ギンコとしんらは庭先の木の下にござを引き、真ん中についたてを立てた。ついたてを挟んで両側に座る二人。そしてそれを見守るようにギンコの後ろに離れて立つ雛。しんらは事前に言われた通り紙と筆を用意していた。

「描くとこ見ちゃ駄目だよ?」
「わかったって。じゃあ、しんら。さっきしたばあさんの話の宴の中で、ばあさんが蟲に貰った杯を、左手で描いてみてくれ」

「え?でも、形とか聞いて無いよ」
「いいんだ、それで。想像で描いてみてくれ」
「想像…」
「描ける筈だ。ばあさんが受けた杯の半分は、子から孫へと体内で受け継がれて行くものだから」

少しの間をあけ、ギンコが腰を上げた。

『…ギンコ』

雛が声を掛けるとギンコは、しぃ、と面白そうな表情をして口に人差し指をあてた。

「見るなって言われたら…見んわけにはいかんだろう。やっぱり 」

ついたての障子に指で穴を開け、隣のしんらの様子を覗き見るギンコ。
しんらが左手で持つ筆には、徐々に変化が現れていた。
筆の周りに緑色のもやがかかってきたと思うと、もやは筆の先に吸収され緑色の墨になった。

「…緑…のような気がする。この国の…緑のような、濃くて鮮やかな…それで、平たくて…丸いかたち」

しんらは緑色の墨がのる筆で、丸いかたちの杯を丁寧に描いた。

「ご名答!」

ついたてに手を掛け立ち上がったギンコ。
しんらの描いた杯は紙から浮き出て、本物の質量を持つ杯になった。

「…すげー」
「あ…割れる」

緑の杯は真っ二つに割れた。
すると半分はそのまま残り、もう半分は空中へと霧散した。

「廉子」

ギンコが木の上にいた廉子に呼びかけると、半欠けの杯が落ちてきた。
それを受け取るギンコ。しんらは何もいないように見える木の上を仰ぎ見て問いかけた。

「そこにいるの?…ばあちゃん」
「併せるぞ」

ギンコは廉子から受け取った半欠けの杯と、しんらが描いて実体化させた、もう半欠けの杯を併せる。
杯は寸分の狂いなく合わさり、欠けの無い一つの杯になった。
すると、杯から金色に輝く液体が溢れ出し、杯を満たした。

「なんだ?…これ」
「さぁ、飲んでみろ。廉子」

いつの間にか木から降りていた廉子は、ギンコから杯を渡される。
廉子は杯に満たされた金色の液体をゆっくりと飲み始めた。
すると、徐々に廉子の体がしんらの目にも見えだしてきた。
自分の知っている年老いた祖母ではない、少女姿である廉子の鮮やかな容姿に、唖然と見惚れるしんら。廉子もどこか照れくさそうだ。

「…ばあちゃん?」
「…うん」
「何照れてんだよ?お前ら」
「えぇ!?いや、だって、思ってたより若かったっつーか」
「ほら、お前もいっとけ。祝いの酒だ」
「うん」

ギンコから手渡される緑の杯には、一度飲み乾したにもかかわらず、また金色の酒が満たされていた。酒を一口飲むしんら。

『……』
「お前はやめとけ」

じっとしんらの持つ杯を見る雛の頭に手を置いて、ギンコが静かに言った。

「…しんら?」
「あれ?…どうしたんだろう?僕…」

それから、しんらの涙は止まらなかった。
廉子の感情、感覚がつぶさに流れ込んできたのだと言う。ただ、ただ、杯が割れてしまったことが、悲しくて仕方なかったのだと言う。
そして、それに感応するように、光酒も杯から湧き続けた。
とめどなく、流れ続けた。


- 28 -

[*prev] [next#]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -