23:狩猟祭


 淡い光の中、あたたかな温もりに包まれながら夢と現の狭間を彷徨っていた。
 自分を抱きしめる腕は幼子をあやすように背中をさすり、指先に髪の毛を絡めて遊んでいるのか少しばかりくすぐったい。
 逆光で見えない顔ながら、とても優しい表情をしている事だけは理解できて、その優しさがもっと欲しくて胸元に顔をすり寄せる。すると、自分を抱きしめている人物が小さく笑うのがわかった。
「かわいいハクエ、おまえだけはどうか――……」
 子守唄を口ずさむように紡がれた言葉は、何故だか遠く離れた場所から話しかけられたかのように聞き取れない。
 ただ、その言葉に強い愛情が含まれている事だけは感じ取れた。
 その愛情に応えようと腕を上げた時、にわかに頭痛が走る。
「――っ!」
 咄嗟に頭を抑え、蹲る。
 けれど自分を抱きしめる腕の持ち主は変わることなく背中を撫で続け、異変に気付くことなく言葉を続ける。
「あんなヤツらに渡しはしない。おまえだけが――」
 あたたかな温もりが背中を撫でる度、頭を締め付ける痛みが強くなっていくかのようだ。
 ぎり、ぎりと、増していく痛みの中、ふと柔らかな歌声が辺りに響いている事に気が付いた。
 きっと、美しい歌声なのだろう。けれど、鼓膜を震わせる度、耐え難い痛みがハクエを襲う。
 痛い、どうして、苦しい、助けて――。悲鳴を上げようと口を開いても、声に出すことが叶わない。
 意識さえも遠のいていくほどの痛みの中、愛おしむような言葉だけが耳朶の中に滑り込んできた。
「さぁ、おまえを――にしてあげる……」
 最早淡い光もあたたかな温もりも残っておらず、只々ひび割れそうな頭の痛みだけがハクエを支配していた。



「ハクエ……ハクエ、起きて!」
「……!」
 強く身を揺すられる感覚に、急速に意識が浮上した。
 目蓋を押し上げた先に待ち構えていたのは慌てた様子でいるダガーの姿で、その向こうには豪華な造りの天井が覗いている。
 そこまで確認して、ようやくリンドブルム城の客室で暇を弄んでいる内に睡魔に誘われていたことを理解した。
 自分の具合といえば、全身が冷え切っていて、身を捩れば髪が首に張り付いていた。ひどく冷や汗をかいている。
 じんと冷えたまま中々感覚が戻ってこない身体をなんとか動かして身を起こすと、すかさずダガーが顔を覗き込んできた。
「大丈夫?」
「ダガー……うん、ちょっと悪い夢を見ていたみたい」
 ぼんやりとダガーの顔を見つめながら夢の内容を思い出そうと頭を動かすが、どうも上手く思い出すことが出来ない。辛うじて思い出すことが出来たのは淡い光とあたたかな腕の温もりだけ。
 何か、大事な事を忘れているような気がしたが、それ以上を思い出そうとするとどうしても頭がぼうっとしてしまう。
 それでも暫く夢の内容を思い出そうとしていたハクエだが、やがて諦めて立ち上がる。そのしっかりとした足取りに、大丈夫だと判断したらしいダガーがようやく安堵の笑みを浮かべた。
「なんだか、あの日を思い出すわね」
「あの日?」
「えぇ。あの日、うたた寝をして悪い夢を見ていた私をハクエが起こしてくれたわ」
「そういえば、そんな事もあったっけ」
 ハクエがアレクサンドリアにやってきたあの日。
 窓辺の椅子に腰掛けうたた寝をしていたダガーがうなされていたものだから、思わず揺すり起こしてしまった。それが、今回はハクエがうなされて、そしてダガーに揺すり起こされている。
 思いがけず立場が逆転していた事に、ハクエははにかんだ。ハクエの照れた表情にダガーはくすりと笑みを零し、階下を指す。
「狩猟祭、もうすぐはじまるそうよ。下に皆が集まっているわ」
「わかった。起こしてくれてありがとう」
 その言葉に階段を降りれば、ジタンやビビ、スタイナー、そしてフライヤの姿があった。傍らにはリンドブルムの兵士が控えており、手には何かをメモする為のリストとペンが握られている。
