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「イライラしてる?」
「してません!」
「してるだろー?」
「だからしてません!!!」
店に入ってからずっとテーブルの上のケータイをチラチラ気にしているバニーがかわいくてついからかいたくなる。
”先にあやまっておきます。呼び出しが入るかもしれないので…”とか律儀にことわりを入れるあたりがまた。
俺なんかにそんなこといちいち言わなくたっていいのに、こういうところはずっと変わらないんだよな。
「なあ、バニーも飲めば?車置いて帰ればいいじゃん」
「今日はいつでも動けるようにしておきたいので結構です。」
っていうと思った。
マナちゃんの仕事終わるの待ってんだよな、これ。
お代わりのオーダーを終えたバニーがリップクリームを取り出してサッと塗る。
コンビを組んだ初めの頃『きちんと手入れしてください。引き立て役とはいえ僕の隣に並ぶんですから』
って言われたことを思い出した。あれ以来俺もたまにリップクリームくらいは塗るようにしてる。

「キスっていつになったら慣れるんでしょうか…」
店内の喧騒にかき消されそうなほどのつぶやきだった。
瓶ビールをそのまま飲み干す。
「いつになっても慣れねーな。俺は最後まで慣れなかった。」
バニーが掌でリップクリームを弄びながらボソボソとしゃべりだす。
「いつもドキドキしてキスしたいのにタイミングがわからなくて歯を磨いたの何時間前だっけとか変なことまで考えだしてでもなんかとまらなくてぐわってなるんです」
ふふ
「今僕のことバカにしましたね?!」
「いやいやいや、してねーよ。みんな同じ。なんか昔の自分を思い出しただけ。」
「そうですか…」
続きの言葉を待つ。
「キスってなんか全部伝わっちゃう気がして。会えなくてもどかしかったこととか我慢してるのをバレないようにしてるのとかもうこのままずっと帰したくないなとかそういうのが全部。僕がマナをどのくらい好きかがバレたらいやだからキスするのが怖い。でもキスはしたいししちゃうんですけど。加減しようと思うのに止まらないし…」
「なあ、バニーが仕事でキスしないのってそういう理由?」
「は?そういうってなんですか。」
「えっと…気持ちが相手にバレる、的な?」
「仕事の相手に気持ちも何もありません。単純に好きでもない人と唇を触れ合わせたくないだけですよ。」
あ、そうですか。
「あーーーーーーーーーーーー、きすしたいなあ…」
ついにバニーがテーブルに突っ伏した。
これ、シラフなんだよな。
恋は人を変えるってほんとなんだな。

ブブッとテーブルの上のケータイが光ったと同時にバニーが起き上がって手に取った。
早ええ。
「じゃ、お先に失礼します。僕はここが払います。足りない分は虎徹さんがお願いしますね。」
ケータイが光ってからバニーが出て行くまで5秒。
テーブルには数枚のドル札が置かれていた。



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