市場を歩き回り、広場で芸を見て小一時間。休憩に茶屋へ入る。
店の中でも興味津々にきょろきょろしている帝をやんわりたしなめて、奥の席に通してもらった。
勢いで連れ出したものの、思いのほか気分転換にはなっているようだ。

「寒かったでしょう。まずは温かいものでも」

そわそわと落ち着かない帝のために、適当に飲み物と甘味を注文する。
彼女は食べ物が運ばれてくるまで、窓に張り付いて外の景色を眺めていた。

「こんなふうに町に下りるのは初めてですか」

「ええ。ほとんど神殿での生活だったから。お兄様方は、こっそり抜け出したりもしていたみたいだけれど」

帝は悪戯っぽく笑って、唇に人差し指をあてる。
俺は苦笑して、聞かなかったことにしますと言った。

胡麻団子と花茶が運ばれてくると、帝はたいそう喜んだ。
どこにでもありそうな安っぽいものだが、彼女の目には新鮮に映るのだろう。

「……こういうの、ずっと憧れていたんです」

団子をひとつ口に運び、お茶を飲んで、帝は照れくさそうに笑った。
俺は茶器を持つ手を止めて首を傾げる。

「仰って下されば、いつでも鳴迅に交渉致しましたのに」

「小心者だから、勇気が出なくて」

帝らしい、と俺は笑う。
こうして強引に連れてくるような誰かは、きっと神殿にはいなかったのだろう。
そんなふうに考えて、いかに自分が無謀なことをしているか思い知って、笑みが苦くなった。

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