オタクダンサーとブックカフェオーナー 5話




「あ、すいませんお客様、今日はもう閉店でして……っ!」
「…まだオープンの札ぶら下がってたんだけど」

ブックカフェの閉店時間は遅い。
ここ『バラティエ』も23時まで営業している。

けど今はその時間から20分は経過していて、そろそろ片付けと掃除をして帰ろうと思ってたところだ。
そんな時に突然の来客。
誰だこんな時間に来る奴は…迷惑なヤロウだなクソがとか思って振り返ったら俺を一週間困らせてきた原因だった。


無愛想なメガネオタク野郎。最初見た時の印象はこうだった。…けど、数日後に再び見たそのオタクは「ものスゴいブレイクダンサー」になっていた。

あの後、俺の頭は大分混乱していた。
ここにいたときはずっとムスッとした顔だったのに、すごく楽しそうな顔で、とても輝いていたのだ。

『あいつ、あんな顔だったっけ…?』
俺はボンヤリと皿を眺めながら、ぐるぐる頭の中で考えていた。

『あんな、綺麗なヤツだったか…?
……!?…オイオイオイ!!野郎相手にキレイとかおかしいだろ俺!綺麗とか可愛いって言葉はレディのためにこの世に存在するんだ!あんなオタク…いや、ダンサーでもあんのか…。つーかあのダンサー本当に無愛想オタクか!?オタクがあんなことするわけねぇだろ!でもあんな髪の色…同んなじ奴だよな…いやでもピアスしてたし…!クッソ、なんでこんなに悶々と考えてんだ!野郎相手に!』

…何度その店で皿を落としそうになったことか。

……何度、料理を焦がしそうになったり、本棚にぶつかりそうになったことか!

「…おい?」
「…お前さ」
「…なんだ?店やってねぇなら俺帰るけど…」
「いや、飯食いに来たんだろ?ちょうどよかった、今度新メニュー出そうと思ってて…じゃなくって!」
「ああ?なんだよ」
「お前、オタクだよな?」
「おう。」
「…ブレイクダンスやってないよな?」
「あ?なんで知ってんだお前」

…やっぱ同一人物だったのかよ!
そういや、よく見りゃ格好があの時と似たような格好だ。ゆるいTシャツにジャージみてぇなハーフパンツ。それとあのどうやっても取れなかったキャップ。ピアスもついてる。

「一週間前のショッピングモールのイベントに出てたろ」
「…あぁ、出てたけど。…なんだお前見てたのか?」
「たまたまだ。お前あの時1番歓声もらってたよな」
「…つーか俺腹減ってるんだけど…出してくれんなら早く飯くれよ」
「人の質問に答えろよ!…そこのカウンター座れ」

素直にカウンター席に着く。
新メニューは少し小さめのハンバーガー。本を読みながらでも食べられるように、小さめで、掴んでもバンズからはみ出さないようソースは少なめになっている。
自信はあるがまだ従業員の少ないこの店ではまだ俺以外に試食していない。だから他の奴に食べさせたいと思ってたところだ。

こいつ…こんな夜遅くになんで飯食いに来たんだ。
…生活リズムどうなってんだ?

「…まぁ、けっこう色んなとこで踊ってっからな」
「へぇ、何、海外とか行ったりしてんのか?」
「…おう。この前ドイツ行ってきた。…お、うまそー」
「ドイツ!?…お前かなりすごいダンサーじゃねぇの?」

ダンスでドイツまで行くって…やっぱこいつダンス界では只者じゃねぇんだな…

……あれ、この前店来た時はこんな感じじゃなかったよな…?
美味そうなんて言ってなかったし、こんなに喋ってなかった。
愛想は相変わらず悪いけど。

「多分、それなりに。」
「なんだその他人事みてぇな言い方は…。…ほれ、まだ未発表のメニューなんだからな、特別だぞ。」
「いただきます」

ガブリ。とデカい一口で小さめのハンバーガーは半分以上こいつの口の中に持っていかれた。
…やっぱり食いっぷりはいいな。

「つーかさ、お前、なんでこんな夜遅くに飯食いに来たの?」
「………そりゃ練習してたからだろ」

前と同じように、頬を膨らませながらハンバーガーを噛み砕き、ゴクンと呑み込んで、一緒に出したコーラを飲んでからそう言った。

「ダンスの?」
「ああ。……お前、さっきから質問ばっかだぞ」
「うるせぇ。お前色々と面白い人間だからよ、質問したくなんだ。」
「…ふーん」

…あれ、なんで俺こんなにこいつに興味持ってんだ?
いや、まぁ…オタクでダンサーって変わった奴だし。
大体の奴が興味持つよな、うん。

…ってなんでこんな言い訳じみたこと考えてんだよ!
意味わかんねぇ俺!!

「お前…なんか俺に質問ねぇの?」
「…んぐ……別に…つーかこれなんでこんなちっさいんだ?全然もの足りねぇ」
「ないのかよ!…ここは本読みながら食う客ばっかだからちっさい方がいいんだ。おかわり、いるか?」
「ん。……あ、」
「あ?んだよ」
「お前、そういや日本人か?」
「ふはっ…んなことかよ。ああ、ちょっと外国の血が混じってるが一応日本人だぜ。…はい、おかわり」
「サンキュ、…その眉毛は?」
「テメェ……これには触れんじゃねぇよ!生まれつきだ!!」
「それ、スゲぇ面白いな」
「褒めてねーだろ!!!」
「おう。」
「蹴り倒すぞテメェ!」

…前言撤回、やっぱムカつく野郎だこいつ!!
何こんな奴に綺麗とか思ってたんだ!

「…………お前、なんか面白いな」
「眉毛のことまだ言ってんのか!?」
「いや…お前自身が」
「…はっ?」
「……ゲッ、あと少しで終電だぞ!」
「何ッ!?テメェのろのろ食ってんじゃねぇよ!」
「違ぇよ、お前が色々質問してくるからだろ!」
「ふざけんな!そもそもなんで、こんな夜遅くに来んだよ!皿寄越せ!」
「たまたま練習してたとこの近くだったし、美味かったからだ!金はいくらだ!」
「なっ…!?」

俺の作る飯美味いからわざわざ来たのかよ…!?
なんだよ、それ…!

「おい…?何ボケっとしてんだ?飯代いくら払えばいいんだ?」
「…いや、金はいい…」
「あ?なんでだよ」
「試作品だから…って、んなこと話してねぇでさっさと店閉めて帰るぞ!金はいらねぇからな?お前外で待ってろ」
「お、おう…」

あれ、なんで一緒に帰ることになってんだ?

……ああ、もう、んなことより片付けしなきゃいけねぇんだよ!
掃除は明日の朝にやるしかねぇな…
クソっ、なんでこんな野郎に俺のペース崩されなきゃならねぇんだっ!



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