フランボワーズ-2

今回は機内Wi-Fiがなくて連絡出来なくてさあ。
どうせだったら驚かそうかな、っておもっただけなんだよ?

そういいながら指でつまんだチョコレートを差し出すリン。
反射的に口を開けるとするりと押し込まれる。
ひと噛みで中から甘酸っぱいソースがとろけだす。

ごめんね?
僕のシャツをぎゅっと握って見つめてくる。
ああ、だからその上目遣い…わざとなのか?リンってそういうタイプなの?
たぶんこれは身長差からなる無意識の行動だと分かってはいても、なんだかとても落ち着かない。

怒ってない、大丈夫。
僕が勝手に早とちりして心配しただけだから。
もう4度目のその言葉を口にして、そっとリンの頭を撫でた。
会いたかった。会えて嬉しいよ、リン。
彼女ははにかんで、僕の胸に顔を埋めた。
僕は愛しいリアルの彼女の背に腕を回そうとして…慌てて引きはがした。
「ごめん!これはあとで!」
両肩を押されたリンはきょとんと首を傾げる。
「だーよーなー。ここをどこだと思ってんだ!いちゃつくやつは帰れ!!!!!」
この研究室の頂点、教授のジムの低い声が後ろから響いた。
助かった。多分僕はいま汗臭い。出動のあとシャワーに入ってこなかったから。
リンはなんか柔らかくていい匂いがしてもっと抱きしめたいけど、臭いって思われたらいやだから今は我慢。

「だいたいさあ、お前(リンのことだ)ってそういうタイプだったっけ?」
「えーーーー、”そういうタイプ”ってなんですか」
(このちょっと不満げな口調は可愛らしい)
「人前でいちゃつくタイプ、ってことだよ!」
「他に人いないじゃないですか。別に街中でいちゃついたりはしませんけど…」
「俺がいるだろーが、ここに」
「あ、そうでしたね。でも教授だってノリノリでメッセージ送っていたじゃないですか。」
(ああ、やっぱりわざと誤解しやすい文面で送って来たんだ)
「それとこれは別。目の前でいちゃつくな、つってんの。もうなんだよ…」
「そこはほら、ね、会えない時間に募る思いってやつですよ」
「あーそうですか。おい、バーナビー!奥さんさっさと連れて帰れよ鬱陶しい」
え?
「バーナビー?」
つ、つのるおもい?おくさん????
袖を引っ張られて慌ててリンの方を向く。
「なんかうるさいから行こ?」
「うるさいとは失礼だな!」
頭の中を占めていた言葉を一旦保留にして、恩人であるジムの方を振り返る。
「二人きりで話したいので失礼しますね」
ジムは追い払うように手を振る。
じゃ、また。とドアを閉める僕に向かって彼はへたくそなウィンクをくれた。



リンをホテルに送り届けたあと、僕は渋々会社に戻った。
無視し続けた不在着信が20件を越えたからだ。
「これからはいつでも会えるよ。お互いに、やるべきことはきちんとやる。でしょ?」
思いが通じ合ってすぐ離ればなれになった僕たちが、どちらからともなく決めた約束。
「仕事が終わったら連絡して。夕食を一緒に食べよ?」
心の中でガッツポーズをとる。
「ええ。SBの美味しいお店、ご案内しますね。」
リンの両手をとって指先に口づける。
「シュテルンビルトへようこそ」



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