「ハクエ、随分とうなされていたみたいだけど大丈夫か?」
「うん。心配させちゃってごめんね、大丈夫よ」
 ハクエが寝ていた為に下で待っていたのだろう。ジタン達の言葉になんでもないと首を振れば、それ以上の追求はなかった。
 一行が揃ったのを確認したリンドブルム兵士が口を開く。
「では、揃った所で説明をはじめましょう」
 リンドブルム兵が説明してくれた狩猟祭のルールは、ハクエが知っている通りだった。
 城下町に放たれた魔物を討伐する事でその魔物に割り振られたポイントを獲得する事ができ、制限時間内にどれだけ多くのポイントを集められるかを競う祭りだ。一位を獲得した者にはハンターの称号と希望する褒賞が与えられるという。
「望みの品はもうお決まりですか?」
「ああ、オレはやっぱギルだぜ!」
「私はアクセサリにしようか」
 筆記体制を取った兵士に、ジタンは意気揚々と褒賞の希望を告げた。
 続いてフライヤも希望を述べ、兵士はそれらの要望をさらさらと書き留めていく。
「じゃあ、私は防具……外套をお願いしようかな」
 流れに乗ってハクエも希望を口にした。特にこれといって欲しいものはなかったのだが、そういえば一段落ついたら外套を新調しようと思っていた事を思い出し、それにする事にした。
 以前ハクエが身に付けていたものは、長旅に耐えうるため、また自身の体格に合わせるためにと、採寸からのオーダーメイド品だ。
 宮廷の縫製職人ならきっとより良い物をしつらえてくれるだろう。
 オーダーメイド品はそこそこ値段も張るために、できれば一位を獲得して節約を図りたいところだ。
「ビビ選手は何にしますか?」
 そんなハクエの切実な財布事情も露知らず、リストに希望品を書き連ねた兵士は次にビビへ顔を向けた。
「え、えっ! ボクも出るの!?」
 驚いて仰け反るビビ。そんなビビに、ジタンは悪戯に笑いかける。
「おまえならイイ線いくと思ってオレがエントリーしといてやったんだ。黒魔法があればどうってことないって。なっ?」
ちょっとどころかかなり強引なジタンの言葉であるが、ハクエは心の中で小さく同意した。
 普段おどおどと引っ込み事案でいるビビは、しかし魔法の腕は一人前だ。年端も行かぬ小さな体躯でありながら、幼い声で詠唱し杖を振る姿は立派な魔道士そのもので、事実その威力には目を見張るものがある。
この機会に、過小評価している自分の才能と向き合ってみるのも良い事だろう。けれど、ビビは往来の性格が超が付くほど内向きのようで、ジタンの言葉にもおどおどと尻込みをしてみせている。
 そこがまた庇護欲を掻き立てて可愛いところなのだが、そう思うのはハクエがちびっ子大好きな性格だからだろうか。
「で、でもぉ〜」
「相変わらず勝手じゃな」
「そうだ!」
 強引なジタンの言葉にフライヤが溜め息を吐くが、どうしてもビビに狩猟祭に出て欲しいらしいジタンはお構い無しだ。何かを閃き、ビビにこそこそと耳打ちをする。すると、余計にビビは仰け反った。
「お、お姫さまとデート!?」
 思わずといった風に上がったその声に、全員の視線が集まった。
 お姫さま、とは、間違いなくダガーの事だろう。一体、ジタンはこの幼気な子供相手に何を吹き込んでいるのだと、ジタンに白い目を向けていたハクエがちらりと階上にいるダガーの様子を伺えば、きょとんと首を傾げている。
 ダガーの名前が出たとなれば黙っていないのが一人いる。彼はがしゃがしゃと鎧を鳴らしながらジタンに詰め寄った。
「むむっ! なんだ、今、姫さまがどうとか聞こえたぞ! またよからぬことを!」
「なんでもないって、なあ、そうだろ、ビビ?」
「う、うん!」
 面倒なのがやってきた。そう隠すことなく表情に出したジタンははぐらかし、ビビに同意させる。
