フランボワーズ-3

広いリビングが落ち着かない。
教授と企んだドッキリが成功したあと仕事に戻ったバーナビーと夜に再会して食事の後ここへ来た。
本革のソファはゆったりとしていて座り心地はいい。けれど私の心はちっともくつろげていなかった。
そりゃそうだ。
初めての恋人の部屋。
こいびとのへや。
自分で言って(もちろん声にだしてはいない)恥ずかしくなった。
テーブルにカフェオレの入ったマグカップが置かれる。
変な虎柄。バーナビーってこういう趣味?
あー、ヒーローのときはユニフォームみたいないつも同じ服(契約上とかそういうのだろう)だし、街中のポスターは衣装だもんね。
部屋のインテリアはそんなに変な感じしないというかむしろ素敵だけど、私服がこのマグカップみたいなテイストだったらどうしよう。
私がお願いしたら変えてくれるかな…自分の趣味を押し付けるなんておこがましすぎるよね…でも虎柄…
マグカップを見つめてぐるぐると悩んでいると
「あ、リンはこっちで」
と可愛らしいウサギ柄のマグカップと取り替えられた。
こっちはこっちでまたなんていうかファンシーだな。
バーナビーがわからない…
「こ、これは貰い物で、その…」
あまりにもマグカップを凝視しすぎていたことに気まずくなる。
なんかごめん。
バーナビーの入れてくれたカフェオレをそっと啜る。ほんの少し甘くて美味しい。あったかい。

孤児院の子供達からもらったものだと教えてくれる。
虎柄は虎徹さん(ワイルドタイガーだ)の分だとも。タイガーだから虎柄か。
バーナビーが慈善事業にも力を入れていることはマンスリーヒーローにも載っていた。
SBから帰ってマンスリーヒーローの既刊をかき集め、インターネットでもヒーローバーナビーの情報を集めた。
二人で過ごした時間は短すぎて、思いが通じたのに会話もままならない状況で、私が出来ることはそのくらいしかなかった。
公になっていない彼個人のことは彼の口から直接、私の目で見て知りたかった。短文のメッセージじゃ足りない。
私は彼のことを何も知らない。
「虎徹さんはよくここへ来るの?」
「ええ。プライベートで親しい人が少ないので彼が訪問する頻度が多い方なのかはわかりませんが…。ごめん、ちゃんとカップ用意します。」
リン専用のを買いに行きましょう、と微笑むバーナビー。
近い。顔が近い。
隣に座っているのだから当たり前だけど近い。
「そういうつもりで聞いたんじゃないんだけど、でもうれしい」
そっと視線をマグカップへ戻す。
なんだこの落ち着かない感じは。

あの…とバーナビーが遠慮がちに口を開く。
「なんだかまだ夢みたいだ。浮かれてこんなところにまで連れて来てしまってすみません」
こんなところっていうのはバーナビーの部屋ってこと?
「リンがSBへ来たらジャスティスタワーの展望台もBIG TREEも今度は僕が案内して夜景のきれいなレストランも夜中のドライブも僕がよく行くバーも、沢山沢山連れて行きたいところがあって…
でも一番は、ここに、僕の部屋にリンが来てくれたらいいなってずっと思っていたんです」
前回他の人(仕事先のスタッフだ)に観光案内してもらったのを気にしていたようだ。ふふ。かわいい。
少しの沈黙のあとバーナビーは今度は消えそうな声で呟いた。
「は、じめてのデートで家に連れ込むなんて…ごめんなさい」
唖然としてしまった。
「連れ込むっていうか、その、手を出そうとかそういうことではなくて!下心はないです!!…でもないな。ええと下心は全くないとは誓えないけれどリンの気持ちを尊重して…ああなに言ってんだろう。とにかく、ここにリンが来てくれたらいいなって思っていたのとゆっくり二人だけで話がしたくて家に来てもらったんだけど、いやでもカップも用意出来てなかったし…」
私はついにふふふと笑いを漏らしてしまった。だってなんかかわいい。
ぽかんとするバーナビー。
「うん。気持ちは伝わった。お家に連れて来てくれて嬉しい。」
バーナビーの方へ向き直って、両手で彼の頬を包む。
ああ、きれいなグリーンアイズ。
「色々考えてくれてありがとう。これからはずっとSBにいるからよろしくね?」
バーナビーは「はい」とはっきり頷いて私の手を顔から外してその両手で握り込んだ。
それからそっと唇が触れ合う。
離れたあとも手は握ったままで、はにかむバーナビーの笑顔にこのひとはなんてかわいいんだろう!!!と思ってしまった。

そわそわして落ち着かなくて、けれども同時にドキドキワクワクする。
もしかしてバーナビーも同じ気持ちなのかな。



ねえどうして言葉遣いが丁寧なの?
コニーでやり取りしていたときはもっとフランクだったじゃない。
SBから戻ったあとのメッセージだって口調は変わらなかったのに。
って聞いたら
面と向かうとなんとなくこうなってしまう、と返って来た。
えー、前回コニーとあったときは普通だったよ?
あれはコニーっていう人物だったからです、とかよくわからない。
え、コニーってキャラ設定あったの???
「だからそれはもうほんとにごめんってば。コニーは僕で言動に嘘はないけれど僕じゃないからこそ出来たこともあったんです…
ああもう、リンはコニーとバーナビーとどっちがいいんですか?バーナビーの僕じゃだめですか?」
ちょっと意味分かんない選択を迫られた。どっちもバーナビーじゃん。
好きになったのはバーナビーだよ。
そう言ったらバーナビーは顔を真っ赤にして黙った。
自分で聞いたくせに。
かわいい。
口に出しては言わないけれど。

ホテルの前で車から降りる直前に、今度は私からキスをした。
ほんの一瞬0,5秒。
固まったバーナビーに「おやすみ、また明日」と告げてドアを閉める。
車の中はスモークガラスで見えないけれど、バーナビーはまたきっと真っ赤な顔をしている。




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