「そなたが思っていよりもずっと、あれはそなたを必要としている。この儂が直々に説得しに出てこねばならぬほどに」

神の視線に射抜かれて、ミレイユは瞬きもできぬほどに動けなくなる。

「自信がないのなら儂が認めよう。許しが欲しいなら儂が許そう。ヴィムの傍にいてやりなさい」

動けないまま、ミレイユは答えを返せない。

「まさか、儂の言うことより王子の言うことを優先するわけでもあるまいな?」

「そんなこと……!」

尋ねられて、反射的に声が出た。
神が軽く笑って頷く。
ミレイユは頬を紅潮させた。

「ならば、ヴィムの元へ戻りなさい。命令ならば聞けるだろう」

「ですが」

「まだ問題が?」

「いえ、その……神殿には……」

「あれの好きにさせれば良い。今までも好きにしてきたのだから。儂も閉じ込められているのには飽いている」

神は言って、立ち上がった。
ミレイユも慌てて腰を浮かせる。

「そなたはここで待て。雨が酷い」

「神様、は……」

「問題ない。ではな」

短く言って、神は呆気なく木のうろから出て行った。
ミレイユは慌てて外へ顔を出し、深く頭を下げる。

「有難うございました……!」

その声は届いたのか届かなかったのか、神が振り返ることはなかった。
あっというまに雨に姿を掻き消されて、金の獣は見えなくなった。

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