それから-3

今日は一泊二日のロケ。やっぱりというかなんというかバーナビーだ。
あれから何度か飲みに行ったりしてるけど別に何もない。
キス、はまあ度々されてるけど。
「マナなんか疲れてるね?」
ロケバスの隣に座ったレイジ先輩からレモネードを受け取る。
「そうですね。ちょっと最近スケジュールが詰まってて…。」
「OBC担当一人抜けただけなのにマナに仕事集中し過ぎじゃない?たまには断ったら?」
あーうん。原因はわかってる。元々の担当している仕事とOBC、そこにバーナビーの仕事がねじ込まれるからだ。
そもそも今回だって先輩一人だっていいのに私がアシスタントみたいな形でつくことになった。
「マナはバーナビーに気に入られてるもんね。今回は俺はタイガー担当だから。」
はぁまあそういうことになりますよね。
「着くまで寝たら」との先輩の言葉に甘えて目を閉じる。
この午後の出発前に朝から一つ別の仕事をして来たのもあってすぐに意識が途切れた。


「…マナ…」
私の名前を呼ぶ低くて柔らかな声が耳に心地いい。
頬を撫でる感覚に目を開けると視界いっぱいにバーナビーだった。
「ふふ。おはよう。起きないと襲うよ?」
!!!!
「うわっ。すみません!私寝てましたね!?」
バスにはもう誰もいなかった。
っていうか、T&Bは別で来たはずだよね?
「レイジさんがマナはバスで寝かせてるっていうから。やっぱり寝顔かわいいね。」
「っ…!今何時ですか?お待たせしてすみません。」
「そんなに焦らなくても大丈夫。まだ撮影には時間あるよ。」
バーナビーの手がほわほわと私の頭を撫でる。
「…こういうこと止めてください。誰かに見られたらどうするんですか。」
「ああ、いつものマナに戻っちゃった、残念。じゃあ今度は誰にも見られないところにするね。」
懲りずににっこりするバーナビーを押しのけてバスを降りるよう促した。
外は海風が気持ちいい。
「いい夕日が撮れそうだね。」
バーナビーの言葉に笑顔で答えて撮影の準備に取りかかった。


ファッションブランドの広告撮影は今日の夕日のシーンと明日の朝日のシーンがメインだった。
こういうロケは撮影の時に集中するだけで後は何もやることがない。
ほのかに残った薄明かりの中で波打ち際を歩く。
さっきまでタイガーとバーナビーが立っていたところだ。
タイガーはほんとうにスタイルがいい。バーナビーの方が背が高いのにタイガーの方が足が長いのだとスタイリストが言っていた。
私達にしてみればタイガーはアイパッチ外したらいいのに、と思うくらいには顔もいい。
いろいろ事情があるんだろうけど。
「マナ!」
シルエットでバーナビーだとわかる。
「なにを考えていたんですか?」
隣に駆寄って来たバーナビーは私の手を取って尋ねる。
「タイガーさんのこと。」
手を振りほどくのも面倒でそのままにして答える。
「なんですかそれ。うそでも僕のことって言ってください。」
「うそでも、って。あはは。タイガーさんはかっこいいのにもったいないなあと思って。」
「僕が居るのにタイガーを見てたんですか?ひどいなあ。」
どこまで本気なんだか。
「バーナビーもかっこよかったよ。」
嬉しそうにバーナビーがふふ、と笑う。
「夕食を呼びに来たんですけど、もう少しこのまま二人でいましょうか。」
「お腹空いちゃった。ここ、パエリア美味しいんだって!」
バーナビーの言葉は無視して手を軽く引っ張ると頬にチュッとキスをされる。
睨んだ私に微笑みを返すバーナビー。なんかもういちいち怒る気もしなくなってきた。あーあ。
直前でさり気なく手を離してスタッフに合流した。

