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まばらな街灯が時折点滅する通りで途方に暮れる。
ここ、どこ?
とりあえず駅まで戻るつもりがなんだかどんどん寂しい感じになってきた。
タクシーもいないし道を尋ねるお店も人もいない。
しかもなれないパンプスで足が痛い。
端末のGPSを見てもなんだかわからない。そもそもここはシルバーステージじゃないの?
会食をしたレストランからちょっと歩こうと思ったのが間違いか、階層間エレベーターでぼんやりしてたのがいけなかったか…
シュウの『いい加減リンは方向音痴って認めなよ』とバカにした顔を思い出して舌打ちする。
だって地図アプリとGPSがあれば目的地にたどり着ける!と言い返したけど、この状況はもう認めるしかない。

SBは場所に寄っては治安が良いとは言えないってコニーが言ってたっけ。
看板のネオンが半分消えた店を見つけて不安が増す。
海外出張で犯罪に巻き込まれるなんて笑い話にもならない。想像してぞっとする。
誰かに電話して迎えに来てもらうとしても、現在地がわからない。
この街で知り合いはコニーか教授しかいないし、さっきまで一緒だった教授は二次会へ行ってしまった。
バカにされてもいいからコニーに連絡してみよう(シュウと違ってバカにしないと思うけど)。
取り出したケータイがいきなり震えて、咄嗟に通話ボタンを押す。
『Hi!リン?』
誰?
『バーナビーです。明日ランチをまた一緒に…あれ?リン?』
バーナビーだああああ。
知った声にほっとして涙ぐむ。
バーナビーに迷惑をかけるといけないから平静を装って返事をする。
「明日は大学にいます。」
声が少し震えた。
『あの、リン?大丈夫ですか?』
「はい。明日ですよね?」
背後で大きな音がしてさっきの店から大きな男の人が3,4人出て来た。
酔っているのか何か大声でしゃべっている。
目を合わせないように顔を背けて、こっちへ来ないように祈る。
『今外ですか?後でかけ直したほうが
「切らないで!」
怖い怖い。お願い切らないで。
『そこはどこですか?大丈夫じゃないですよね?』
大丈夫じゃないけどバーナビーに迷惑はかけられないしここがどこだか私にもわからない。
ヒュー!と聞こえた口笛に小さく悲鳴が出た。
『リン!すぐに行きます。そこから何が見えますか?なんでもいいから目につくものを教えて。』
「でっかい牛?の角…?」
見上げた先にそびえ立つ像。
『それから?近くに標識や店は?今向かってます。このまま話して。』
バーナビーの声の向こうに風の音だろう雑音が混じる。
店…さっきの
「えっと、パブが。Rose…g?」
『わかりました。』
え、今のでわかるの?
『あと10秒でつきます。10、9、8…』

カウント3残して、青く輝くバーナビーが現れた。

バーナビーに手を引かれて2ブロック歩くと大きな明るい通りに出た。
ここならタクシーも捕まるだろう。
「あの、ほんとにありがとうございました。助かりました。」
「お役に立ててよかったです。ホテルまで送りましょう。」
そこまではご迷惑だからと断ろうとすると逆に、僕が送ったら迷惑ですか?と言われて慌てて首を振る。
タクシーの中でバーナビーが遠慮がちに口を開く。
「あの辺りはどんなところかご存知ですか?」
「いえ。道に迷って…シルバーステージで降りたつもりだったんですけどブロンズでした?駅に戻るつもりがなんかどんどん暗くなっていって…」
バーナビーがフフッと笑う。
「そうでしたか。あそこは少し変わった夜の店が多いエリアなんです。」
自分がいるところもわからなくて、いつもは地図アプリとGPSでなんとかなっていると言うとバーナビーはきょとんとする。
「リンさんは方向音痴なんですか?」
う。
「SBは最初はわかりにくいかもしれませんね。でも意外だなあ。」
よくいわれます、と答えるとまたふふっと笑った。
「すごく怖かった。来てくれてよかった。」
体温が戻った手を軽く握りしめる。
「はい。」
バーナビーがもう一度手を握ってくれた。

別れ際バーナビーは
「また迷ったらいつでも僕に連絡してくださいね。明日のランチまでの間でも結構ですよ。」
とニヤッとした。
ちょっとそれは失礼じゃない!!
さっきまでの心細さと恐怖がいつのまにか消えていた。
明日のランチは何を食べようかな。





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