「兄様・・・」
「・・・そなたか。どうしたこのような夜更けに」
「私が毛利で過ごせる最後の時を、唯一の肉親である兄様と共にありたいと願うのは自然なことです」
「・・・・・・」

最後の時。私は明日、ある家に嫁ぐことになっている。そこに愛などない、ただの政略結婚。これは別に誰に強要されたことでもない、まごうことなき自分の意志だった。
すべて、兄の守る毛利家のため。そう自分で決めたことなのに・・・何でこんなに苦しいのだろう。
そんな迷いが伝わったのか、兄様は訝しげな表情でこちらを見てきた。
「そなた・・・何故嫁ぐことを我に相談なしで決めた」
「・・・嫁ぐことが・・・兄様の、毛利家の為になると・・・思った故、です。」
「誠、そう思っておるのか?・・・我はそなたを生涯側におくつもりであった」
「・・・ですか・・・それでは私が存在している意味がありません。女は子を産まなければ生きている意味がないのです。毛利で兄様の側にいるままでは私は誰の子を産むこともできません」
それでは兄様の役に立てません。そう小さく付け足した後、兄様は私の顔に手を添え、己の方を向かせた。
「ならば・・・我の子を生せばよい」
「・・・・・・」
兄様の目から感情が分かったのは初めてだ。
「よいか。一旦は嫁にやるが必ず取り戻しにゆく」


あぁ、今わかった。私は兄様を愛してしまったことを隠し通して生きていくために、兄様のもとから離れようとしたのだ。
でもそれは、所詮籠の中の鳥である私には到底無理なことだったんだ。

すこし、ほんの少しの辛抱で、私は兄様だけを愛し続けられるようになるんだ。


企画『おかえり』に提出


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