焼き鳥

「いらっしゃいませー!」
「よう、大将!今日は二人な!」
たまに来てくれるお客さんだ。カウンターにご案内する。
早い時間に来てくれるのは珍しい。
今日もハンチングがお似合いだなぁ。ベストとネクタイもかっこいい。
うちの店はガード下という立地からかおじさんばっかりだけど、たまにピシッとしたサラリーマンが来たりもする。
まぁ、グルメ雑誌にとりあげられた事もある、隠れた名店ってやつだ。
おしぼりをお持ちする。
「お飲物どうされますか?」
「とりあえずビール二つで。お嬢ちゃん今日も元気でいいねぇ!」
「あは、ありがとうございます。」
「ちょっと、虎徹さん。なに僕の飲み物勝手に決めてるんですか!?」
お連れの方がハンチングさん(と勝手に呼んでる)に向かって文句を言っている。
どっかでみたことあるような…。
「バッカ、お前、ここの焼き鳥にはまずはビールなの!いいから黙って食ってみろよ。」
「あの…お飲物ビールでよろしいですか?」
お連れの金髪の方が私をみて
「じゃあ、ビール二つでお願いします。」
と爽やかに微笑んだ。
あーーーーーーーーー!バーナビーだ!
うおー、すごい。金髪くるくる。きれー。
へぇ、こんな店にも来たりするんだ。

「お嬢ちゃん、あと、とりあえず焼き鳥盛り合わせと手羽二つ!」
いつものメニューだ。
ビールとお通しのキャベツをお出しする。
「虎徹さん、これ、なんですか?」
「なにって、キャベツだろ。どう見ても。」
「それくらい僕にだってわかりますよ!これ、料理なんですか?」
「お通しだよ。付け合わせっていうか箸休めっていうか。まぁいいからこの味噌つけて食ってみろって。」
小声でしゃべっているが、まだお客さんが少ないせいもあって私にはよく聞こえてくる。
バーナビーさんはこういう店いかなそうだもんなぁ。
なんだかおもしろい二人だ。
ハンチングさんはバーナビーさんと親しそう。

「まずは塩の盛り合わせからです。どうぞー」
「虎徹さん、これはなんですか?」
「砂肝、ハツ、皮、ひな」
「えっ!?」
「トリだよ鶏。あー、なんだ、いろんな部位っつーの?なんかそんな感じ。いいから食ってみろ。」
ハンチングさんは串にかぶりつく。
「はぁ、そうやって食べるルールなんですね。」
バーナビーさんは戸惑いながらも串に齧りついた。
「あー、やっぱうめぇなあ。ビールも最高!」
「そうですね、これは確かにビールが合いますね。」
「だろ。そんで合間にキャベツを食う。」
「なるほど。」

「お次、たれ盛り合わせです。こちらからレバー、ねぎま、つくねです。」
一応説明してみる。
「ああ、レバーは肝臓ですね。ねぎまは…間にネギが挟まってるからねぎまですか?」
「あー?そうなんじゃねーの?知らないけど。」
いえ、正確にはネギとマグロの串が変化して今のネギと鶏になったけど名前だけはそのままだからです…ってわざわざいうのも変だから黙っておく。
「へぇ、たれはまた違う美味しさですね。」
「だろー、あ、七味かけても上手いぞ。」
「しちみ?」
「はい、これ。唐辛子にごまとかなんかいろいろ入ってんの。かけすぎんなよ。」
「この入れ物変わった形ですね。」
「ん?ああ、ひょうたんな。え?おまえひょうたん知らないの?」
「・・・今度調べておきます。」
二人の会話がなんだか微笑ましい。
うちの店で焼き鳥が初めてのお客さんもたまに来店されるのでいろいろ説明したりするけど、ハンチングさんの返答がなかなかおもしろい。

「手羽でーす。お好みでレモンかけて召し上がってください。」
「お、きたきた。これが絶品なんだよ!ほい、バニー」
「レモンを搾ればいいんですね?え?手で食べるんですか?」
「え?手羽は手だろー。」
「はぁ。まぁロブスターとかも手を使って食べますしね…。」
ろぶすたぁ!?ふえぇ。例えがさすがバーナビーさん、って感じだ。
「ああ、これは美味しいです!なんていうか、ジューシーですね。」
「だろー。手羽はこの店より美味いとこないね!」
「バニー、骨の脇が美味いんだよ。お前食べるの下手だな。」
「そんな事言ったって初めてなんだからしょうがないでしょう。」

