市場の前で馬車を降りる。
がやがやと活気のある様子に、帝は圧倒されて目をきょろきょろさせている。

「馬車から見るのと全然違うのですね」

「大丈夫ですか。疲れませんか」

「いいえ。歩いてみてもいい?」

頷くと、帝は嬉しそうな顔をして市場の中へと歩き出す。
俺は腰に引っ掛けた短刀を上着の上から確かめ、用心深く後に付いていく。

傷ひとつ付けないよう、細心の注意を払わねば。

俺の決意とは裏腹に、市場は賑わい、帝は陽気な足取りで進んでいく。

「見て、綺麗」

「山のほうの少数民族の織物ですよ。珍しいものを仕入れてきて、街で売っているのです」

「鳥もいるわ。動いてる」

「勿論、生き物も売っておりますよ」

「あれは何?美味しそうね」

先程の不安気な表情はどこへやら、帝はあらゆるものに興味を示し、目をきらきらさせて店を覗いていく。
美味しそうだと言ったおやつをひとつ買い、お腹を壊さないでくださいねと差し出すと、子供のようにこくこくと頷いて口に運んだ。

「この組紐は?」

あちこち軒にかかる真紅の紐を、帝は不思議そうに指先で撫でていった。
飾りのように編まれた色とりどりの紐は、軒先に下げられているだけでなく、店棚に並び、または市場の人々の首や手首に掛けられている。

「お守りですよ。ひとつひとつ編んでいるんです。形が違っているでしょう。商売繁盛、家内安全、それぞれ意味が違うのです」

「……そうなの」

何やら感慨深い顔で、彼女は頷いた。

先に行く彼女を横目で見ながら、俺はそれをひとつ買った。
この極秘の散歩が無事に終えられますように、と柄にもなく願いを込めた。

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