 小さなとんがり帽子がひとつ縦に揺れると、そのやり取りを見ていた兵士がコホンと咳払いをして催促をした。
「どうなされますか?」
「あっ、じゃあボクはカードを……」
「わかりました。ギル、アクセサリに外套、そしてカードですね」
 さらさらとリストに褒賞のメモを書き連ねた兵士は、そこで一つ頷いた。
「そろそろお時間です。ジタン選手とハクエ選手は劇場街、フライヤ選手は工場区、ビビ選手は商業区へ向かってください」
「よっし、いくか!」
「応援よろしくね、ダガー」
「がんばってね、みんな」



 昨日の昼間と同じように、ジタンと同じエアキャブに搭乗する。
 今回の行き先は工場区ではなく、リンドブルム兵に指定された劇場街だ。
 レール上を滑らかに走るエアキャブから見下ろす街並みに人影はなく、代わりに小型の魔物があちらこちらを徘徊していた。
 ファングやムーが街中を我が物顔で駆けまわり、街灯の上ではトリックスパローが羽を休めている。
 索敵の際に少しでも優位に立てるよう、ハクエは劇場街を走り回る魔物たちの大まかな現在地を頭に叩き込んだ。
 そうして徐々に近付いて来る街並みを眺めていると、ジタンが隣に立った。
 こちらも昨日の昼間と同じ立ち位置ではあるが、その手には既に盗賊刀が握られている。
 黒のワルツ戦で手にしていた短剣ではない事から、恐らくはリンドブルム城下街で新調したのだろう。真新しい刃が眩く煌めく。
「ハクエちゃんと一緒のスタート地点かぁ、これは負けてらんないぜ」
「私は手加減しないわよ? ヘンに遠慮なんて見せたら許さないんだから」
「おっと、これは一筋縄じゃいかなさそうだ」
 互いに冗談めかした口調をしているものの、交わす視線には小さな火花が散っている。
 ジタンをちらりと見上げたハクエもまたガンブレイドを手に収め、真新しいマガジンが装填されている事を確認する。
 もう、安全装置も外してしまった。あとは獲物を見つけ次第、引き金を絞るだけ。
 エアキャブが各区間に到着し、ハッチが開いた瞬間から狩猟祭はスタートする。
 スタートダッシュが切れるように搭乗口の目の前に立ったハクエに、ふとジタンは背後から声を掛けた。
「なぁ、ハクエ……」
「なに? もうすぐ始まるわよ」
 このタイミングで妙に畏まった声色をして話しかけてくるものだから、ついハクエは振り向いてしまった。
 その間にもエアキャブは速度を落とし、劇場街のプラットホームに滑り込もうとしている。
「オレがこの狩猟祭で優勝したら、一つ聞いて欲しい頼みがあるんだけど」
「優勝したらって……一応、聞いておいてあげるけど」
 窓の向こうには劇場街のプラットホームが見える。
 そして、プロペラを停止させたエアキャブは到着を知らせるブザーを鳴らした。
 その瞬間、ジタンはハクエの肩を引き寄せ、耳元で囁く。
「この狩猟祭でオレが優勝したら……オレと、デートしてくれないか」
「えっ……?」
 予想だにしなかったジタンの言葉にハクエが目を瞬かせた時、エアキャブのハッチは開かれた。
 それと同時にハクエの肩を離したジタンはするりと扉を潜り、盗賊刀を構えると素早くプラットホームに駆け下りた。勢いをそのままに駆けて行く。
「じゃ、そういうコトで。オレから行かせてもらうぜ!」
「へ? ……あ、ちょっと!」
 自分の隣をすり抜けて行くジタンを見送ってしまったハクエが我に帰った時、既にジタンは出口に差し掛かっていた。
「やってくれたわね、ジタン……!」
 完全にジタンに出し抜かれてしまった事に気付いたハクエは強く歯を噛んで駆け出した。
 スタートダッシュを決めるつもりが、完全にしてやられた。その事に対して憤りを感じていたハクエは、ジタンが耳元で囁いた言葉の内容などあっという間に忘れていくのであった。

 ハクエがエアキャブ乗り場から劇場街に躍り出れば既にジタンの姿はなく、あちらこちらで魔物がうろついている。