「お次なにかお作りしましょうか?」
「えーっとね、バニーなんか食いたいもんある?」
「野菜とかあります?」
「あー、じゃあ、ぎんなんとししとうとしいたけ。あ、あとだし巻きもちょうだい。」
「はい、かしこまりました。」

「バニー次何飲む?」
「え?ビールじゃないんですか?」
「最初はビールなの。で、次からはまた違うので楽しむ。俺は焼酎ロック。」
「えーと、何があるんですか?」
「お、この日本酒利き酒セットってのどうだ?飲み比べできるぞ。」
「日本酒ですか…。あまり飲む機会がないのでいいですね。」
「お嬢ちゃん、この焼酎ロックと利き酒セットよろしくー!」
「はーい。かしこまりました。」

「焼酎ロックと利き酒セットです。日本酒の説明はこちらです。あと、野菜串今お持ちしますね。」
「へぇ、産地が違うんですね。この吟醸とか大吟醸ってのはなんですか?」
「産地だけじゃねぇぞ。磨きとか仕込みとかいろいろあってだな・・・」
「ああ、長くなりそうなんでやっぱりいいです。」
「おまっ、酒屋の息子なめんなよぉ」
「はい、こちら野菜串です。日本酒はいろいろありますから、お好みの味を探されるのも楽しいと思いますよ。っていっても私もよくわかんないんですけど。」
「一口に日本酒と言ってもいろいろあって、それぞれ味が違うんですね。僕はこの真ん中のが一番好きですね。日本酒も奥が深そうですね」
バーナビーさんがにっこりと笑ってくれた。
「へっ、バニーちゃんは愛想だけはいいんだから…。」
「この野菜はこのまま食べていいんですか?」
「あ、しいたけは醤油をちょこっとだけ垂らすとうまいんだ。・・・っと、このくらい。」
「ああ、お醤油の風味で引き立ちますね。ぎんなんをそのままって初めて食べます。」
「へー、そうなの?けっこういけるだろ?」
「お酒に合いますね。」

「だし巻き卵おまたせしました。どうぞー」
「おっ、きたきた。これもここのうまいんだ。こうやって大根おろしと醤油をちょこっと…」
「これはなんていうか、やさしい味がしますね。」
「いいだろー。」
ハンチングさんは自分が褒められたようにうれしそうだ。
私も美味しいと言ってもらえて嬉しい。

「んーと、〆はやっぱりお茶漬けだな。」
「おちゃづけ、ですか?」
「そ、コメ。バニーは、梅と鮭と明太子どれにする?」
「えーっと、梅って梅干しですよね。それはちょっとあれなんで…どっちがいいですかね?」
「お嬢ちゃん、鮭と明太子どっちがおすすめ?」
「あー、えっと、私は鮭が好きです。」
「じゃあ、僕、鮭でおねがいします。」
「俺、梅茶漬けねー。」
「はい。かしこまりました。」
うわー。いきなり振られびっくりした。ってか私の好みでよかったのかな?

「お茶漬けです。お好みでわさび、どうぞ。」
「へぇ、お茶漬けってお茶じゃなくてだしなんですね。」
「あー、お茶で作る場合もあるぞ。店によってまちまちだな。」
「これはさらっといけて確かに最後にいいですね。」
「だろー。ビールで始めてお茶漬けで〆る。焼きおにぎりも美味いんだけどな。それは今度な。」

「お嬢ちゃんお会計おねがいー。」
「はーい、こちら伝票です。」
「僕が払いますよ。連れて来てもらったんだし。」
「いや、ここは俺が連れて来たんだから俺が払うの!先輩だし。」
なんかもめてる・・・
「わかりました。じゃあ、今度僕のおすすめの店は僕におごらせてもらいますからね。」
「大将、お嬢ちゃんごちそうさま!」
「とっても美味しかったです。ごちそうさまでした。」
「いつもありがとうございます。またお待ちしてますねー。」


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