獣の姿に形を変えて、ヴィムは山の中を駆けていた。
神の記憶を辿って、一刻も早くミレイユの元へ。

初めて、自分が獅子の姿でいられることに感謝した。
この足のおかげで、山の中でも駆けられる。
この目のおかげで、木々の間も遠くまで見渡せる。

ミレイユに関わることならば、身体をのっとられたことだって許すことができるのだ。

この姿にならなければ、彼女と会うことはできなかった。
この姿でいなければ、彼女の側にはいられなかった。
だから、ミレイユがいなくなったのが神のせいだとしても、単純に責めることはできない。

俺は今、この姿でミレイユを連れ戻さなければならないのだ。
神をおさめたこの姿で、ミレイユが必要だと言わなければならないのだ。
俺は俺だと。
神を身に宿したこの俺自身が、ミレイユを必要としているのだと。

息が切れる。
昨夜の雨で足元が滑る。
獣の気配を感じては、焦りが募って平静を失う。

こんな場所で一晩過ごして、何事もなく居られただろうか。
もう昼過ぎだ。
昨日からミレイユは何も食べていないはず。
雨に濡れて風邪などひいていないだろうか。
まだあの場所から動いていないだろうか。
日が傾くまでに見つけなくては。山の夜は早い。

記憶の場所が近づいてきたそのとき、ふと鼻先にミレイユの気配を感じた。
ヴィムははっとして一瞬走る速度を緩め、足元に視線を落とす。

靴の跡。

人の気配。

ミレイユがここにいる。

そして、顔を上げたその先に、ヴィムはようやく探していた場所を見つけた。

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