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 Warmth

「お二人様ツインのお部屋で、ご予約承っております。それではお部屋にご案内しますね。」

都内のちょっと高級なホテル。
今夜私はここに泊まることにした。
一人だけど、予約したのはツインルーム。
いけないとは分かっていても、私はどうしてもこのホテルのツインルームに泊まりたかった。

歳三くんと、初めて体を重ねた時の記憶が鮮明に蘇る。







歳三くんとお付き合いを初めて、彼の魅力にどんどん夢中になっていった。
見た目だけじゃない、そのべらんめえな口調も、ちょっと独りよがりなその性格も、みんな好き。

お付き合い自体もすっごく順調で、それはもう出来すぎているかってくらい。
たまに小さなケンカもするけど、それはすごく些細なことだから。

でも、一つだけ気になることがある。
どうやら歳三くんは、私に性的魅力を感じていないらしい。

今までの経験的に、男性が事に及ぶまで二ヶ月。
確かに歳三くんを他の一般男性と比べるのは申し訳ないし検討違いだけど、男の人だったらそれなりの兆候がそろそろあってもいい頃だ。
だけど付き合って半年現在、まったくそんな気配がない。

チャンスはなかった訳でもないし、私がそんな雰囲気を出していた記憶もない。
夜遅くまでデートしたり、飲んだりしていたから、連れ込もうと思えば出来たはずだ。

ここまで何もされないと、逆に不安になる。
雑誌で読んだ、そういう雰囲気になる香水とかつけてみたけど、成果なし。本当に効果があるかは知らないけど、私ってそんなに魅力がないのだろうか。





「お部屋のご案内は以上です。何か御座いましたら、お気軽にフロントまでお電話ください。」

ホテルスタッフのお姉さんが、にっこり微笑んで部屋を後にした。
広い部屋に、ポツリと取り残される。

(ああ本当に一人になっちゃったんだ……)






その小さな事件は、ある嵐の夜に起こった。

少し遠出をした帰り道、大嵐が私たちの帰り道を直撃した。
台風が接近しているとニュースで言っていたけれど、思ったよりその進度が早かった。それにこんなに激しいものだとは予想していなかった。

電車は早々に運行を取り止め、車は大渋滞。高速道路が止まるのも時間の問題で、タクシー待ちもすごい行列。

「明日も休みなのは助かったが…今日中には帰れそうもねぇな…」

時計を見ながら、歳三くんが呟いた。
帰るか帰らないかは、多分そろそろ決めないと出遅れる。

「お前、明日は?」

「私も大丈夫。でも、どうする?今夜。」

「仕方ねぇ。あのホテルなら大丈夫そうだろ。空いてれば泊まってくしかないな。」

私は内心このトラブルを喜んだ。
だって形はどうあれ、歳三くんとお泊りするのはこれが初めてだったから。

高級感のある内装。
いかにも、そういう目的を感じさせないホテルを選ぶのが歳三くんらしい。
実際そういう目的がないのかもしれないけど。

「…部屋、とれた。とりあえず揃ってそうだからなんとかなるだろ。」

「あっ、ありがとう。これで何とかなりそうだね。」

その時の歳三くんの表情は、少し浮かばれていないようだった。
…そんなに嫌かな、私と泊まるの。
あれもしかして、むしろ歳三くんが凄くいびきが酷いとか?

ツインルームに案内されるとすぐに、雨風で濡れた体を暖めることにした。
とにかく濡れた服は脱いで、さっさと備え付けのパジャマに着替えた。お風呂にお湯をため、順番に入る。

先にお風呂を頂いてしまったから、ゆっくりは考えられなかったけど。このまま今夜も何もないのかなって、すごい心配で。
欲求不満って訳ではないけど、好きな人とならそう思うのが自然ではないだろうか。