「もう、絶対ジタンなんかに負けないんだからッ! こうなったらワンショット・ワンキルでいくわよ!」
 ハクエの姿に気が付いたファングが駆け出すのを視界の片隅に収めながら、ハクエは眉間に指を当てて両目を閉じた。小さく深呼吸をし、瞠目する。
 それはハクエなりの集中力向上のスイッチだった。ジタンに乱された心が整うと同時にすうと意識が冴え渡り、射程範囲にやってきたファングの急所が良く見える。
 勢い良く引き金を絞れば狙い通りの箇所に弾丸が撃ち込まれ、甲高い悲鳴を上げてファングが倒れた。ハクエの宣言通り、一撃で。
「よしっ!」
 次なる獲物を求めて駆け出すハクエ。
 地を駆けるファングやムーは当然の事、すばしっこく宙を舞うムーだってハクエの銃剣があればただの的と成り果てる。
 そうして順調にポイントを稼いでいくが、時折挟まれる放送によると一位はフライヤのようだった。けれど、追い付けない点差ではない。
 劇場街に放たれたモンスターを粗方倒し終えてしまったハクエはエアキャブに乗って更なるポイントを稼ぎに繰り出した。向かう先は商業区だ。
 エアキャブの中でマガジンの取り換えを手早く行い、今度こそハッチが開くと同時に駆け降りる。
 リンドブルム狩猟祭の制限時間はあまり長くない。エアキャブに乗って移動している最中にも、他の参加者は魔物を倒しポイントを稼いでしまっているだろう。
 そろそろ一発逆転を狙えそうな獲物を見付けてしまいたかった。ムーやファングを撃ち倒しながらハクエが街中に目を凝らしている、その時。
「きゃ〜〜〜!」
「たすけて〜〜〜!」
 幼い悲鳴がハクエの耳に届いた。
 足早に声の出処に駆け付けてみれば、商業区の噴水広場に出た。
 そこには巨大な魔物が低い唸り声を上げながら蹄で舗装路を削っており、それに追いつめられるように幼い兄妹が震えていた。
(あれは……ザグナル!)
 分厚い毛皮に覆われた巨大な猪のような体躯に、青い鬣。そして、突き出すように伸びた牙と角が恐ろしい風貌を醸し出している魔物の名はザグナル。
 言うまでも無く、倒せばかなりのポイントになるだろう。
 ハクエが幼い兄妹からザグナルの気を引くべく声を上げようとした、その時。
「おいっ! こっちだ! おまえの相手はオレがしてやるぜ!」
「ジタン!? なんでここに!」
「おっ、ハクエもいるのか!?」
 噴水広場の反対側からジタンが駆けて来た。
 ちょうどジタンがやってきた方向からは死角になっていたらしく、彼の隣に駆け寄ればジタンは驚いた様子でハクエを見た。
「さっきはよくもやってくれたわね?」
「ははは、ゴメンって……しかし、デケェなこいつ!?」
 ジタンを横目で睨みながらガンブレイドを構えるハクエに、乾いた笑いを返すジタン。
 二人の声に振り返ったザグナルは、頭部と牙だけで二人の背丈を超えてしまうのではないかという巨体だった。
「ジタン、ハクエ! 助太刀いたす!」
 二人が思わずザグナルを見上げ冷や汗を流していると、にわかにフライヤが降って来た。
 軽やかな動作で二人に並び、くるりと手にしていた槍を一回転させて構える。
「とどめはオレにささせろよ! デートがかかってるんだからな!」
「フフッ…… あきれた奴じゃな、好きにしろ」
「はぁ!? 何言ってるの! 好きにさせないわよ!」
 フライヤの心強い助太刀宣言に返したジタンの言葉に、ハクエは思わず声を上げた。
 殆ど咄嗟に出したような言葉だったのだが、それを聞いたジタンは苦笑する。
「ハクエちゃん、もしかしてオレとデートしたくない……?」
「え、い、いや、そういうわけじゃ、ないんだけど……」
「おぬしら、じゃれ合うのは後にしてもらえぬか? ……来るぞ!」
 明らかな動揺を見せたハクエに、フライヤが喝を入れる。
