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金の光が弾けるように部屋に満ちて、ヴィムは目をぎゅっと閉じた。
ぱちぱちと瞬きをする。
目の前にあった姿はもう無い。
その代わり視線の位置が下がっており、すっかり馴染んだ獣の気配を自分の身体に見つけた。
戻ったのか。
一瞬の間の後、現実を理解して舌打ちをする。
あのまま離れてくれれば良かったものを。
しかし、ふっと頭をよぎる記憶があって、ヴィムはそのまま部屋を飛び出した。
闇。雨。山。
大きな木のうろ。
狭くて冷たい景色。
浮かんできたのは、恐らく神が辿ったのだろう道筋。
反射的に城を飛び出そうとしたところを王子につかまった。
「山の中?なぜそんなところに」
ヴィムがミレイユの居場所を告げると、訝しげに首を傾げる。
正直、浮かんだ景色に蒼白になったのはヴィムも一緒だ。
夜の山、女一人で野宿など、無事でいられる保証なんてない。
そこに居てほしいと願う一方、他の安全な場所にいることを祈らずにはいられない。
それ以上何も答えずに黙りこくっているヴィムの様子にひとつ溜息をつき、王子は馬車を手配した。
「まだ走れる状態じゃないだろう。山で一晩明かしたのなら、ミレイユだってそうだ。できる限り急がせる。医者も用意しておくから、迎えて戻ってくるといい」
そう言って王子が出発させた馬車は、彼の言った通り、街を外れてかなりのスピードで走ってくれた。
ヴィムは座席に縋るように爪を立てる。
もう他に何も望まない。
だから、どうか無事でいて。
馬車が走る間、ヴィムはただひたすらそれだけを祈っていた。
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