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 Beautiful fighter

「お前さんが、さとうありす、だな?」

わたしの平穏は突如破られた。





秋風がよそぐ。
少し肌寒いが、長い時間外で過ごすには最適な気候。私の目下には、放課後の部活動に勤しむ、ティーンエイジャーたち。

(まったく、暇な人たちね)

あんなボールをラケットではたいて何が楽しいんだろうか。自分と一学年しか違わない先輩のどこを敬えるのか。
私には、形式上でも無理だ。

我ながら、なかなかつまらない人生を与えられたと思う。
勉強しなくても100点とれたし、普通に食べても太らないし、顔つきはハーフっぽい。スポーツだって見ればすぐ出来るようになる。

世の女の子たちが努力して得るものを、私は生まれ持ってきた。つまり、何かを得る努力をしたことがない。
学校に入るたび、今年はすごい逸材がいる、なんて言われてきたけど。私は何にもしていない、ただ立っているだけ。周りがとにかく騒ぎ立てる。

それは、もう慣れた。今はただ平穏がほしい。
だからこうして私以外に誰もいない屋上で、世界を斜め読みしているのだ。



しかし突然現れたこの男は、一体なんだというのだ。

「私のテリトリーに踏み込んでくるなんて、なかなか度胸あるじゃない。あなた、誰?」

「ったく、噂通りの生意気な女子高校生だぜ。学校の職員くらい、把握しとけ。」

彼曰く、自分はここの職員だという。
ああだから、なんとなく見覚えがあったのか。

「俺は原田左之助。今は一年生の担任をしてる。去年、すげー奴が入学してきたってよ、ずっとお前さんを探してた。」

「それはどーも。言っとくけど、すげーって言われるの、慣れてるの。」

「でもよ、美人さんは美人さんだろ?ずっと気になってたんだよ、お前さんのこと。」

知ってるよ、彼はそう言って笑った。
生憎私は虫の居所が悪い。平穏な時間を邪魔されて、気分は最悪なのだ。

今までさんざん男に告白されてきた。
本命だったり適当だったりしたけれど、どれも長続きしなかった。
だってどんなにカッコ良くても、どんなに頭良くても、人間誰にでも欠点がある。私には生理的にそれが理解できなかったのだ。

「先生までもが生徒に色目使おうってわけ?…この学校も終わりね。」

「俺は、お前さんを退屈させねーけどな?」

私は一瞬、彼に興味を持った。
だって私の考えていたことを、言い当てたのだから。

要は出来過ぎているが故に、普通の人々が退屈なのだ。私は、退屈させない人を求めている。

「あなたも、恋愛に関しては随分と飽きているんじゃない?」

よく見てみれば、なかなかの色男である。こんなのが教師なのか……と思ったけれど、すべてのパーツがきれいに整っていた。

「あぁ。並大抵の女じゃ、俺は満足できねぇなぁ。」

「ふーん、じゃあどぉ?私と付き合ってみる?」

「お前さんのプライベートに踏み込んだ罰か?」

なかなかの切り返しだ。
直感的に、彼は面白いと思った。

「言っておくけど、私的には男のステータスって、経験数、お金、ブツの大きさ、だからね?」

任せとけ、彼はそう言って私にはキスをした。
それは次第に深くなり、彼の熟練した舌遣いが発揮される。
優しく全体を包み込んだと思えば、急に意思を持って攻め立てる。
久々に翻弄された気がした。

徐々に彼の体重に圧倒され、体が斜めになる。冷たい地面に崩れかけそうになったとき、ふわっと一瞬体が浮いた。
やんわりと地面に吸い込まれた。その上に彼が覆いかぶさる。綺麗だった夕焼け空が、見えなくなった。

「もう?やるの?」

「お前さん言ってただろ。経験数とブツの大きさが男のステータスだって。」

「お金、忘れてる。」

ぷいっ、と不貞腐れれば、強制的に視線を絡められる。

「なんならホテル代払ってやろうか?」

結局男は、セックスがしたいのか。
そう思ったけれど、ここで彼を手放すのはなんとなく勿体無いと感じた。









「今度水族館に連れてってくれれば、ここでもいいよ。」




観念して目を閉じた。





end










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