オタクダンサーとブックカフェオーナー 2話




ゾロという男は筋金入りのオタクである。
あらゆるアニメを愛し、「どんなアニメが好き?」と問われれば「どんなアニメも心から愛している」と真顔で答えるようなオタクである。

しかしこのオタク、生活スキルがまるでない。
狭いアパートの部屋は漫画にDVD、アニメのフィギュア、プラモデル、ポスター、その他諸々がぎっしりと詰まっている。細々としたものが大量にあるせいで掃除はあまりされない。
その上寝るのが大好きで、1日中寝ることも可能ではないかと思わせる程寝ている。
睡眠欲が彼の欲の殆どをしめているので食事なかなりテキトーである。
一言で表すなら「ダメオタク」。

そんなゾロにはなかなか変わった友人がいる。

「おーい、ゾロ!」
「おーウソップ。どーしたんだ」
「どーしたんだじゃねぇよ!いい加減家の鍵かけろよお前は。危ねぇって何回言ったらわかんだよ」
「ああ?外出中は鍵かけてんだからいいだろ別にぃ。」
「今入ってきたのが俺じゃなくて泥棒とかだったらどーすんだお前…」
「ぶちのめしゃぁいいだろ」
「ああもう…誰かこいつに世の常識を教えてやってください…」
「んで、何で来たんだ、お前」

無断でゾロの住むアパートにやってきたのはその変わった友人ウソップである。
見た目からして変わっているのだが、この男、何かとゾロの世話をしてくれる。

本人曰く、「こいつほっといたら死にそうだしな!」がその理由らしい。
アニメーターという多忙な仕事をしながらも暇を見つけてはゾロの部屋掃除や皿洗い等をしてくれる。

「お前最近アキバと大会以外ほとんど外出てねぇだろ?」
「ん…まあ、な。」
「この間いい店見つけたんだ!ちょうど昼時だしよ、気分転換に行こうぜ!」
「…おう」

こんなダメオタクに何故ここまで…と思うかもしれないがウソップはただのお人好しである。
ゾロの友達になってしまったのが運の尽きであった。



「ここだ!けっこうオシャレだろ?」
「そーだなぁ…」

ウソップに半ば強引に連れてこられた店はひっそりと佇むカフェのような店。

うわ…オシャレ…俺こんな格好でよかったかな

家にいるときは適当なTシャツに短パンだけど、外出するときは一応Yシャツにジーパンにメガネ。というダサくもないがオシャレでもない格好だ。

まあ、ウソップも似たような格好だし…大丈夫だろ。

「…いらっしゃいませー」
「2度目もそんな感じなのかよ!」

落ち着いたジャズが流れる店内。
清潔感のあって、飾り気は無いけどオシャレないい店だ。
それと、この中には色んな匂いがした。
コーヒーにタバコ…本の匂い?

そして俺らを出迎えたのは愛想の悪い(この接客、アウトじゃねぇか?)金髪男だった。

「お、今日は連れがいんのか」
「おう!ゾロっていうんだ。ゾロ、こいつがこの店の店長サンジだ」
「ブックカフェ『バラティエ』オーナーのサンジだ」
「…ども」

…ブックカフェってなんだ。

つーか、こいつがオーナー?
無愛想な金髪男が…?…うわ、変な眉毛。ダーツみてぇ。

「と、とりあえず飯にしようぜ?サンジ、この前のやつ2つな!」
「…おう。そこらへん座っとけ」

わかったぞ…
俺はこいつが気に食わない。


「ゾロ…お前あいつと知り合いか?」
「ああ?んな訳ねぇだろ」
「だよな…でもなんかめちゃくちゃ睨み合ってたじゃねぇか」
「そうだったか…?けど、なんかあいつムカつく…」
「ええっ!?初対面なのに?」
「おう」
「なんか、悪りぃな連れてきちまって」
「いや、お前がいい店ってんだから上手いんだろ?ここ。」
「ああ!すんげぇ上手いぞ」

ウソップに連れて行かれる店は必ず上手い。
あのオーナーの愛想が悪くても料理の腕はきっと一流なのだろう。

「…そうだ、なあ、ウソップ。ブックカフェってなんだ?」
「お前、ブックカフェ知らねぇの!」
「…おう…」
「そーだよな、お前そーいう人間だもんな…。まあ、本屋とカフェが一緒になった店みたいなもんだ」
「ふーん…」
「今いる一階はカフェスペース。上には本がたくさんあるんだぜ」
「へぇ…そうなのか」
「色んな本があってよ、面白いんだ!」

だから本の匂いがしたのか…
じゃあ、漫画もあんのか?

「なぁ…」
「残念ながら、漫画は置いてねーぞ」
「あ?」
「ほれ、サンマ定食。」
「おおー!今日も美味そう!!」
「美味そうじゃなくて美味いんだよ」

俺が話す途中から入ってきたのはさっきの金髪ヤロウ。やっぱ愛想悪りぃ…
でも、目の前に置かれた「サンマ定食」はすごく美味そうだ。

…てか、なんでこいつ俺の言いたいことわかったんだ?

「いただきまーす」
「おら、お前もさっさと食え」
「…なんで?」
「あ?」
「なんで俺の聞こうとしたこと…」
「ああ、お前もオタクだろ?本といえば漫画だろうと思ってよ」
「…へえ」
「………冷める前に食えよ」

ごゆっくりぃとやる気のない声で金髪ヤロウはキッチンの方へと戻っていった。

あいつ、やっぱ気に食わねぇ…

「ゾロ、食わねぇの?」
「食う。」
「やっぱ美味ぇなサンジの飯は〜」
「いただきます…」


…美味い。

「な?美味ぇだろ?」
「……ん」

今までウソップに連れてかれた店の中で1番美味い…

定食は白米に味噌汁、サンマの塩焼きと漬物のすごいシンプルな内容。だけどどれも丁寧に作られたのがわかる。
すごい美味い。



…こんなにゾロががっついて食べんの初めてかもしんねぇ
ゾロにちゃんとした飯を食わせるために何度か飯屋に連れていったことがある。
いつも「美味い」とは言っていたけど、ここまで夢中になって食べてんのはなかったぞ…
と、ウソップは思った。

ゾロがサンジの作る料理に一目惚れした瞬間である。


…サンジのことはあまり好印象じゃないみたいだけど。












2人の出会い編でした



Back  Novel  Next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -