5

スタジオから出て来たマナはすぐに僕の車に気づいて駆寄る。
わざわざありがとう、という彼女に、たまたま近くで飲んでたんで、と答える。
いろいろ省略したけど嘘ではない。
18日ぶりの彼女をすぐにでも抱きしめてキスしたかったけど、誰かに見られたら困る!と怒られるから我慢する。
小さくため息を吐いて座席に沈み込んだマナはこの間見かけたときよりやつれたように見えた。
「夕食は…」と言いかけてちらりと隣を見ると彼女の瞳は閉じられていた。
おつかれさま、声にださずに呟いて、少し遠回りの道を選んだ。


マンションに着いて、彼女を起こすか逡巡する。
触れたら起きてしまうだろうか。
顔を近づけた時、ふわりと甘い香りがした。
香水変えた?いや、香水じゃないな…
その香りの元がほんの少し色づいた唇だと気づいて衝動的にマナの唇を舐める。
いつものリップクリームじゃない。なんで。いつから。
合間にマナの口からこぼれた言葉は僕が全部吸い取る。
マナが僕の背中を叩くからリップクリームを全部なめとってから離れた。
「だ、誰かに見られたら「駐車場なので問題ありません。」
「いきなりキスし「無防備に寝ているあなたが悪い。」
ぐっと言葉に詰まったマナは耳まで真っ赤で可愛らしかった。




湯船で後ろからマナを抱きしめる。
すべすべしていて温かくて気持ちいいけれどこれじゃキス出来ないな。
項に舌を這わせて耳たぶを甘噛みする。
あ。
「ねえ、ここにホクロあるの知ってました?耳たぶの付け根」
急に耳を押さえてマナが振り返る。
「耳元でしゃべらないでっ。くすぐったい!」
「そんなことを言われたら僕はしゃべれませんね」
マナはくるりと向きを変えて僕にまたがった。
「これならバーナビーがしゃべってもくすぐったくないよ。大丈夫」
解決!とばかりに笑顔の彼女。
入浴剤が入っているとはいえ湯船のお湯は半透明で、体が触れ合う面積はさっきよりも減ったけど部分的にはいろいろヤバい。
「キスも出来るよ」
マナの腕が僕の首に回る。
さっきの聞こえてたんだ。
「ねえ、ファーストキスはどんな味だった?」
リップ音を立てて唇を離した彼女は僕の顔を覗き込む。
ファーストキス、ねえ…
「マナは?」
自分で聞いておいて答えを聞きたくないような気がする。
「忘れた。」
「え?」
「過去のどうでもいい記憶は覚えてないの。」
きっぱりと言う彼女はさっぱりとした表情をしているから実際にそうなんだろう。
なんだかほっとしたような複雑な気分だ。
「バーナビーは?」
「なんでそんなこと急に聞くんです?」
「今日読んだ見本誌がティーン向けでね、そういう特集だったの。初デートとか。なんかかわいらしかった。バーナビーの学生時代ってどんなかなって思って。」
そういわれると答えにくい。
「ファーストキスの味、ですか?」
うん!と瞳をキラキラさせる彼女。
「ミントの味、ですね」
「なにそれーーーーー!超爽やか。学生時代もバーナビーは王子様だったんだねえ」
きゃあ!とはしゃぐマナ。
はあ…
君は何にも分かってない。

「あなたがあの日飲んでたんですよ。ハニーミントジュレップ。」

ぽかんとするマナ。
「ファーストキスが十代じゃなくて引きました?」
ふるふると首を振る。
「僕のファーストキスの味はガムのミントでも歯磨き粉のミントでもなく、ハニーミントジュレップのミントです。」
僕の肩口に埋めたマナの顔をそっと持ちあげ、言葉を失った唇を塞いだ。




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