◎ この冬の白さに 沖田
「…ははっ、どうする?このみかん。」
私と総司くんは、コタツの上に積み重なった大量のみかんを眺めた。
ことの始まりは、数時間前。
外は大雪でなにもできなかった私たちは、コタツの真ん中に置かれたみかんに目をつけた。
最近テレビで話題の、みかんの皮アート。スマホで調べれば作り方は簡単にヒットした。
「まあ僕は悔いはないよ。例えこのみかんを全部食べなくちゃいけないとしてもね。」
確かに、楽しかった。
色々な形を次々に作り上げ、コタツの上には、みかんの皮動物園が出来上がっている。
「でももう10個くらいみかん食べたよ?……アレルギーになりそう。」
皮を剥けば、当然中身が残る。
大量の裸になったみかんと先程から格闘しているのだ。
「胃にもたれるものじゃないからね、僕は……あと1個いける。」
「だめえええ!!まだ20個くらい残ってる!!私は飽きたよ?!」
今度はスマホで、「みかん 余った」と調べてみる。だけどそれは大抵皮付きだ。実だけの保存方法は、あまりヒットしない。
「あっ、缶詰みたいに砂糖漬けにする?それとも、みかんジュースにしてみようか?」
ふと思いついたアイデアを口にしてみた。台所に行けば、ミキサーもあるし漬物の瓶もある。
「いいね、僕も賛成。」
総司くんは小さく手を上げた。
そうと決めたら、いざ………
「……だめだ、コタツから離れられない……!」
適度な暖かさが、全ての気力を奪う。すっかりお尻から根っこが生えてしまったようだった。
刻一刻と温くなっていくみかん。早く食べないと、多分某非営利団体から文句がくるくらい食べ物を無駄にする。
「とにかく……食べよう?総司くん?」
「そうだね……。」
少し考え込んだ総司くんは、目の前にあったみかんに手を伸ばした。
口に含んだ、そう思った矢先。
何故か私の口のなかに、甘酸っぱい味が広がった。
辛うじてそれを飲み込むと、リップ音をたてて総司くんが私の唇から離れていく。
「そ……総司、くん……?」
「どうしたの?君、すごく顔が真っ赤だよ?」
何事もなかったかのように、こちらを見て笑う総司くん。自分が原因だって、まったく分かっていない。
…分かって、いるのだろうけど。
「たまには味を変えてみればいいかな、そう思っただけなんだけど。」
皮でできた兎が、跳ねたような気がした。
fin.
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