その後、なぜか私たちは定期的に食事をする仲になった。
三度目に会ったとき、今日もおごって、という彼の冗談を私が真に受けたせいだ。
ただし、それからは割り勘になった。
いつ会えるかわからない相手だったが、そのぶん気構える必要がなくて楽だ。

「今は授業で山月記やってる。中島敦」

「それすごい好き。三冊持ってます」

「なんでそんなに」

「装丁が違うの、見かけて欲しくなって」

ふぅんと彼は呟き、パスタをくるくるとフォークに巻き付けた。

見た目に反し、話してみると本当に国語教師だ。
近くの高校に勤めているらしい。
正直熱意も思いやりも見られないが、私のような人見知りの話も丁寧に聞いてくれる態度を見れば、なるほど、先生だなぁと思う。

「なに?」

「いえ、生徒に人気ありそうだなぁって」

「俺が?まさか」

鼻で笑って一蹴されたが、でも、本当に生徒に好かれそうだと思う。
一見近寄りがたいけど、気取らなくて話しやすいし、顔も怖いがかっこいい。

「羅生門やってから、芥川って呼ばれてるよ」

「あ、やっぱり」

「まぁ実際芥川から取った名前らしいんだけど」

「ご両親が好きなんですか」

「父親がね。俺は高校まで全然本なんか読まなかったけど」

そうなんですか、と相槌を打った私の顔を、彼はじっと見つめた。
私は目を瞬かせて、少し怯む。

なに?
なにか悪いこと言った?

すると、彼は微かな溜息とともに視線を落とした。

気を悪くすることを言っただろうか?

しかし、特に彼が気分を害した様子もなく、その後はいつもどおり、夕食を終えた。
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