食事が一段落して、テラスのチェアでワインを飲みつつレストランの中を眺める。
「T&Bってスタッフにもフレンドリーですよねえー。」
「そうだね。」
同じようにグラスを片手に座ったレイジ先輩が答える。
「デビューした頃はバーナビーは近寄りがたい感じだったんだけどね。」
へえ。
スタッフのグラスにお酒を注いで笑い合っているバーナビーは王子様なんていう階級の人には見えない。
バーナビーの私に対する態度がただの親しみなのかなんなのか測りきれずにいる。
今だってバーナビーは女性スタッフになにか耳打ちされて笑っている。
「気になる?」
先輩の言葉に私は首を傾げた。
「ま、いっか。俺はそろそろ中に入るけどマナは?」
「もう少しここに居ます。」
先輩を見送って、にぎやかな店内とは反対の海を向いて座り直す。
白波が月明かりにぼんやりと照らされていた。

テーブルのボトルが空になって、お代わりを取りに行こうかもう止めようかというところで人の気配に振り返るとバーナビーがいた。
隣のチェアに座り新しいボトルを差し出してくれたのでありがたく注いでもらう。
「主役がこんなところに来ていいの?」
すっきりとした甘さのロゼが美味しい。
「ええ。マナを独り占めするチャンスですからね。」
「そう?」
バーナビーと違って一般人の私はいつでもフリーだと思うけど。
「そうですよ。マナの側にはいつも誰かいる。さっきだってレイジさんが居たでしょう?」
ああ。そう言う意味ならいつも一人でぽつんと居る人の方が珍しいと思うけど。
「バーナビーだってさっき女性スタッフと楽しそうにしてたじゃない。」
「マナ、妬いてくれるんですか?」
「え?」
バーナビーは何故かニコニコしている。
「気にしてくれるなんて嬉しいなあ。」
はあ…。もうなんとでも思ってくれていいわ。
「さっき、レイジさんとなにを話してたんですか?」
何って…
「別に特にこれと言って…。」
「ああ、いや、ええと…言い直します。マナとレイジさんって仲良いんですか?」
「うん。先輩と後輩だから。会社だけじゃなくて師事したひとが一緒なの。だからいろんな面で先輩。」
「じゃあ、恋愛的な意味では?」
「はぁ?ナイナイ。かっこいいしモテるし性格もいいけど、それはない。え、そんな風に見える?」
見えたとしたらいやだなあ。いやっていうか先輩に迷惑かけてしまう。
「なんだ、そっか。」
バーナビーがあからさまにほっとするのが分かる。
「もしかしてレイジ先輩との間を疑ってたの?」
「疑ってたっていうか、まあそうですね。他の、マナを慕ってるアイドルとかはそれだけだろうと思ったんですけど。レイジさんとはすごく親しいから…。」
「ふうん。バーナビーでもそんなこと気にするんだ。」
っていうか、私のそんなこと気になるんだ。
「僕だって好きな人と親しい人のことは気になりますよ。可笑しいですか?」
「びっくりした。」
今、すきなひと、って言ったよね。
なんか、ほんとにバーナビーがわからない。

海風が冷たくなって、部屋に戻ると言った私をバーナビーは送ってくれた。
「もっと話していたいけど明日も早いしマナが風邪を引いたら困りますからね。」
なんていいながら廊下を歩く。
ルームキーを解除してバーナビーを振り返る。
「わざわざありがと。また明日。」
返事がないバーナビーを見上げると彼は一瞬眉をひそめた。
ぐいと肩をつかまれてドアが開き押込められる。
暗闇の中で唇を塞がれ、ドアが閉まる音がした。
混乱した頭でバーナビーの唇の温かさと香水と微かな潮の香りを感じる。
貪り深くなるキスに息が出来なくて口を開けばさらに塞がれる。
離れたとたんに噛み付かれ舌が引きずり出される。
バーナビーの全身から漂う雄の気配に酔いそうになる。
腰と背中に回された力強い腕は抵抗どころが委ねたくすらなる。
ああ、これはほんとにヤバい。
足の力が抜けた頃、やっと唇が離れた。
「マナ、いいかげんわかってください。僕はマナが欲しい。いいでしょう?」
薄闇に光る翠の瞳に、遊びじゃないんだと思わせられる。
小さく頷くと、再び、今度はゆっくりと優しく唇が塞がれた。



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