オタクダンサーとブックカフェオーナー 4話




俺が経営する店、『バラティエ』は1年程前オープンしたばかりのブックカフェだ。
都内某所にひっそりと店を構えており、まだ客は少ないが確実に増えつつある。

1階にカウンター席が10席、テーブル席が5つ、大きな窓に沿って置かれた席が4つ。本は数百冊程度。
2階は図書館のごとく本棚がぎっしりと立っていて、その中にパンパンに詰められた数多の本。数は万は軽く超えている。申し訳程度の数のイスがちらほらと置かれている。
外は緑が多いので、テラス席を2つほど。
店内はなるべくシンプルに、落ち着いた雰囲気。洒落たジャズを少しボリュームを落として流している。

他のブックカフェと大差はないと思われるが、ウチのは料理の味が違う。


俺の家はずっとコックをやってきた。親父も、ジジイもその親父も……
ホントかどうかはわからねぇが、昔はある大名の専属の料理人をしていたらしい。
俺もその先祖たちと同じコックとして独立することをずっと夢見てきた。

27になってようやくジジイから許しを貰った俺は、都内であるにも関わらず、安くてよい物件を見つけた。
都会の喧騒が遠い、静かな街。お洒落な店が多くあることでも有名なところだ。
そんなとこで店を構えられるなんていいスタートだ!と喜んでいたが、現実はそう甘くなかった。

そこは2階建ての小さな建物。
規模はまぁ、いい。1階も問題はない。
…2階が…どうしたもんか…。
1階と比べ天井が低い。それと、1階のようなデカい窓がない。以前は物置として利用されていたのだろう、小さな窓が天井近くの壁に1つだけしかない。それからコンセントが1つもない。

2階建てと最初聞いたときは「そこにも席を作って、1階よりゆったりできるスペースにしよう!」と意気込んでいたのに…。
これでは息苦しくてゆったりなんかできやしない!

前、ここで何をしていたかは知らないが、俺はレストランを経営するんだ、物置を客に見えてしまうようなところに配置するわけにはいかない!
…でも、これのほどの好物件を見逃すのも辛い…。
そんなジレンマに苛まれていたとき、俺に女神が舞い降りた。


「あれ、ロビンちゃん!久しぶり!いつ帰ってきたんだい?」
「お久しぶり。つい2日前に帰ってきたばかりよ。」

店が出来るまではここで働けと許してもらえたにも関わらず、俺はジジイの店で働いていた。
悩みながらもそこで支給の仕事をしていたとき、閉店間際に馴染みの美人がやってきた。
その美人の名はニコ・ロビン。世界中の遺跡を渡り歩く考古学者だ。

「今回はどこに行ってたの?」
「アフリカよ。もう4度目になるけどあそこはいつも新しい発見があるわ」
「なにか面白い発見あったかい?どうぞ、コーヒーです」
「ありがとう。…そうね……それより」
「ん?どうかしたの?」
「サンジ、あなたもう店を構えたんじゃなかったの?」
「あ、あー…それがさ…なかなか物件が見つからなくて……いや、いいのはあったんだけどちょっと問題があって……」
「そうだったのね…聞いてしまって悪かったわ」
「ううん、そんなことないさ。…ちょっと聞いてもらってもいいかな?」
「ええ、構わないわ」

ロビンちゃんは年上の美しい方でどこかミステリアスなのに、優しい雰囲気を持った人だ。
ロビンちゃんなら何かいいアドバイスをくれるかも、とついつい相談してしまう。

「場所はとてもいいし、安いし、1階は窓が大きくて開放的なんだ。…でも、2階が物置部屋みたいでカフェスペースにしようと思ってたんだけどちょっと無理そうなんだ……やっぱり他のところにした方がいいのかなぁ」
「…ねぇ、その2階、本棚を置けるくらいの場所はある?」
「え…?う、うーんとあることはあると思うけど…?でも、どうして…」
「サンジ、そこ、ブックカフェにしてみない?」
「…ブック、カフェ?」


この女神のおかげでブックカフェ『バラティエ』はオープンすることになった。



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