始まり-3


「緊張してるんですか?」
バーナビーに隣から囁かれてビクッとする。
「はぁまあ…。」
だってあのバーナビーだし!
「ふふ。この間は普通に一緒に飲んだじゃないですか。今日はアルコール飲まないんですか?」
ノンアルコールカクテルが入った私のグラスを不満そうにつつく。
いや、だって同じ間違い繰り返したくないし。
曖昧に答えてフィッシュアンドチップスをつまむ。
あっつ!!
揚げたてのフライを落としそうになって慌てて取り皿を掴む。
差し出されたペーパーナプキンを受け取ると、バーナビーは笑っていた。
「マナさんって僕と同じくらいの年?」
「は?ええ、まあ。たぶん。」
バーナビーっていくつだっけ?30手前だよね。
「かわいいな、と思って。」
は?
「それは頼りないか子供っぽいってことでしょうか?」
最近は仕事では頼りになるって言われるようになったんだけどなー。
「言葉通りですよ。かわいらしい。」
はあそうですか。
「それにしてもさっきの気持ちよかったなぁー。あんなことみんなにしてるんですか?僕には内緒にしてたなんてずるいな。」
「みんな、ではないですけど。肌が疲れてたりする人にはたまに。」
「あんなすごいテクニックで短時間で気持ちよくしてくれるなんて…。」
「ちょ、ちょっとなんか変な言い方止めてください。」
私が焦るとバーナビーはニヤッとした。
「そう思ってたんですよ、僕も。」
へ?
「魔法の手、秘密、若い男の子ばかり、昇天しちゃう…ってね。」
え、ええええー!?
「そんな風に思っててやって欲しいって言ったんですか?」
「質の悪い噂かと思って。でもマナさんは否定しないどころか簡単に承諾してくれるから驚きましたよ。」
いや、私はそういうこと(エロいことだよね)だと思われてた方がびっくりですよ。
「フェイスマッサージでほっとしました。まあ本音はちょっと残念でしたけど。」
とんでもない発言に飲み物を吹き出しそうになりむせる。
「大丈夫ですか?でもマナさんがそんなことを他の男にしてるなんてやっぱり嫉妬しちゃいそうだな。」
「っていうか、その発想もびっくりですけどバーナビーさんとは嫉妬される様な関係じゃないですよね。」
なにをいってるんだろうこの人は。
「マナさんは若い男の子に人気あるし。」
「いや、大御所さんは専属のメイクさんですから。それに雑誌の仕事は女性モデルさんが多いですよ。バーナビーさんなんてモッテモテじゃないですか。」
今日の収録のアシスタントに付いてた若い女子アナなんてうっとりしてバーナビー見てたし。
「マナさんも少しは妬いてくれます?」
いや、だからどうしてそういうことになるの。
「バーナビーさんはそれはそれはかっこいいし素敵ですけど、私とは縁のない方ですから。」
彼は私の言葉に、ふうん。と不満そうにグラスを傾ける。
世界中の女性を虜にしないと気がすまないのかしら。
「痕、消えちゃいましたね。」
え?
とんとん、と首を指差してにっこり笑うバーナビー。
っっつ!!
咄嗟に首を抑える。
「も、もう一ヶ月は経ちますから…。」
ああ、顔が熱い。
「なんだ。覚えてるんじゃないですか。ひどいなぁ。」
「な…!」
「ふふ。シャワーから出たら居なかったし連絡もないし、しかもOBCで会っても無視されるからそれなりに落ち込んだんですよ。でも今日会えてよかった。」
え?いやいやいや。だって…ねえ…。
「あの夜楽しかったのは僕だけ?僕の言葉に頷いてくれたのは嘘?」
そう言われても覚えてない…なんて言えない。ああ、でも言わなくちゃ。
「あのっ。あの日は本当にすみませんでした。いくら酔っていたとはいえご迷惑をおかけしてしまって。」
「僕は迷惑だなんて思ってないけど、マナさんは後悔してるの?」
うっ…
「マナって呼んだらバーナビーって返してくれたのに。」
そう言われても
「からかってるんですか?」
「まさか!僕は本気ですよ。何もなかったことにしたくない。」
何もなくはなかったですからね、はい。
「都合がいいから、ですか?」
「は?」
バーナビーの声が一瞬で不機嫌になった。
「僕はそんな風に考えてあなたを誘った訳じゃない。あの日もそう言いましたよね。もう一度言いますけど、僕は誰でも誘ったり誘いにのったりなんてしませんよ。」
「…ごめんなさい。」
「いえ。分かってもらえればいいんです。それでマナの返事は?」
返事?
「いいにくいんですけど、その…覚えていないんです。あの夜のこと。ごめんなさい。」
沈黙がよぎる。やっぱり怒るよね。
「覚えてない?」
「はい。」
「全部?」
「全部、かどうかはわかりません。バーでバーナビーさんと上司と一緒に飲んだところまでは。気づいたら朝で…。」
はああああああー。と大きなため息を吐いて、バーナビーは頭を抱えた。
「三人で話したことは?」
「なんとなく。」
「そのあと二人で店を変えたのは?」
首を傾げる。
「二人で飲みながらいろんな話をして、それで僕の誘いをマナは断らなくて、ベッドの中でもあんなにかわいかったのに…。」
ベッドの中と言われて顔が爆発しそうになる。
「ほんとにごめんなさい。」
「そのごめんなさいは何?覚えてなかったから連絡くれなかったんですか?それとも相手が僕ってことも忘れた?」
「朝起きて、バーナビーさんの家だっていうことは何となく分かって、でもどうしてそうなったのかわからなくて…」
「それで帰った?」
「はい。バーナビーさんほどの人が私を相手にするはずないし、一夜の過ち的なやつかなって。」
バーナビーがむっとするのが伝わってくる。
「そ、それに連絡先も知らないし。」
「そんなのジョニーに聞けばいいでしょう?」
「上司にバーナビーさんの連絡先なんて聞けませんよ!」
「僕のこと遊びだったんですね…。」
はぁ…。
「バーナビーさん自分の立場わかってます?SBの王子様ですよ。一晩一緒に過ごしたくらいで連絡されたら迷惑じゃないですか。だいたいそんな人の連絡先なんてSB中の人が欲しがってますよ。それに、それならバーナビーさんから連絡してくれたってよかったのに。」
「それは…ジョニーに聞こうと思ったけど聞けなくて、そしたらOBCで知らん顔されたからショックで…。」
「覚えてないのはほんとにごめんなさい。OBCではあの日のことはなかったことにした方がいいと思って。後悔とか遊びとかそう言うこと以前に本当に覚えていないんです。」
バーナビーがぐっと顔を上げて私を見る。
「そうですよね。それじゃ、また今夜から始めましょう。連絡先、教えてください。」
ものすごーく奇麗な笑顔で見つめられて言葉を失った。
「マナ?」
「始めるんですか?」
「なにか不都合でも?」
どうなんだろう?始まる、の?
「僕のこと嫌いですか?」
「いえ、そういう事ではない、です。」
「じゃ、問題ないですね。」
カウンターに置いた手を両手で握り込まれる。
嫌いではない。好きかどうかはわからないけど。
「僕のこと知ってください。答えはそれからでいいですから。」
バーナビーの真剣な瞳に、私は頷いた。
とん、と軽い衝撃と目前にバーナビーの顔が迫っていて思わず身を引く。
キス、したよね、今。
「ふふ。そういうところ、かわいいです。」
再びバーナビーの顔が近づいてぎゅっと目を閉じる。
「今日はここまで。」
バーナビーは耳元で囁くと、ちゅっと頬に唇が触れた。



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