 その言葉を言い終えるが早いか、ザグナルは三人目掛けて突進してきた。
 ジタンとハクエはそれぞれ横に飛んで避け、フライヤは空高く飛び上がる。
「はあッ!」
 ザグナルの頭上高く飛び上がったフライヤは槍を突き出すように持ち替え、そのまま急降下する。
 飛び上がった勢いと、フライヤ自身の重みを利用した竜騎士特有の攻撃技――ジャンプ。
 脳天目掛けて繰り出されたフライヤの攻撃だが、それを喰らってもザグナルに堪えた様子は見られない。
「ふむ、中々手強いようじゃの」
「なら、これならどうかしら!? ……ピアーシングショット!!」
 まるでフライヤが繰り出した槍のように鋭く放たれた弾丸がザグナルの胴体を撃ち抜く。
 ハクエの攻撃を受け、大きく唸り声を上げたザグナルは大きくかぶりを振ってハクエに突進した。
「うわっ、ちょっと! 危ないじゃない!」
「でも、だいぶ弱ってきてるみたいだな……これならどうだッ!!」
 辺りに地響きが起こる程の突進を大慌てで避けたハクエと入れ替わるようにして、ジタンが盗賊刀を振りかぶる。
 真新しい刃はザグナルの分厚い皮膚を容易に切り裂きダメージを与える。
「ぐおおおおおうっ!」
「ははーん、首が弱いんだな?」
「それは良い事を教えてもらっちゃったわね。いくわよ!」
 ジタンの攻撃に明らかに怯んだ様子のザグナルに口の端を持ち上げるジタン。
 その言葉を拾ったハクエが隙かさずガンブレイドを振り上げ、ザグナルの首目掛けて飛び込む。
「クルエルスラッシュ!」
 ガンブレイドを大きく振りながらその反動を活かし、無慈悲な回転斬りをお見舞いする。
 首元から鮮血を噴出させながら数歩後退したザグナルは、大きく身を震わせたかと思うとその身に電流を帯び始めた。
「うわっ、コイツ魔法も使うのか!」
「ハクエ、離れるのじゃ!」
 帯電した、と思った次の瞬間にはサンダーが放たれていた。
 慌てて横に転がって避けるハクエだったが、間一髪で避けきれずに稲妻が身体を掠める。
「ッつう……! なんで私ばっかり……!」
「ハクエ、下がっておれ! はあぁッ!!」
 電流が走る痛みにハクエが顔を顰めていると、フライヤがザグナルに勢い良く槍を突き立てた。
 突き刺された痛みに怒り狂っているのか、ザグナルが巨体を左右に揺らして彼女を振り落とそうとするが、フライヤはそれに臆すること無くダメージを与え続ける。
「今じゃ、ジタン!」
「よしきた、これでトドメだ!!」
 やがて十分にダメージを与えたと判断したフライヤがジタンに叫び、飛び退る。
 それを見逃す訳がないジタンが身を低くしてザグナルの懐に飛び込むと、勢いをそのままに思い切り首を斬り上げた。
「ぐおおおおおおお!!」
 びりびりと痺れてしまいそうな程の大きな悲鳴を悲鳴を上げて仰け反っていたザグナルは、やがてどうと倒れ込んだ。
 だらりと力なく開かれた口が閉じる事は無く、角と牙の隙間から僅かに見える小さな目は白目を剥いており、気絶している事がわかる。
 その時、狩猟祭の終了を告げる鐘が鳴り響いた。続いてアナウンサーの陽気な声が街中に響く。
『おーっと、ここでタイムアップだー! 気になる優勝者は……198ポイントを獲得した、ジタン選手です!!』
 思わずジタンを見上げるハクエ。
 その視線の先には、肩で息をしながらも誇らしげな表情をしているジタンの姿があった。
「へへっ……オレの勝ちだな、ハクエ」
「もう……優勝おめでとう、ジタン」
「やれやれじゃの」
 肩を竦めながら槍を下ろすフライヤを脇目に、ジタンの手を借りて立ち上がる。
 そして、アナウンサーが今回の狩猟祭のハイライトを口頭でまとめているのを耳に入れながら、三人そろって城へ戻るべく歩き出すのであった。



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