◎ Smiley Nation
私たちの場所、笑顔の集まる場所。
「それじゃあ土方さんの昇進を祝して!」
一斉に3つのグラスが、高々と掲げられた。
「「「かんぱーい!!!!」」」
グラスが勢いよく重ねられる。並並と注がれたビールの泡が、大きく波打った。
土方君と原田君、そして私は同じ大学から同じ会社に入社した同期。
ほかにもたくさん同期はいたけれど、研修のときからずっと一緒で、配属された部署もそれぞれ近く、なにより同じ大学出身ということあって、ずっと付き合いが続いていた。
月に2回は絶対三人で飲みに行く。お互いの近況を報告したり(まぁほとんど既に筒抜けなんだけど)仕事の愚痴を言ったり、いろいろ。お互い気心の知れた仲だから、本当に心安らぐ瞬間。
だけど、そんな時間も来月から、なくなる。
土方君の、転勤が決まったのだ。転勤と言っても、いい意味の転勤だ。土方君はこの3人の中でずば抜けて頭が良かったし、仕事もできた。いずれ経営陣に引き抜かれるのは確定していたことだったけど、こんなにもその時が早く来るなんて思ってもいなかった。まぁそれだけ土方君が、優秀だったってことなのだろう。
「それにしてもやっぱりすげぇな、この歳で経営陣入りかよ。俺も頑張らねぇとな。」
「でも、薄桜大学出身新撰組商社の会は解散、だね……。」
いつも一緒が当たり前だったから。
この三人が揃ってこそ、心安らげる場所だったのに。
「おい、ありすもっと笑顔で見送ってやろうぜ。んな顔すんなよ。」
「そうだね、ごめん。というか私達が追い付けばいいだけか!」
あはは、と笑い声が響いた。
そうだ、またいつか土方くんに追い付いて一緒に仕事ができるようになればいいんだ。
頼んでいた料理が出揃い始める頃には、いつものような会話が弾んでいて。土方くんの元カノがどうしたとか、原田くんの武勇伝がまた増えたとか。
「いっき!いっき!」
原田君がジョッキを持ち上げると、私が手を叩く。土方君は呆れているけど、どこか楽しそうで。
空になったジョッキを私に見せつければ、お前もやれ、と言わんばかりの表情だ。
「わたしは、やりませーんっ。可愛い紅一点だもぉーん。」
「だけどその割には、男の話を聞かねぇなぁ。」
「ちょっと、土方君も調子のらないでよっ!」
酔いも手伝って、顔が赤らむのが分かった。入社してからは仕事中心だったから、すっかりそっちの方はご無沙汰で。
いずれ土方君も原田君も、そして私も結婚するだろう。それぞれが大切なものを手にいれて、今度は自分の為じゃなく、誰かのために仕事をするようになる。
こうして笑い合っているとすっかり忘れていたけれど、きっと知らないうちに安らぎの場所が変わっていくのかもしれない。
(こうやって、離れ離れになっていくんだな……)
とたんに悲しくなった。
まさか土方君の転勤だけで、こんなに考えさせられるなんて。
(私、この三人でいるのがよっぽど好きなんだ………)
楽しかった飲み会も、終電が近づいてきたころ終わりを告げた。
周りには酔っ払いがふらふらと道をふらついていた。もう一軒どうですか、若いお兄ちゃんのキャッチを振り切る。
私はとぼとぼと、二人の後ろを歩き駅に向かう。
「めずらしいな、ありす酔っ払ったか?」
原田君が、心配そうにのぞき込む。
土方君も何も言わなかったけど、心配してくれているようだった。
「ううん!ちがう、大丈夫!今日は、楽しかったなぁって。」
大袈裟に笑顔を見せた。
だって二人はすごく優しいから。土方さんだって、気持ち良く行けないじゃない。おめでたいことなのに、そうじゃないみたい。
永遠の別れでもない。
会おうと思えば、いつでも会える。
ただ今まで毎日だったのが、そうでなくなるだけ。
自分に必死に言い聞かせた。
「原田……。」
土方君が、原田君の肩に手をのせる。
突然のことに、私と原田君はびっくりした。
「ありすを、頼む。」
それはどういう意味なのだろうか。
あまりに土方君の表情が神妙で、何と答えたらいいのか分からない。
ただ、なんとなく感じたのは。
土方君がもうこの三人の一員でなくなる、ということ。
「ああ………」
原田君が答える。
それは彼の門出を祝う気持ちなのか、悟る気持ちなのか。
そんなのだめ、原田君のことも大好きだけど、土方君のことも大好き。
どちらかがいれば、それでいい。そうじゃないの。
「ちがうっ!」
精一杯大きな声で、遮った。
「土方君も、原田君も、大好きなの!!!!」
こうやって集まる機会が少なくなってもいい。
「だから、この三人は永遠に不滅だよ……!」
お互い未来に向かって頑張っているんだ、そう想える場所だけは、残してほしい。
大粒の涙が、止まらなくなった。
私たちは誰一人欠けちゃいけないんだ。遠くへいっても、それでおしまいにしちゃ、だめなんだ。
「馬鹿野郎……。誰もいなくなるなんて、言ってねぇだろ。」
そうやって少し後ろから、私を見守ってくれる土方君も。
「そんなの当たり前だろ。んな、深く考えるんじゃねーよ。」
横からしっかり支えてくれる、原田君も。
私は二人の間に入って、それぞれの腕に、自分の腕を絡めた。
「ほんとっ、最高!」
この三人が揃えば、自然に笑顔になれるから。
(覚えとけ、ありす。俺たちも、お前のことが好きなんだよ。)
頭上ではお星様が、きらきら光っていた。
end
2000HITを踏んでくださった、みやちゃんより頂きましたリクエストで、「原田と土方に挟んでください!」でした。結局落とし所なくて、物理的にヒロインちゃんが挟まりにいくというまさかのラスト。まあこんなイケメンが同期だったら、仕事行くの絶対楽しいですけどね。窓際でも喜んでやりますよ、暇な時間イケメン拝めるんですから!!!
ということで、お気に召していただけましたでしょうか?お持ち帰りの際はみやちゃんのみでお願いします。この度はありがとうございました!! ありす
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