それから-2

「最近バーナビーさんとの仕事多くないですか?」
「そう?広告撮影はマナの仕事の一つでしょう?」
まあそうなんだけど。
この、控え室で二人だけになると呼び捨てになるのもなんなんだろう。
ちょいちょいキスされそうになるのはなんとかかわしている。
今日の撮影は男性向け香水の広告。CFとスチール撮影。イメージは妖艶。
ふうん。
目元を少し強調したメイクを施しヘアセットに取りかかる。
メイクなんかしなくたって充分かっこいいよねえ。
柔らかな前髪をあげると形のいい額が露になる。
鏡越しのバーナビーが微笑んだ。
なぜかドキドキしてしまう。いや、どうせ見えてないんだから気のせいだ。
オールバックのバーナビーは我ながら完璧だった。
最後に監督からの指示のワンポイント。
「バーナビーさん、首もと失礼します。」
声をかけるとバーナビーはガウンを脱いだ。
「いや、着ていてもらっていいんですけど。」
そんな惜しげもなく脱いでみせられても困るっていうか…。
「照れているんですか?男の裸なんて珍しくないでしょう?」
いや、まあそうだけど。上半身の裸なら仕事柄見る機会は珍しくはない。
そうはいっても目のやり場に困ってしまう。
「それとも僕だから?なんて。」
ため息を一つついて気を取り直す。
きれーな体。傷跡もあるけれど筋肉がついた戦う体だ。
冷静を保ってメイクを終える。
「へえ、流石ですね。」
バーナビーは立ち上がって鏡に近づき仕上がりを確認する。
「でも、マナが付けてくれてもよかったんですよ?」
ぎょっと振り返るとバーナビーが目前に迫っていた。
腰が机に当たる。
「ね。お礼にマナにもつけてあげる。」
いやいやいや、何言ってるんですか。
ギラリと光る翠の瞳に体がすくむ。
バーナビーの手が私のシャツのボタンを外して行く。
「あのっ、人が来ますから…」
「鍵をかけたので大丈夫です。」
いつの間に!?っていうかそう言う問題じゃない。
バーナビーの顔が近づいてぎゅっと目を閉じると首元にチリッと痛みを感じた。
目を開けるとバーナビーがニヤッと笑う。
「お揃い、ね。」
焦って鏡を見るとそこにはくっきりと赤い痕がついていた。
「バーナビーさんのはメイクじゃないですか!!!これどうするんですかっ!」
「僕にもマナが付けてくれていいんだよ?」
出来ないことを分かっててそう言うこという!なんなのもう腹立たしい!
バーナビーに背中を向けて片付けを始める。
からかわれてばかりだ。
ふわっと背後から抱きしめられて動きが止まる。
「怒ってます?」
そんな哀しそうな声は反則だ。
「もういいです。それより服着てください。風邪引きますよ。」
なんて、背中に触れるぬくもりにドキドキして目のやり場に困ってしまうからだ。
「僕の心配してくれるんだね。」
耳にかかる息に体温が上がりそうになる。
バーナビーは私の頬に唇を付けた後離れた。
くっそ!!!毎回毎回こうやって!!
衣装のシャツを羽織るバーナビーの背中を睨みつける。
どうせ何とも思ってないからこんなことできるんだ。
若い女の子みたいにドキドキしてしまうのが悔しい。最近甘い恋人なんてご無沙汰だからかな。はぁー。

撮影中のバーナビーはそれはもう完璧だった。
だだ漏れる色気がすごい。
相手役の女性モデルも仕事を忘れてうっとりとしている。
ソファに横たわりモデルがのしかかる。
羽織っただけのシャツははだけ、胸筋と腹筋が美しく覗く。
バーナビーはモデルの髪の毛を弄びつつ、視線は真っすぐこちらへ向ける。
こっちっていうかカメラだけど。
その強く射抜くような視線にただ見惚れてしまう。
今日は眼鏡がないからこちらが見えている訳ではないんだろうけど。
スチールの後にCFと続く。
二人は向かい合い、今度も女性がバーナビーの胸に顔を寄せる。
まあ、香水の広告だしね。
バーナビーが女性の顎に手を添えて顔が近づいてキス…というところで”カット!”の声がかかる。
スタジオ中のスタッフから溜息が漏れる。
「バーナビーってキスシーンやらないんですよね。」
隣に居た相手役のほうのヘアメイクさんが呟く。
「え、そうなんですか?」
「ええ。有名ですよ。知らなかったんですか?うちのジェシーはものすごく残念がってましたけどね。」
へえー。
その後他のパターンも撮影して終了となった。
広告の撮影にしてはスムーズだったな。やっぱりバーナビーが完璧だからだろう。撮り直しは相手モデルがぼーっとしてた一回だけだ。
まあ、ぼーっとする気持ちも分かる。

バーナビーの後について控え室へ入る。
ドアを閉めたとたんに振り返ったバーナビーにぶつかった。
な、なに?
「マナ…」
背中がドアに当たる。バーナビーの手が伸びて鍵がかかる音がする。
近づくバーナビーの胸を押し返そうと持ち上げた手は掴まれてドアに押し付けられる。
「ちょ、バーナビーさん?」
「ここではさん付けしないで。」
「…バーナビー、離して。」
「いやだ。」
バーナビーの初めて見る切ない表情に混乱する。
開きかけた唇を塞がれる。
角度を変えて何度も口付けられる。
抗議の言葉を出す前に吸い込まれる。
だんだんと深くなりねじ込まれた舌が口の中でうごめく。
はっ…
足が震える。これはマズいってわかっているのにこのまま翻弄されるのも悪くないと思ってしまう。
やっと唇が離れたバーナビーを精一杯睨みつける。
「なんでこんなことするの。」
「僕がどんな気持ちで撮影してたと思ってるんですか?」
「は?」
「あなた、僕が撮影中に他の男と楽しそうにおしゃべりなんかして!」
他の男?おしゃべり?
「相手モデルのメイクさん?」
バーナビーが目をそらす。その態度にイラッとする。
「バーナビーはキスシーンやらないって話してただけだけど?キスシーンはやらないのに、こうやって私をからかってキスしたりはするんだ?」
バーナビーがむっとするのがわかる。
「僕は好きな人にしかキスしません!」
え?
「何そんな不思議そうな表情してるんです?僕は最初からそういっているでしょう?」
「最初から?え?なに?」
バーナビーが大きなため息を吐いた。
「僕はマナに会いたくてジョニーにお願いして…それなのにマナはいつもつれないし冷たいし…」
いやいやいや、ちょっとまって!!!
「お願いしてってどういうこと?っていうか、連絡先交換した後一度も連絡くれなかったよね?」
「だからそれは…。」
口ごもるバーナビーを見上げる。
「それはタイミングがつかめなくて…。」
「だいたい仕事場でこんな風に迫られても困るんだけど。」
掴まれたままの手を振りほどく。さっきの胸の高鳴りは無視して言葉を続ける。
「軽い気持ちでこういうことしないで。バーナビーは立場ってものを全然分かって…」
言い終わる前に抱きすくめられる。
「軽い気持ちじゃない!仕事場じゃなかったら、いいですか?」
ちょっとまってどういうこと?
「今夜食事に行きましょう。ね?」
少し乱れた髪と真剣な瞳に見惚れて、無意識に頷いた。

はあ…これって流されてる、よね。



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