」
私の体は、もたれていた大きな木に縫いつけられた。
わたあめが足元に落ちる。
重なった唇から、砂糖のべたべたした感触と、甘い味が伝わった。
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