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王子が部屋を去った後、ふと体が軽くなった気がした。
疲労困憊で仕舞えなかった耳と尾が引っ込んでいる。
人の姿でいられるほどの体力など、どこに残っていたのだろうか。
ヴィムは不思議に思いつつ、足が動くのを確かめて、ベッドから出てカーテンを少し開いた。
窓には水滴が伝っている。
空が暗い。雨が降っている。
「ミレイユ……」
ヴィムは探し人の名を呼ぶ。
どうしてだろう。
昨日まで一緒にいたのに。
隣にいてくれたのに。名前を呼んでくれたのに。
触れて、手を取って、側にいてくれると言ったのに。
どうして今ここにいないんだろう。
ヴィムは冷たい窓硝子に額をつけて目を閉じる。
どうか、ミレイユが雨に濡れていませんように。
寒い思いをしていませんように。
そう祈って、ゆっくりと目を開く。
すると、視界にふと金色が映った。
外は雨。
硝子に揺れるは、太陽のような金の光。
ヴィムははっとして部屋の中を振り返った。
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