お風呂を出て、ベットに潜り込んだ。
私が寝たのは、窓側のベット。歳三くんが、壁側だった。
緊張して、寝付けなくて。ただこの夜景をずっと見ていたのを覚えている。






「……歳三……くん?」

おやすみなさい、そう言ってからどれくらい経っただろうか。
お互いお湯に浸かって、温かい飲み物を飲んで。寝る前に軽くキスしたけど、そのまま別々のベットに入った。

度々聞こえる、歳三くんのため息、そして体を小さく動かす音。
多分この音からして、歳三くんは寝ていない。

「……なんだ、お前も寝れないのか。」

「うっ、うん。だって……。」

歳三くんと過ごす夜が、初めてだから。
お互い背中を向けたまま、言えない言葉を飲み込んだ。

「……ねぇ、歳三くん。」

ねぇ、寂しいよ。

「そっち、行ってもいい?」

別に体を重ねなくてもいいから。
貴方の体温、感じたいよ。

「………。」

歳三くんは、黙ったままだった。
さっきまで小刻みに動いていた体も、ピタリと止まった。

「……私と寝るの、嫌だ?」

「嫌じゃ、ねぇよ。」

「じゃあどうして顔見せてくれないの?」

「それはお前もだろ。」

それはそうだけど。
明らかに避けているのは歳三くんだ。

「寂しい、の。」

つい本音が零れる。
そして聞こえた、歳三くんの体が起きる音。

「………このっ、馬鹿……!」

気が付いたら、歳三くんの顔が目の前にあった。

「こっちは必死になって理性ブチ切れるの我慢してるってのに……!そんなことも知らないで、ふざけんじゃねぇ…!」

掛け布団を一枚隔てて、歳三くんの足が私の足に触れた。
初めて触れたそれは、その体型からは考えられないくらい筋肉質で。

「えっ、どういうこと…?」

「どうもこうもねぇよ。ずっと俺は、お前にもっと触れたかった。」

男なんだから、キス以上のことだってしたいに決まってるだろ。

歳三くんはそう言ったけど、その距離は縮まらない。
代わりに歳三くんの体重を支えている彼の腕が、小さく震えていた。

「なら、どうして……?」

私もずっと、したかったよ。

そう気持ちを込めて、歳三くんの震える手をにぎりしめた。
そっと触れただけでも、もう歳三の脈打つスピードが感じられるくらい。

「俺は、怖くねぇのか?」

「歳三くんが、怖い?」

もどかしい掛け布団を、歳三くんは剥ぎ取った。
ひんやりとした外気に一瞬さらされるも、それはすぐ消えた。
だって歳三くんが、全身で抱きしめてくれたから。

「ずっと男社会の会社で、ツライ思いしてたお前だから....。少しでも深く触れたら、嫌われちまいそうで、...できなかった。」

確かに、歳三くんと出会ったのはあのエロ親父にセクハラ仕掛けられているところだったから、私が男性に対していい思いを抱いていないのは歳三くんも知っている。
お付き合いを始めた時だって、そうだった。

「お前に嫌われるくらいなら、我慢したほうがマシだと思ったが...。」

どうしてこの人は、こんなにも強いのだろうか。
私の荷物を背負ってくれる上に、私を想って自分がツライ思いをしようとするなんて。

歳三くんの、細いけど男の人らしい手をとった。
そのまま自分の胸元へ引き寄せる。
歳三くんの目が、大きく見開いて、私をその瞳に映した。

「わかる?私、こんなにドキドキしてるんだよ?」

早く、歳三くんに触れられたくて。

「確かに、男の人に嫌な思いたくさんさせられてきた。だけど、歳三くんは違う。嫌だとか、怖いとか、思ったことないから...!」

好きな人の体温を感じることを、どうして恐れなければならないのだろうか。

「ありす....。」

私を呼ぶ、その声が好き。
私に温もりをくれる、その手が好き。
私に愛を与えてくれる、その唇が好き。

「だからもっと、歳三くんを感じたいの....!」

全身全霊で、貴方を受け止めるから。
全身全霊で、私を愛して。

「馬鹿野郎、もっと自分を、大切にしろっ...!」

歳三くんは、嘘をついた。
降り注いできたキスは、今までにないくらいに激しくて、私を貪った。
何もかも吸い取られるんじゃないかってくらい、吸いつかれて、離さない。

「酔っ払って甘えてきたり……厭らしい香りの香水つけやがったり……!」

ほんの一瞬だけ許された呼吸の合間に、歳三くんの想いが紡がれる。

「その度こっちは、ぶっ壊れそうだったんだよ……どうしてくれやがる……!」

ああ歳三くん、分かっていたんだ。

「歳三……くん?」

パジャマのボタンを外す手が止まる。
ここまで来てもまだ滲み出る、葛藤の色。

「このままありすを抱いたら、それでもやっぱり、お前を傷つけちまいそうで…自分が怖い。」

「何それっ、歳三くんってそんなに激しいの?」

それでもなお躊躇い続ける歳三くんに、私は精一杯の笑顔を見せた。

好きだよ、大好きだから。
貴方に触れられることだけは、幸せだから。

「歳三くんになら、壊されてもいい。だから……続き、して?」

返事はなかった。
だけどきっと、甘く包み込むような口付けがその答え。

「……任せとけ。」




目を覚ました。
辺りにはうっすらと朝日が射し込んでいる。

隣に歳三くんは、いない。

「夢……かぁ。」

なんとなくだけど、歳三くんが私を思い出してくれた夢を見た。
いつも通り、あの声で私を呼んでくれて、抱きしめてくれて。

違う、私をこんな風に壊してほしかったわけじゃない。

約束のクリスマスイブは、もう目の前だ。










To be continue.....



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