「寝たか…」
『……』

ギンコは床に寝転んで眠ってしまったしんらに何か掛けてやれ、と雛に言うと厠に行ってくる、と部屋を出て行った。
雛も部屋を出、他の部屋に毛布等の何か掛けられるものがないかと探しに行く。

『…ギンコ』

微かだが、離れたところからギンコの声が聞こえた。自然とギンコの元へと向かいそうになり、部屋を一歩出たところで気が付いたように止まった。見つめた先には廊下が続くが、真っ暗で何も見えない。静かで暗いこの家は、どこにいても何かが出てきそうで不気味だ。
雛は目の前の部屋に毛布が畳んであるのを見つけ持ち上げて部屋に戻り、しんらに掛けると、思い出したかのように未だ部屋に戻らないギンコを探しに部屋を出た。

『…ギンコ』
「ああ、来ちまったか。廉子、こいつは雛だ」
「…そいつは、ヒトか?…変わったものを感じる」
「ああ、れっきとしたな。…まぁ少し、変わってはいるがな」

ギンコは雛を意味ありげな表情で見ると、口角を上げた。

『廉子は…どっち』
「……」
「さすがにお前は分かるか」

お前にも話しておきたいが朝が来たらしんらにも説明しよう、とギンコは言い、今日は一休みすることにした。



* * *




翌朝、ギンコとしんらは縁側沿いの部屋にいた。

「ばあちゃんがまだ、この家にいる?」
「と言っても、無論、人としてではないがな。人と蟲の中間のモノとしてだ」
「……どう言う…こと?」

しんらが目を見開いて言った。

「"蟲の宴"という現象がある。時に蟲が人に擬態し、宴に客を招くってモノだ。そこで人は杯を手渡される。そして注がれた酒を飲みほすと、生物としての法則を失う。つまり蟲の…あちらの世界の住人となる」
「ばあちゃんが…それに?」
「あぁ。しかし宴は途中で中断されてしまった。おかげでお前のばあさんは蟲にならずに済んだが、家に戻ったばあさんはもう、以前のばあさんでは無くなっていた。半分を、あちら側に置いてきてしまったんだ。しんら。お前の知ってるばあさんは…半分でしかなかったんだよ。けど、そのもう半分も同じように、お前が生まれた日からずっとこの家の中で見守ってたんだ」

ふと、ギンコが隣に座る雛の頭をぽん、と叩いた。

「そんな…全然気付かなかった…」
「彼女は完全な蟲ではないから、お前には見えんのだ。だが、お前の力を使えば、ばあさんを完全な蟲にすることが出来る。そうすればもう、決してこちら側に戻ることは出来ないが…」

しんらは思い詰めた表情のまま、畳を眺める。

「ばあさんの迷いは、そう長くはなかったよ。…力を、貸してやれるな?しんら」
「…うん」


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